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“クリエイティブチームのためのリモートワーク”《前編》— WORKS GOOD! NIGHT vol.1

第1回目となる今回のイベントでは、WORKS GOOD! MAGAZINEでもインタビューを行った、世界各国で働いたことのあるNuevo.StudioのAlvaro Arregui Falconさん、「フリー出社制度」に取り組み話題となった株式会社CINRAから井手聡太さん、濱田智さんをお招きし、「リモートワーク」について存分に語っていただきました。まず《前編》ではパネルディスカッションの様子をレポートしております。是非ご覧ください!

フレキシブルワークは、本当にクリエイティビティに良い作用をもたらすか?

— 今回のイベントのテーマは「リモートワーク」ですが、CINRAさんやAlvaroさんといったクリエーターの方にお話しいただきまして(※イベント前半では各社のプレゼンテーションが行われましたが、本稿では割愛いたします)、またおそらく今日来てくださっているのもそういう感じの仕事の方が多いのかなと思いますので、リモートワークという選択肢を持つことがクリエイティブな成果、クリエイティビティに対して何をもたらしてくれるのかということについて話してみたいと思います。まず、CINRAさんが始められた「フリー出社制度」というのは、そういった点でどういう風に作用しているのでしょうか。

濱田:
まだ制度を始めたばかりなので、どこまで成果を出しているか、今の時点では答えにくいところがあります。お答えできるのはわずかですが、モノを作っている時のすごく重要なタイミングでミーティングをしたり、みんなが集まってレビューイングしたりする時の、僕らの意識のフォーカスの仕方がだいぶ変わってきたのが一つの成果だと思います。1週間の流れの中にいくつかの短期的なマイルストーンを設定すると、それにむけて自然と仕事を集中していくことになるので、濃度がすごく濃くなったという実感があります。

本来はフリー出社とか、フレキシブルワーキングとは関係ない「1つ1つのマイルストーンの濃度を濃くしていきましょう」という単純なイシューだったりするんですけれど、フリー出社のタイミングで明らかに意識が変わったんじゃないかなと思います。「会社に来て、残業して、毎日頑張っています」という事は一切評価されない世界になり、今はとにかく最終的なアウトプットの精度を高めることだけが求められています。そのためにまずは制作工程をマイルストーンに分解する、という感じでポイントは定まってきていますが、それが直にクリエイティビティとか成果物のクオリティーに反映されているかと問われると、実施期間が短いこともあってその実感はまだありません。

井手:
自分がタスクに対してすごく任されていたり、リモートになることで、自分自身にフォーカスが当たる機会が多くなるので、そういった意味で責任感みたいなものは大きくなっていますね。クオリティーに関しては、もちろん高くないといけないという事はどういう働き方であろうとも前提としてあります。

Left : 井手さん(株式会社CINRA) Right:濱田さん(株式会社CINRA

— 個々の意識が変わり、良い方向に向かうということは、当然チームにも何らかの良い作用を起こすと思うのですが、チームでモノを作るということにおいて、単純に場所が離れていることによる弊害も一方であるだろうなという気がするんですが、いかがですか?

濱田:
以前、チームラボの猪子寿之さんがおっしゃっていたことなんですが、チームラボにはリモートワーキングは導入しないと。人と人が一緒の場所にいることによって出来てくる文化とか、生まれる空気、そういうものが唯一チームにとって重要なことであって、それがないのであれば、チームなんてやっていても意味がないというようなことをおっしゃっていて、とても腑に落ちた記憶があります。ただ、今の我々の制度が、果たして企業文化、また、チーム文化を生まないのかと言われると、そこにはまだまだ議論の余地があると思っています。何か決定的な施策があるかと言われると言葉につまるんですが、そのために我々がこれからトライしていかなきゃいけないことは、山ほどあるなという認識ではあります。

— Alvaroさんは、CINRAさんの場合とはちょっと違うと思うのですが、クライアントや、協業するパートナーが世界中にいることもあって、必然的にフレキシブルワーキングをせざるを得ないという状況ですよね?

