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【interview】最⾼の朝ごはんを召し上がれ!宿泊サイト「gochi荘」で仕掛けるおいしい体験×地域の活性化

Well-Livingを実践する挑戦者たちのインタビュー。記念すべき第1回は、「おいしい旅」をコンセプトにオーダーメイドの旅行会社を経営する岡田奈穂子(おかだなほこ)さん。ハネムーンを中心とした国内外のオーダーメイド旅行が人気を集めている。
今回は、新たな挑戦となる、日本の里山のおいしい体験を届ける宿泊予約サイト「gochi荘(ごちそう)」の取り組みを取材した。

〈今、注目のウェルリビングの実践者vol.1〉
岡田 奈穂子さん Nahoko Okada
株式会社Table a Cloth代表取締役/トラベルクリエイター

日本の里山だからこそ味わえる、
特別に「おいしい」
旅の体験を提供したくて。

「採れたてのお野菜や山菜、果物など、日本の里山だからこそ体験できるとっておきのおいしい旅を提案したくて。」海外の個人旅行のオーダーメイドを多数手がけてきた岡田さんが手掛ける「gochi荘」。彼女の頭の中にあるイメージは、自身が海外で経験した農泊だ。
 
ヨーロッパでは、ワイナリーや牧場、農家に宿泊してその土地のものを味わう“農泊”が人気だ。農泊に特化したサイトもあり、旅の形としてポピュラー。一方、日本では、総合的な宿泊サイトはここ十数年で育ってきているものの、民宿など小さな宿は大きなサイトでは埋もれがちなのが現状だ。そして日本の田舎には、ウェブサイトも持たないような、小さな宿が存在する。彼女が今、注目しているのは、そんな小さな小さな “実は、おいしい宿”なのだ。
 
『gochi荘』は、2019年にオープン。登録宿数約50軒の、まだまだ生まれたばかりのサイトである。自ら一軒一軒訪れ、その土地その宿だからこそ味わえる食の体験を取材して掲載していくため、掲載件数はなかなか一気には増えない。けれども、きめ細やかな提案とともに紹介されているひとつひとつの宿泊プランは、彼女の信条でもある“オーダーメイド”に近い満足感を感じられるはずと、自信を持っているものばかりだ。

2022年秋にリニューアル予定のウェブサイト
gochi荘のサイトからは、宿や料理の温度感が伝わってくる(写真提供:gochi荘) 

朝、鶏が産んだばかりの卵を
自らの手で鶏小屋から運んで食べる
新鮮な卵かけごはん。

中でも人気なのが朝、鶏(にわとり)が産んだばかりの、まだ温かい卵を朝とってきて食べる、卵かけごはん。「養鶏場を持つお宿さんからしてみれば、鶏が卵を産むのは毎日のことで当たり前ですし、それでお金を生むという発想はなかったんです。でも、都会暮らしの自分からしたら、宿の鶏小屋で産みたての卵を自分の手で抱えてきて、ごはんにかけていただくなんて、日常ではとてもできない体験! そんな体験のできる宿へなら、わざわざ行きたい人も多いのではと思い、プラン化してみませんか?と提案しました。」
 
そこに住む人々にとっての “あたりまえ”は、他の地域からくる人にとっては他ではできない体験になる。「このお宿さんでは、9~10月になると、卵を産まなくなった鶏をさばくんです。それも、都会に住んでいたら見ることのない光景。ショッキングな場面を目にすることになりますが、命をいただいていることを実感する貴重な体験になるのではないかと。プランを作ったところ、おばあちゃんが孫に体験させたいからと、ご予約をいただきました。」
 
岡田さんの元には、宿泊したお客さんからお礼のメールが届くこともしばしば。「“親子三人で素敵な体験ができました!”という声が届いたときには、お宿さんにも共有します。そうすることで、お宿さん、お客さん、そして自分の幸せの連鎖が生まれているのが実感できて、私自身幸せな気持ちになれるんです。」

