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お年よりと絵本をひらく 第3回 「一年をしめくくる絵本」中村柾子

「お年よりも絵本がすきなのでは?」と考えた、元・保育士の中村柾子(なかむら・まさこ)さんは、「週1回、午後の1時間をどうぞ」といってくれた近所のデイサービスに、通いはじめます(前回の記事はこちら)。今回、利用者の皆さんと一緒に読んだ絵本は……? 

元気の出る絵本
12月のある日、絵本を読み終えて施設(デイサービス)を出ようとすると、「今年も、あとわずかですね。来年はどんな年になるでしょう」と、利用者の方に声をかけられました。そこで、「よい一年になるように、今度は元気の出る絵本を持ってきますね」と言って、別れました。
 
翌週持っていったのは、『ぐりとぐらの1ねんかん』です。この絵本のあちこちに描かれている、どんぐりや松ぼっくり、まだ公園に残っていたイチョウの葉っぱなども、一緒に持っていきました。

『ぐりとぐらの1ねんかん』
(なかがわりえこ と  やまわきゆりこ 作 福音館書店)

大判の表紙に描かれた2ひきののねずみを見たとたん、「あら、そのねずみたち、昔、娘に読んだ『ぐりとぐら』だわ」という声が。なんと、50年ぶりの、のねずみたちとの再会でした。昔、自分の子どもに読んだものが、半世紀後に今度は自分が読んでもらう絵本になろうとは。本の命の、なんと長いことでしょう。
 
ぐりとぐらのように遊ぶ
『ぐりとぐらの1ねんかん』は、ぐりとぐらを中心に、いろいろな動物たちが、それはそれは楽しい一年間を過ごす絵本です。雪の野原で一年を祝う1月、そり遊びの2月、雪どけの3月は春を思って、うきうきするのねずみたち。ページをめくるたび、「まあ、かわいい」「子どもたちは、こういう絵本を読んでもらうのね」と声があがります。

『ぐりとぐらの1ねんかん』より

 各ページが独立したお話なので、その月ごとに、遠足や雪遊び、落ち葉で焼き芋作りをした思い出話に花が咲きます。ようじを差したどんぐりごまで、こままわしをしたり、イチョウの葉っぱをちょうちょに見立てたりして、ぐりとぐらのように遊びました。
1月のページに「ずっと ずっと 1ねんじゅう 300と65にち よい日でありますように」とあるように、きっと皆さんも良い年を迎えられることでしょう。
 
昔話が語る、他者へのやさしさ
次に読んだのは、『かさじぞう』です。物語の内容は、知っている方もいましたが、絵本で見た記憶のある方はないようです。

『かさじぞう』日本の昔話
(瀬田貞二 再話 赤羽末吉 画 福音館書店)

年越しの食べ物を買うために作った編み笠は一つも売れず、とぼとぼと家に帰るおじいさん。帰る道に雪まみれになっているお地蔵さんを見て、「さむかろう」と、笠をかぶせて帰ります。手ぶらで帰ってきたおじいさんを迎える、おばあさんのやさしいこと。お話が終わるまで、誰も一言も発しません。

『かさじぞう』より

読み終えると「きれいな絵ですね」とSさん。じっと絵を見ています。「なんか、胸がきゅんとなっちゃた」と、つぶやきました。おじいさんとおばあさんの心根のやさしさに打たれたのでしょう。「今なら、考えられないな」というだれかのつぶやきに、Aさんが「ほんと」とうなずきます。
昔話が語る、他者へのやさしさが、まっすぐ心に届いたようです。
年の暮れに読んだ2冊の絵本は、みなさんを元気に、温かい気持ちにしてくれた、そう思えた一日でした。

著者プロフィール
中村柾子(なかむら・まさこ)
1944年、東京生まれ。青山学院女子短期大学児童教育科卒業。
10年間幼稚園に勤務後、保育士として26年間保育園で仕事をする。退職後、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などで非常勤講師を務める。
著書に評論『絵本はともだち』『絵本の本』(ともに福音館書店)がある。 

第4回は、「昔に思いをはせる絵本」をお届け予定です。どうぞお楽しみに! *毎月20日公開予定


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