Alvaro:
そうですね。おっしゃるように、もともとが違うというのはあります。先ほどの、「同じ場所で空気を共有しないと企業文化ができないから、リモートワークは絶対にしない」という意見は、当然そうなんですけれど、その企業文化は良い企業文化じゃないと作っても意味がないわけですよね。なので、みんなをフレキシブルに働かせることによって、良い文化を作り出すことが僕は大事だと思います。

— Alvaroさんの話(イベント前半のプレゼンテーション)を聞いて、フレキシブルワーキングでも、ある種のチーム文化みたいなものが生まれてきているんじゃないかなと思ったんですけれども、自分がいるチームはいつもこういう雰囲気が作れているとか、そのために何かしていることというのはあるのでしょうか?

Alvaro:
国をまたぐ4チームが存在していたので、それぞれの国によって文化が違うし、まず現地の人たちのことをすごく理解しなければいけませんでした。その上でチームカルチャーを作っていく感じでしたね。

— いくつもの国にまたがったチームで共同して仕事をすることというのは、当然難しい面もたくさんあると思うんですけれども、その体制が、アウトプットのクオリティーやクリエイティビティに対して、良く作用しているなと思うのはどのような時ですか?

Alvaro:
同じ場所にいる時は、確かに全員のパワーを一緒に発揮できる良さはありますが、1人で仕事をした方がより力を発揮できる人もいます。それはそれで「いいね」とフレキシビリティを認めることによって、チームとしてさらに良いモノを作り出すことができると思います。

Alvaroさん(Nuevo.Studio

フレキシブルワークが、アジャイル文化への親和性を生み出す

CINRAさんも、フリー出社制度を義務ではなく、各々がするしないを選べるようにしたように、「フレキシブル」という言葉がキーワードだと思うんです。多様性を持った個人が、物理的ではなくとも、1つのところに集まって、1つの仕事に向かっていく上で、個々の最もパフォーマンスを発揮できる環境というのは、人それぞれ違うわけですよね。それを会社として、チームとしてどうサポートするかということが重要なんだろうなという気がします。

井手:
プロジェクトの組み立て方が、Alvaroさんは完全にアジャイルの方式を採っていらっしゃって、私たちもチームよってはそうしているんですが、基本的に2週間に1回、クライアントと共にタスクに対してのイシューを上げる、ということをしています。ウォーターフォールだと、デザイナーが1人の時間とか、そういうのが本当に個人プレーになりやすいというか。Alvaroさんの話を聞いていると、リモートでも相当コミュニケーション量が多いんだろうなという感じを受けました。

濱田:
ウォーターフォール型だったら、バトンを渡すみたいな感じで、デザイナーからフロントエンドへ、フロントエンドからバックエンドみたいな形で、各々の工程でどんどん作業に集中していけるんですよね。だけど、アジャイルの場合は、絶えずコミュニケーションを取り続けないといけない。顔を突き合わせて話すと進みが早くて良いんですが、そうでない時でもプロジェクトの進捗に関してはずっと気を配っていく必要があって。フリー出社制度を導入する前は、みんな工数ベースで動いていたんですが、そうするとアジャイルという形には全くはまらないんですよね。例えば CINRA.NET では、運用チームが出してきた課題に対してどう答えるかということを常にやりとりしているので、リモートワークとか言っていても、コミュニケーションは密に取る必要があるし、そのコミュニケーションの形を可視化する必要があるんです。

この「可視化」とか「ロギング」って非常に大きな意味があって、例えば、「どこのタイミングで発案があったのか」とか、「その発案が今の時点で意味のあるものになっているのか」とか、発案や課題提起がきちんとドキュメントとして残っているということが結構重要なんです。これは別にリモートワークに限る話ではないんですが、リモートワークにすることで、強制的にそういう状況を作りだす必要が生まれる、という側面があります。結果的に、ロギング文化とかアジャイル文化が、強制的ではあるのですが企業やチームに浸透するというメリットはあります。

— リモートワーク、フレキシブルワークをしていれば、物理的な場所の制約は当然なくなりますし、個人の自由も増えるわけですが、一方で、ロギングであるとか自分の状況や予定を常にチームに対してシェアし続けていくことというのは、それはそれですごくタスクを増やすんじゃないかという気もするんですけれども。

Alvaro:
アジャイルでプランニングする時は、2週間くらいのスケジュールを最初に綺麗に作ってしまうんです。チームで働いている時に、前もって、例えば「今日は病院に行く」とか、「子どもの迎えに行かないといけない」ということを共有し、納期さえ守っていれば問題ないと思います。

例えば、先週は比較的ゆっくりできていたんですが、そんなに怠けてばかりもいられないので、昨日は夜遅くまで起きていて、今朝も朝早くからクライアントとミーティングをしました。そういう働き方も、チームに共有していて、成果物さえ提出すれば、全て自分のコントロール配下にあるわけですよね。

ただ、作業を一点に集中させてたまに休むというやり方は、ストレスフルになりがちなのであまりお勧めはできませんが。


顔を合わせておこなう「些細なコミュニケーション」は必要か?

