女将兼湯守@西屋旅館

開湯1312年の米沢市白布温泉に唯一残る茅葺旅館の19代目女将です。兼湯守という珍しい…

女将兼湯守@西屋旅館

開湯1312年の米沢市白布温泉に唯一残る茅葺旅館の19代目女将です。兼湯守という珍しい立場で、宿の中から見た世の中、温泉と山の暮らし&日々の思いを綴ってまいります。着物と袴がほぼ普段着。古典と書道学習中&書写検定(毛&硬)準1級勉強中。楽琵琶弾きたい腹筋割りたい。

最近の記事

乳がんの記録 ~7(終)~

◆ ホルモン治療 手術からおよそ1か月後の10月半ばから、私の乳がんサブタイプ(女性ホルモン要因100%のルミナルA)に最も適したホルモン治療が始まりました。 内容は投薬治療一択です。 3ヶ月に一回の腹部への皮下注射&毎朝1錠のホルモン剤の服用を約10年。これによって、女性ホルモンの分泌を抑え、再発を未然に防ぐというものです。抗がん剤や放射線治療など、身体への負担が大きい治療に至らずに済んでいるのは本当に有難い限りです。 早期発見→即病院の決断は間違っていませんでした。 予

    • 乳がんの記録 ~6~

      ◆ 退院 かくして、乳がんもとい右胸全摘出手術を受けた私は、約1週間の入院を経て無事に白布に帰ってまいりました。 退院の目安は、摘出手術の傷の近くに通したドレーン(管)から出てくるリンパ液の量が一定量(1日あたり30ml)を下回ることでした。人によっては漏出が落ち着くまで10日以上かかる場合もあるそうですが、私は幸い術後の経過がよく、病院生活が長引くことはありませんでした。 退院後、ひとつだけ思いがけない誤算に見舞われました。それは、一時的ながら抵抗力&体力がガタ落ちし

      • 乳がんの記録 ~5~

        ◆リハビリ 術後すぐのうちは胸部に固定具とバンドが取り付けられていましたが、数日経ってそれらがようやく取り払われ、そこからはだいぶ身軽になりました。改めて目にした我が身は、一言で言うと「…クレーター?」 胸があった場所はものの見事に抉れ、斜めに手術の傷が入り、そのやや下からリンパ液を抜くドレーン(管)が通されていました。 なんだか名誉の傷を負った歴戦の戦士みたいで、ちょっとカッコいいかも?!…なんて…ほんの少し思ったりして(笑) 麻酔が完全にとれてからは流石に胸に疼痛を

        • 乳がんの記録 ~4~

          ◆患者の尊厳  主治医の先生はとても良い方で、病気の現状や治療の詳細だけでなく、今後予想される様々な悩みや不安にも丁寧に耳を傾けて下さいました。前回の通り早期発見だったため、一切メスを入れない温存療法や部分切除にして胸の形を残す方法等、ダメージが小さくて済む選択肢も提示されました。 しかし、私は迷わず全摘出の道を選びました。 何しろ親譲りのがん体質。たとえ早期でも油断できず、再発の可能性を少しでも確実に摘みたいと考えたのです。 現在私は、日本人の平均寿命からいけばまだま

        乳がんの記録 ~7(終)~

          乳がんの記録 ~3~

          ◆サブタイプ がんと一口に言っても、病巣が生じる場所やそのがんの持つ性質によって様相はさまざまです。その治療法も、それこそ患者の数だけあるといっても過言ではありません…というのが、主治医の先生の解説。 約1ヶ月に渡る様々な検査や手術で摘出した患部を詳しく検査したところ、私の乳がん(サブタイプ)は「ルミナルA」…がん細胞の増殖の速さを示すKi67という測定数値(0~100%MAX)は1%未満とかなりのスローペースで、穏やかなタイプのものである、と診断されました。 しこりの

