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じいちゃんの左手 その47

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『 タバコ 』

2月18日・・・ 
じいちゃん 今年も機嫌が悪い

何故かって・・・
僕んちの畑を含めて このあたりは たばこ農家がいっぱいあるんだけど
今日は 嫌煙運動の日なのです
タバコが 健康に問題だって言われても 農家にとっては 
大切な生産物・・・
誰に向かって 文句を言えばいいのかわからない じいちゃん
お昼に出た ギョーザを肴に 
ワンカップを飲みながら むっつり

八つ当たりされないように 
存在感を消して 静かにマンガを読む僕 すると・・・

「お主! タバコって 漢字で書けるか!」

来た!

「もっ もちろんだよ!」
少しびっくりしたけど マンガの余白に「煙草」を書いた
僕だって ちょっとは 勉強しているのだ! でも・・・

Haaaaaaaaaaaa・・・と ため息の じいちゃん

「そんなのじゃなくて! ちゃんとしたほう!」 だって!
漢字に ちゃんとしたほう なんてあるのかな と思っていると
じいちゃん 左手のわかばを 灰皿に押し付けて
僕が握っていた鉛筆をむしり取った
 
草カンムリに 良・・・ ” 莨 ”

「これがタバコじゃ!
 見ろ! 良い草って書くのに なんで みんなタバコを嫌うんじゃ!」
そう吠えると 
左胸のポケットから わかばを取りだそうとした でも・・・ 
箱の中身は空っぽだったみたい・・・

Chi!! 
と舌打ちしながら ワンカップを一気飲み

「タバコ~! それと・・・ 酢も無いぞ~!」
大声で ばーちゃんを呼んだ

じいちゃん・・・ 辛いのはわかるけど・・・
そんな言い方して大丈夫? 
ちょっと心配だったけど にっこにこの ばあちゃんがやってきて
ほっとした

「はい はい! どうぞ!」
たばこを 手渡しすると 
ばあちゃん ギョーザに 酢を振りかけた・・・?
でも・・・ なんか赤くない? 

「やっぱり コイツにゃ 酢がないとな!」
じいちゃん 口の中に ギョーザを放り込んだ

その瞬間! 

「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

夕焼けに向かって
家路につく からすのように じいちゃんが 啼いた 

あぁ ばあちゃん・・・  
タバコと・・・ 酢で タバスコ でしたか・・・

その日 笑顔のばあちゃんが 一番怖いことを学んだ

♪ 煙草の唄 ♪


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