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記号過程、システム、意味

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人間と自然、人間と機械、人間とAI 対立するふたつのもの それらはなぜ対立するふたつのものになったのか? その答えを「記号過程」という用語を手がかりに考える
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2019年2月の記事一覧

言語にはじめて憑依される瞬間ー読書メモ テレンス・ディーコン『ヒトはいかにして人となったか』(2)

 一週間ほど、子どもが扁桃炎で入院した。  いまはすっかり快復して、大きな声で遊んでいる。  しばらく続いた高熱と、はじめての入院。まだ11ヶ月の小さな子にとっては自分自身の内界と外部の環境の両方が同時にぐらぐら変容するという、人生上稀に見る経験だったことだろう。  そのせいか入院中に、急に言葉が出るようになった。  「ママ」くらいであれば、しばらく前から思いついた時に時々声に出していた。それが入院中に「発話の使い方をひらめいた」という様子である。  繰り広げられた

C.S.パースのイコン、インデックス、シンボルと、脳と記号過程 ー テレンス・ディーコン『ヒトはいかにして人となったか』を手がかりに

テレンス・ディーコンの『ヒトはいかにして人となったか』を読んでいると、パースの記号論が取り上げられていた。 『ヒトはいかにして人となったか』では、人間の言葉と動物の叫び声やジェスチャーとの「違い」を問う、という問題を立てて、人間の言葉とは何かをあぶり出していく。 パースの記号論はこの違いを理解する鍵として参照される。 * パースの記号論は、イコン、インデックス、シンボルを区別する。 ディーコンはこのイコン、インデックス、シンボルという記号の三つの姿から、人間の言語が

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青銅器の呪術を「脱魔術化」した漢字という文字メディア

 前回のnoteで、旧石器時代から古墳時代までをひとかたまりに考える、というお話を紹介した。そして古墳時代の前と後を区切るもの、それは文字である、と。  文字の導入によって、古墳時代の後半に、日本列島の何かが、大きく切り替わったのである。  何が変わったのかというと、人びとをまとめる権威の源泉を保存しておく技術が変わったのである。それはつまり古墳から文字への交代である。 日本列島に入ってきた文字は漢字 注意したいのは日本列島の場合、文字というのは端的に漢字だということ。

「古代史の謎」に挑むー見えないものを見えるようにする観測装置としての「理論」の力

 今回読んだのは、小学館の全集「日本の歴史」の第一巻、松木武彦著『旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記』(2007)である。切れ味のよい理論で軽快に記述を折り重ねていくところがおもしろい。  歴史を記述することは、見えないものを見えるようにすることでもある。  歴史を記述するためのコトバとその理論は、いわば精密な観測装置、測定装置のようなものである。 自分で自分を再発見 電気電子の勉強を齧り始めた学生の頃、おもしろい経験をした。とある測定器を測定中モードにしたまま、

記号過程の生態系‐「違い」を「違い」のままに相互に「見合う」こと

ここしばらく、エドゥアルド・コーン著『森は考える-人間的なるものを超えた人類学』を読んでいる。 ウイルス感染症が猛威を振るう中、「仕事できる(と見られたい)系のある知人がこんなことを言う。 ウイルスも、僕みたいな重要人物(もっと露骨な表現であったが柔らかくしておく)には遠慮して、もっと非‐重要人物(もっと露骨な(以下略))の方に感染してくれればいいのに(以下略) Twitterで炎上しそうな不穏当な発言である。他の周囲のヒトたちも少し困ったような顔をしていたので、大真面