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じいちゃんの左手 その46

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『豆まき』

じいちゃん 今日は豆まきだね

「そうじゃのぉ
 さっき ばあさんに言われて 
 ヒイラギにイワシの頭 飾ったから 手が生臭くなったよ」

じいちゃん 消毒! 消毒!と言いながら ワンカップを一気飲み
それで 手の消毒になるのですか・・・

うちの節分は 落花生を撒きます
ばあちゃんが 煎ってくれた 殻のまんまの落花生
一個に2つの豆が入ってるから 鬼退治には 最強のアイテムだ

「でも・・・ どうして豆をまくんだろう?」
さっそく じいちゃんに聞いてい見た

「知っとるよー」
落花生をつまみに 
早くも3本目のワンカップを空けていた じいちゃん
突然!
鴨居に飾られた般若の面を顔につけると
Pon Pon 言いながら くるくる三回転! そして・・・

「ひとつ! ひとのよぉ イーチコすすり・・・」
なっ・・・イーチコ?

「ふたーつ! 不埒にギョウザ 三枚!」
ギョウザ?・・・

「みっつ! 見にくい後ろの鬼を 退治てくれよう桃太郎!」
なんか ちょっと違うような気がすると
思っているのも束の間
じいちゃん 
確認せずに 背後に落花生を投げつけた あぁ・・・
そこには 手作りの恵方巻を手にした ばあちゃんが・・・

「という訳だ・・・」
じいちゃん 全く気付いてない

「人のイーチコを勝手に飲んで 
 誰にも聞かずに ギョウザ3枚も注文しちまうような鬼を
 桃太郎侍は 投げ銭で退治するじゃないか! 
 だから 鬼は 丸いものに弱いのだ!」

じいちゃん・・・
高橋英樹さんと大川橋蔵さん(銭形平次)が 混ざっている・・・って 
そんなことより 
何で桃太郎侍が 宴会の愚痴を 叫ばなきゃいけないの・・・ 

Pufaaaaaaaaaaaaa
と煙を吐いて やり切った感の じいちゃん 

ねぇ ねぇ・・・
後ろで
口に三味線の糸をくわえた ばあちゃんが にこっり笑ってるよ 

Geeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee

♪ 僕は こっそり逃げていく・・・ ♪


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