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乳がんの記録 ~4~

◆患者の尊厳

 主治医の先生はとても良い方で、病気の現状や治療の詳細だけでなく、今後予想される様々な悩みや不安にも丁寧に耳を傾けて下さいました。前回の通り早期発見だったため、一切メスを入れない温存療法や部分切除にして胸の形を残す方法等、ダメージが小さくて済む選択肢も提示されました。

しかし、私は迷わず全摘出の道を選びました。
何しろ親譲りのがん体質。たとえ早期でも油断できず、再発の可能性を少しでも確実に摘みたいと考えたのです。

現在私は、日本人の平均寿命からいけばまだまだ折り返し(をちょっと過ぎたか?)くらいの年齢です。まだ成人していない子供達の成長やその後を末長く見守りたいし、もちろん仕事も続けなければいけません。
何より私には、今生で是非ともやり遂げたい目標があります。
身体はいずれ老いて朽ちてゆきますが、私という魂は最後まで損なわれることはありません。力尽きるまで走り続けられるのなら、役目を終えた胸の一つや二つ抉れたところでなんの後悔もない。ゆえに、決断するまで時間はかかりませんでした。


◆入院と手術

手術当日の朝、病室の窓から見た景色。

入院したのは、残暑厳しい9月半ばでした。

シルバーウィークや子供達の修学旅行を挟み、何かと気忙しい時期と重なってしまいましたが、タイミングを逃すわけにはいきませんでした。

「先生、どうかひと思いに!」

そんな気持ちで隣の福島の総合病院に入院した次の日、全身麻酔の手術で右胸を摘出したのでした。さらば、我が一部。さらば、かつて生まれたばかりの我が子らに強く生きる力を与え続けた、大切な命の一部。

一般的に乳がんの摘出手術では、最初に転移しやすいと考えられているわきのセンチネル(がんの部位から最も近い)リンパ節をいくつか一緒に摘出し、がん細胞がないかどうかをその場で診断します。
私もそのセンチネルリンパ生検を受けましたが、前述の通り転移はありませんでした。もしこれで癌が見つかっていたら、わきの下にある約30個のリンパを全部取ることとなり、傷口もより深く後遺症(腕が上がりにくくなる)が残る可能性もあったでしょう。そうならなかったことは、書道を志す身として本当に幸いでした。

総手術時間は約2時間半…
先生も慣れていらっしゃるのか、意外とスピーディーです。ピカピカの器具と照明に囲まれた手術室で徐に台に上がり「皆さんお世話になります。よろしくお願いします」…から秒で意識はホワイトアウト。いつの間に様々な管が通され、麻酔から覚めたのは元の病室でした。
上半身のあちこちが凝ったように固まっていましたが、これは手術中ずっと患部のある方の腕を吊った状態で固定されていたためだそう。
でも、意外と手術そのものの傷の痛みは殆どありませんでした。代わりにしんどかったのが、前の日からの絶食によるとてつもない空腹感。自他ともに認める少食の私ですが、これはなかなかに堪えました…
翌朝の病院食があまりに美味しくて、
思わず涙がちょちょぎれたのはここだけの話です(笑)

(続)

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