          乳がんの記録 ~3~

          乳がんの記録 ~2~

          しこりに気が付いたのは週末の夜でした。 善は急げと週明けすぐに麓の(人間ドッグを受けた)病院に連絡。1週間と待たずに診察室の扉を叩いたのでした。そうしてあれよあれよという間に精密検査に回され、約10日後には「悪性でした。がんです」 あっさり診断を下されたのでした。 かつて某学府で生涯発達心理学(老年~終末期)を専攻していた私は、まだまだ若造だったにもかかわらず「人生最大の試練は自身の死(との対峙)」という身も蓋もない認識を抱いていました。 自分の最期のことなど普段からそうそ

          乳がんの記録 ~2~

          乳がんの記録 ~1~

          既にこのエッセでも触れましたし、そもそもSNSで盛大にカミングアウトしておりましたのでご存知の方も多いと思いますが、私は6月に乳がんと診断され、つい先日、右側乳房の全摘出手術を受けました。 あまりにも駆け足で、闘病と呼ぶには短すぎる期間の出来事でした。 幸いなことに現時点では転移が見られないため、余程のことがなければ 当面はホルモン剤による長い経過観察になる予定です。 まぁ、そういう意味ではこの先しばらく闘病が続くわけですが…。 ともすれば死に至る病を突然得た経験は、

          乳がんの記録 ~1~

          温泉旅館女将おススメ!地元の名店~①CAFE LABORATORY

          暑さと忙しさにかまけて、 前回の告知からすっかり日にちが経ってしまいました…! 大きな話題がひと段落して「次何書こうか…」とずっと悩んでいましたが、ようやく落としどころを見つけたのが 「やっぱり旅行と言えば美味しいもの!」 …というわけで、これまで何年にもわたりHPエッセにて紹介してきた地元でお薦めのお店(グルメ系)を改めて厳選し、加筆修正の上noteにご紹介してまいります。1回目は、カフェ好きな私が自信を持ってオススメする米沢市内の人気店のひとつ、CAFE LABORAT

          温泉旅館女将おススメ!地元の名店~①CAFE LABORATORY

          【お知らせ】次回からのnoteについて。

          皆さんお元気ですか。 毎日ものすごい暑さですね…白布温泉も暑い(苦笑)。 だいぶ更新期間が空いてしまいました。 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、さまざま忙しくしていた仕事がようやくひと段落した先月半ば、私は突如病(癌)を宣告されました。 現時点で詳細、ステージ不明の乳がん。 Twitterでは、さも晩御飯のおかずでも告げるかのようにさらりカミングアウトしたものの、本当はとてもとてもショックで…。動揺と不安の沼底で暫く一人もがいていました。救いを求めるようにたくさんの

          【お知らせ】次回からのnoteについて。

          「信じあえる主客対等」を目指して~その3 総括と感謝~

           宿泊約款の強化、徹底した情報開示、利用規則の直接説明とお客様へ同意確認…。 西屋の採った対応は、見ようによってはお客様に距離を隔てたような印象を与えてしまったかもしれません。 しかし私たちの意図はむしろ真逆で、大きく傾いていた主客の天秤を平行に戻し、これまで以上に互いの信頼と尊重を持って歩み寄れるようにすることこそが、この度の改定の眼目でした。  利用規則に記載されている事柄は、 本来どれも常識の範囲に収まる内容ばかりです。そもそもお互いに信頼と尊重があれば、利用規則自体

          「信じあえる主客対等」を目指して~その3 総括と感謝~

          信じあえる主客対等を目指して~その2(弁護士さんへの相談~争いではなく守るための知識武装へ)

          「きっちり賠償請求すべきだ」 ツイッターはじめ、ネットニュースで当館の出来事を知った方々から最も多く寄せられたのが、この意見でした。 確かに、感情にまかせればそう思い至るのも無理はありません。 しかし相手は、喫煙を認めるどころか報復評価まで入れてきた方。こちらが強硬手段に踏み切ったとしても、「相当に骨が折れるだろう」ことはおよそ予想がつきました。とはいえいつまでも躊躇していたら、何一つ解決できないまま時間だけが過ぎてしまう。これでは埒が明かないと考えた私は、意を決し知り合い