— あえて「リモートワークは難しいんじゃないか」という姿勢で極端に話しますが。納期さえ守れば、間のプロセスはどうでもいいということにすると、常時のコミュニケーションは成立しないし、ふっと何かを思いついて誰かにすぐ話しかけられたりすることって、モノ作りをする上で、些細ですけど、重要なコミュニケーションだと思うんですね。そういう点で何か気を付けていらっしゃることはありますか?

濱田:
話す必要がある時は、前もって「明日会社に来てくれ」と遠慮なく言えばいいんじゃないかなと思いますが、「ちょっとした思いつきを形にできる機会が失われている」みたいなところがあることも確かに理解しています。それに対しての、明確な答えはまだ持っていないですね。

ただ、いくつか試案みたいなものはあります。例えば、アイディア思いついたタイミングで、とりあえずその場にいる人に話をするというのが、そもそも本当にベストなことなのかということをもう一回考えなければいけないなとか。前提をそもそも疑う必要があるので、思考のトライ&エラーみたいなことがずっと続いているんですね。それを怠らないということが、無骨ではありますが今ある唯一の最適解という感じです。話を戻すと、確かにフラッシュアイディアの共有方法についての課題感は感じています。

— そうですよね。かなり強く意識をしないと、些細なコミュニケーションを取ることは億劫になりがちですよね。

井手:
人によっては、いろいろなものをため込むというか、1人で悩んで数時間過ごすことがあったりもするので。リモートでも、コミュニケーションを損なわない空気を作っていったり、主にチャットにはなると思いますが、そこでの振る舞い方とかをそれぞれが気を付けるというか、共通認識を持つということが重要なのかもしれないと感じていますね。

濱田:
我々は相談される役として立ち振る舞わなければいけないので、そういう人は会社にいたほうがいいのかもしれないなという感覚もあります。実験的に今週はあまり会社に行っていないんですけど、まだまだトライ&エラーを繰り返している状況ですね。

分かりやすいデメリットと言えば、例えばディレクターとかが、「こういうアイデアを実装したいんだけれども」とか、「こういうバグが起きてしまって、どうにかしないといけない」という時に、とりあえずその場にいる人に言ってしまう。現状、新人の子たちはフリー出社制度を使えないことになっているので、自然、その子たちに難題が降りかかってきます。その結果自分のタスクを消化する時間を奪われてしまい、その子たちの負荷が高くなるという問題が出てきたりしましたね。

— Alvaroさんの場合は、ものすごい人数がいるチームで仕事をされていると思うんですけれども、人数が多ければ多いほどいろいろな人がいて、日々の雑談みたいなコミュニケーションとか、ちょっとした相談ごとみたいなものを大事だと思って実践できるタイプの人と、億劫になったら億劫になったままで、ふわーっとフェードアウトしていってしまうタイプの人も中にはいると思うんですが、そういう人をどう巻き込むか、何かテクニックがあるのでしょうか?

Alvaro:
そうですね、人数が多いので、当然いろいろなタイプの人がいます。シャイで、アメリカの経営者が好きじゃない人とかもいますけれども(笑)でも、やはりコミュニケーションはすごく重要なので、合う方法を見つけていかないといけません。できるだけオープンに話ができるような雰囲気を作っていくことが大事ですし、チームの中にも電話じゃないと嫌だとか、チャットは嫌、ビデオは嫌とか音声だけにしてと言う人ももちろんいますが、アジャイルワーキングの場合はいつも全員が繋がっていないといけないので、どのぐらいの進捗度かというのを、常にコミュニケーションをして、伝え合っていかないといけないですね。

—《後編》へ続く

※本稿は、発言の意図を改変しない範囲で、加筆、修正、整文を施してあります。


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