手にする卵はまだ温かく、恵みを分けていただくありがたさをしみじみと感じられる
京都府京北「農家民宿 ほろろん」。
茅葺き屋根の古民家には自家菜園や鶏小屋が(写真提供:gochi荘)

やりたいことを言い続けていると、
不思議と訪れる
“磁力を持つ”タイミング。

gochi荘立ち上げにあたって明確なイメージを持ちつつも、小さな宿をいちから掘り起こすのは難しかった。また、サイトを作る技術も、資金も無く、無いない尽くし。「何も持たない状態で、柵の中から“こんなことしたい、こんなことできたら素敵!”と、ひとり叫んでいる。そんな状態からのスタートでした」あるのは自分の中のイメージと思いだけ。
 
「でも、言い続けていると、不思議と“磁力を持つ”タイミングが訪れるんですよね。」2018年にチャレンジした『LED関西』という女性起業家コンテストがその磁力を持つタイミングとなった。起業家がそれぞれやりたいことをプレゼンテーションする。聴衆となる企業が、応援したいと思った企画に手を挙げてくれるシステムで、gochi荘のアイデアにはなんと19社ほどの手が挙がった。
 
「航空会社から地方銀行、システム会社まで、私の足りないことに協力してくれる人たちが現れてくれました。協力してくれる人々ができて、どんどんやりたいことが形になっていったんです。」人とのつながりがつながりを生んで、何かを生み出していく。彼女はそれを“磁力”と呼んでいる。

若い世代が喜んで継いでいける
持続可能な体制作りの
お手伝いをしていきたい。

「小さなお宿さんが困っていることに耳を傾けつつ、お宿さん自身も気づいていない魅力を引き出して、訪れる人にすてきな体験を届けたい。」そう話す彼女が最近気になっているのは、小さな宿の宿泊料の安さ。
 
「いまだに1泊6000円台などで経営されているお宿さんも多いんです。安く泊まれることは良いことだけれども、そこに付加価値がついたら8000円にしても泊まりたいと思う方は必ずいるはず。でも、地域のお宿さんは謙虚な方が多くて。昔からこの値段でやっているから、とか、他のお宿さんもみんな6000円台で頑張っているからうちだけ上げるのはちょっと……などの理由で値段を上げることには慎重です。採れたお野菜をお土産にしたり、キノコ狩りを体験できるプランにしたり、付加価値を付けていく方法はいろいろあると思うんです。そのお手伝いをしていきたい。」
 
「今のままでは、宿の後継ぎがいなくなってしまうという危機感もあります。ちゃんと継続していくために、地域全体を活性化していきたい。若い人が後を継いでいきたくなるような経営状態に持っていくお手伝いとしても、付加価値を付けていくことは必要だと感じています。」

大の旅行好きだった岡田さんは、一念発起して20代でオーダーメイドの旅行会社を立ち上げた

正直、一軒掲載するための
コストはすごくかかる。
でも、やめるつもりはありません。

魅力的なおいしい宿体験を追求している岡田さんは、今、gochi荘をおいしい“朝ごはん”から宿選びができるサイトへと進化させることを考えている。自身が母となり、日常の中でゆっくり座って朝ごはんを食べることもなくなり、旅先で味わう朝ごはんに「なんて贅沢な時間なんだ!」と感動したことがきっかけだった。
 
養蜂家も兼業している宿の出すハチミツだったり、朝摘んだばかりの野菜だったり、gochi荘に集う宿はどこも、朝ごはんにその土地ならではの「旬」が詰まっている。「日本の食文化を伝えたい」と語る岡田さんの思いが一番凝縮されていることに気づいたのだ。
 
gochi荘を成長させていくために今、つまづいていること。それは、一軒掲載するためのコストが膨大なこと。「地方の自治体の観光課の方とか、地方銀行の方などにつないでいただいて。そうするとひとつの地域で4軒ほどご紹介いただけたりするので、車で現地を訪れて取材して回ります。」
 