          信じあえる主客対等を目指して~その2(弁護士さんへの相談~争いではなく守るための知識武装へ)

          信じあえる主客対等を目指して ~SNS炎上🚭から学んだこと~

          去年の暮、西屋のTwitterアカウントが大炎上しました。 きっかけとなったのは、私(女将)のツイートです。  ご滞在中、禁煙のはずの客室内で我慢できず喫煙してしまったお客様。 帰り際に直接呼び止め事実を咎めたところ、数日後に予約サイトを通じて散々な報復評価を書きこんできた…という出来事がありました。 健康増進法改正によって受動喫煙対策が強化された3年前の4月、西屋は全館禁煙に踏み切りました。古い建屋は煙やにおいを完全に遮断することが困難です。まして母屋は、消防法の規定に

          信じあえる主客対等を目指して ~SNS炎上🚭から学んだこと~

          【湯守の話】(終)温泉は今日も巡り、守り手は出会いを言祝ぐ

          拙作【湯守の話】をお読み頂きありがとうございました。 今回は最終回です。 女将、そして湯守として、温泉へのありったけの思いを綴りました。 「なぜ女将が湯守に?」 この役を引き継いでから約十年、これまで幾度となくそう尋ねられました。 湯守作業はほぼ戸外(山中)での力仕事。ともすれば危険が伴います。 番頭さんや宿の主人など、凡そ男性が担うというのが普通の感覚でしょう。 対する私の答えは三つ。 ①男子禁制だから 湯滝風呂の裏手にある調整枡は、お風呂を間近に見下ろす位置にあ

          【湯守の話】(終)温泉は今日も巡り、守り手は出会いを言祝ぐ

          【湯守の話】4西屋湯守の365日

          前回の記事で、白布温泉が非常に湯量豊富であること、その源泉温度が57~58度あることをお話ししました。これを適温とするには、水道だけでは到底賄えない相当量の水を加えなければなりません。 そこで湯守が登場します。 今日は、湯守として日々どんな作業をしているのかをお伝えします。 白布の各旅館では、山を流れる豊富な沢水を温度調整に利用しています。 西屋では、三十三観音付近の沢から引いている消火用水の一部をメインに使用しています。 その日の気温、天候、昼夜の温度差、沢の水量(水圧

          【湯守の話】4西屋湯守の365日

          【湯守の話】 3白布温泉の泉質と現状

           普段、私が湯守として行っていることは具体的にどんな作業? …それを語るには、まず、日々向き合っている我らが元気の源: 白布温泉について解説する必要があります。 今回は白布温泉の泉質と現在の様子についての話題です。 全国津々浦々さまざまな泉質の温泉が湧く、いで湯幸わう国:日本。 そのひとつである白布温泉は、自然湧出する源泉を3か所に持つ カルシウム‐硫酸塩温泉です。 その総量は毎分約1150ℓ。 山形県はすべての市町村に温泉が湧いているという温泉大国ですが、 自噴量だけ

          【湯守の話】 3白布温泉の泉質と現状

          【湯守の話】2西屋の湯守とその継承

           かつての西屋には、「湯守」という役を専属で担う従業員はいませんでした。元々は家族の男子の仕事でしたが、昭和以降は主に番頭さんがその役を負いました。  なぜ男子かというと、ひたすら外の作業だからです。冬は雪をかきわけ、梅雨や秋の台風の頃には増水した沢で踏ん張りながら木の枝や落ち葉を取り除き、日照りの夏は水を確保するため森を奔走し、朝でも夜でも必要に応じて山に入らなければならないほど、とにかく根気と体力が要求されます。 女性、ましてや女将が自らその役を担うなど、誰も考えなかった

          【湯守の話】2西屋の湯守とその継承