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心をコントロールせよ

忙しい現代において、メンタルヘルスの問題はどんどん顕在化しています。いまや日本人の15人に1人はうつ病を発症し、過去1年間において情報通信業(いわゆるIT)で働く人の2%が、メンタルヘルスの問題を原因に1か月以上の休業あるいは退職を経験しています。

メンタルヘルスの問題は目に見えない部分が多く、いまだに根性論で片付けられてしまうケースが後を絶ちません。しかし、うつ病は決して個人のやる気の問題ではなく、生物学的な異常です。家族歴も大きく関与しており、うつに対する脆弱性には遺伝性があると考えられています。

しかし一方で、子供の頃から形成されたマインドがうつ病の発症や再発に関連することも指摘されています。そしてそのマインドは訓練によってある程度変化させられることが分かっています。

その手法として近年注目されているのが、マインドフルネス(瞑想)です。マインドフルネスをトレーニングすることによって自分の心のモードに「気付き」、意識的に切り替える技術を身につけることができます。医学の世界でも、マインドフルネス認知療法としてうつ病の再発予防領域で注目されています。

僕自身が大学院で研究していたのは、マインドフルネスによって引き起こされる脳可塑性の証明です。ストレスがかかったとき脳の情動伝達系回路の一部である「扁桃体」の血流は増加し、うつ病の人では過剰に活性化することが分かっていますが、瞑想を訓練した人では優位に血流が低下します。

つまり、マインドフルネスは単なる気分の問題のようなレベルではなく、生物学的な変化を体内で引き起こしているといえます。

今回はそんなマインドフルネスの一面である、「心をコントロールする(心のモードを意識的に切り替える)」という部分について解説します。

気分が落ち込んだ状態が長引いてしまいがちな方や仕事のストレスで疲弊している方、嫌なことばかり考えてしまうという方は勿論、ストレスマネジメントに関心のある方も是非読んで頂けたら幸いです。

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そもそも、『心』とはなんでしょうか?心は、相互作用する要素の集まりと捉えることができます。感覚や知覚などの要素から情報を受け取るとそれを処理し、また別の心の要素へと受け継がれます。人の心は特定のパターンに基づいてこれらを繰り返しているといえます。

例えば、「上司に怒られた」とします。このとき、怒っている上司をみたり(視覚)、怒鳴り声が聞こえたり(聴覚)、周りがシーンとする空気感を感じたり(感覚)といった様々な要素を踏まえて、「怒られている」と解釈します。すると、「怒られた」という感覚によって、ある人は「こいつうるさいなあ」と感じますし、またある人は「私はなんてダメな人間なんだろう」と感じます。

この二人は感覚は異なるものの、実は心のモード(パターン)としては同じ状況にあります。それは、自動操縦状態(ある種の情報への反応として引き起こされる)にあるという点です。マインドフルネスのトレーニングでは、このモードを切り替えることを目指します。

【心のモードには大きく2種類ある】

心のモードは、車に例えると非常に理解しやすいです。一つはオートマチックモード(感知した情報に基づいて自動で切り替わる)、もう一つはマニュアルモード(特定の意図を繰り返したり、注意を特定の方向に向けることを意図的に選択する)です。

何か嫌な物事が起こったとき、人の心には2つの反応が起こります。1つは、ネガティブな感情が自動的に引き起こされます。もう1つは、現在の状態と理想の状態のギャップを埋めようとする習慣的な心のモードを起動させます。

このとき、現実と理想の不一致の修正に成功すれば心はオートマチックモード(doing mode)を終了します。しかし、それが難しい場合にはその不一致に着目し続けることで、繰り返す不満足感に襲われることになります。そしてその不一致は単なる心の中の出来事ではなく、「事実」として感じられ、今実際に起きていることをそのまま感じることよりも、過去や将来についてあれこれ考え込むことを優先するようになります。

理想と現実の不一致を意図的に解決できるとすれば、それは勿論素晴らしいことです。しかし、オートマチックモードにある場合心の処理は意図的・意識的・計画的には行われず、心の奥底にある「習慣」として自動的に繰り返されてしまいます。

オートマチックモードは、ネガティブな感情への上手な反応ではないのです。ではどうしたらいいでしょうか?

そこで大切なのが、マニュアルモード(being mode)です。このモードは特定の目的を達成しようとはしません。つまり、「どうすれば目的が達成できるか」について常に評価する必要がなく、不一致をどうにかしようと躍起になる必要もありません。

「状況を変えようとせず、そのあるがままを『受容』し、そのままにさせておく」ことといえます。このモードではやるべきことも行くべき場所もなく、情報処理のプロセスがすべて、瞬間瞬間の体験を扱うために捧げられます。

これが最近よく耳にするようになった<今ここ>です。<今ここ>を解釈を加えずに受容することで、ネガティブな感情の自動反復を防ぎ、自由や新鮮さ、体験の新たな広がりを感じることができます。

このマニュアルモード(being mode)に切り替え維持するためのトレーニングがマインドフルネスなんですね。結果としてネガティブな感情の反芻が抑制され、うつ病の抑制やストレスマネジメントに繋がります。

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さて、先日とある友人が瞑想のイベントに参加していました。そこではマインドフルネスの理論を学習することはなく、癒し系の音楽を聞きながら座り、目を瞑り、呼吸に集中したそうです。

彼は深いリラックス状態になることに一生懸命に集中して瞑想を試み、周りの小さな雑音や他人の呼吸の音、集中できない自分にイライラしてしまったようです。

これは『リラックスする』という欲求に駆り立てられた状態であり、オートマチックモードで瞑想してしまっていることになりますね。つまり、本質を捉えずに瞑想やマインドフルネスに取り組んでも、何も解決しないのです。仮にその時リラックスできたとしても、日々の生活で心のモードを切り替えることはできるようになりません。

マインドフルネスとは「意図的に、今この瞬間に、価値判断を加えずに注意を向けること」であり、単なるリラクゼーションではありません。トレーニングするスキルの中心は、自分自身の心の持続的なパターンに気付き、そこから離れることです(難しい言葉で、脱中心化といったりもします)。

折角よい手法なので、多くの人が正しい基礎知識を身につけ本質を理解してくれたらいいなーと思っています。

マインドフルネスを本格的に学びたい(もっと詳しく知りたい)、生活の中で実践的なトレーニングを行ってみたいという方は是非、Sylbyで一緒に学びましょう。

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