「実際に訪れると、正直そのままでは掲載できないなと思うことも。でも、例えば食べる場所をお寺のお堂で食べるように変更できませんか?とか、畑で採れるお野菜をお土産にできませんか?など、お宿さんに提案することもあります。それで、素敵な内容になったらぜひ紹介させてくださいとお話します。」それは、「棚の隅っこから引き出すような作業」だという。「信頼してもらえないと載せてもらえないですし、そこから載せてもらうまでの道のりがまた、ものすごく長いんです。」
 
これまで海外ハネムーンのオーダーメイド事業の売り上げの一部をgochi荘の取材費にあててきていたが、コロナ禍でそれも厳しくなった。「でも、やめるつもりはありません。ほそぼそと続けていって、良い循環を作れるようにしていきたいと思っています。」

富良野にあるワイナリーの宿「多田農園」オーナーご夫婦のもとを訪れて(写真提供:gochi荘)

国も力を入れていく農泊。
地域と日本、そして
世界への架け橋になれたら。

2023年には国が農泊に力を入れていくという動きもある。日本の農産を支える新たな取り組みとして、農林水産省が主体となって進めていく。アグリツーリズモは、イタリアやフランスでは伝統的にある取り組みだ。ワイナリーでは収穫の時にたくさんの人が働き手として畑にやってくる。その受け皿としての宿泊施設を、ぶどうの収穫のオフシーズンには観光に利用する。日本でも、農家に泊りに行く体験を通して、農業を身近に感じてもらうきっかけに、また農村の活性化につなげていこうというのが狙いの施策だ。
 
しかし、往々にして国の政策と現地の人々との温度感には乖離が起きがちだ。地域に土足で入り込まず、「靴を脱いで」敬意を持ってあがらせていただくにはどうしたらいいか。ひと足先に地域へ足を運んでいる岡田さんは、その難しさを実感している。そんな彼女の元へは、農林水産省の関係者からも声がかかる。「国の大きな動きと、地域の人たちのとまどいと、その間に立てる架け橋になっていけたら。」
 
海外の事情にも詳しい彼女は、gochi荘を通してやがては世界の人々に日本の田舎の美味しい体験を味わってほしいと考えている。「コロナ禍に入る前には、海外の旅行会社とインバウンドの受け入れを行う準備をしていました。今はコロナ禍で難しいですが、国内のおいしい旅の準備をコツコツと進めておいて、世の中が落ち着いたらそれを世界中に発信していきたいと考えています。」
 
「おいしい旅」をコンセプトに掲げる、株式会社Table a Clothが手掛ける「日本の田舎で味わえるおいしい食体験」の取り組みは、まだはじまったばかり。どんな特別な“ごちそう”との出合いが増えていくのか。そこからどんな広がりを見せていくのか。これからの成長が楽しみだ。

ふたりの子どもを育てる岡田さん。おいしい旅は、子育て世代が楽しめる旅でもある

Well-living Rule|実践者たちのマイルール
・ときめかないことはしない
・大好きな人と仕事をする
・最高に楽しい気持ちで仕事をする
・口角を上げて毎日を過ごす
・ごはんは抜かない、一食も無駄にしない!

PROFILE

岡田奈穂子さん Nahoko Okada
株式会社Table a Cloth代表取締役/トラベルクリエイター

海外雑貨バイヤー・輸入業を経て、旅行業へ転身。20代で「おいしい旅」をコンセプトにするオーダーメイドの旅行会社・株式会社Table a Clothを立ち上げる。海外ハネムーンの個人旅行を中心に手配し人気を博す。自身が30代に入り、子どもやおばあちゃんと一緒に行ける国内の「おいしい旅」の提案もしたいと感じはじめ、2019年に日本の里山や海辺のおいしいものを食べさせてくれる宿と客をつなぐサービス「gochi荘」を立ち上げる。


取材・文/木崎ミドリ 撮影/小野友暉 
編集/丸山央里絵(Funday)

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