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最後の花を見届けよう

ー馴染みのサクラ

実家から最寄駅に向かう途中に、馴染みのサクラの木がある。雨の日も風の日も、大きな幹をどんと構え、毎年4月になると、周辺の路面を散った花びらで桜色の絨毯じゅうたんを敷き、心を和ませてくれた。近隣の人たちを含め、もはや日常の一部だと言える。そのサクラの木が、早ければ今年5月にも伐採されると知った。予期せぬ突然の知らせに、ショックで一瞬、心臓が停まった。諸行無常を思い知らされる。

樹木医の見立て

この木を管理する自治体関係者の掲示によると、一見、立派に見えるこのサクラの木は、実のところ、かなり弱っていたらしい。「枝にキノコが生えるなど、以前から生育状態不良の兆候が見られましたが、樹木医の精密診断によれば、『幹内部の空洞率が50%を超えるなど腐朽が著しく、樹勢の衰えが顕著』との結果でした」という。

倒木の危険があるらしく、この木の下を通過する人たちの安全を第一に考え、残念ながら伐採せざるをえなくなったそうだ。「この春に咲く最後の花を皆さまに見届けていただき、その後、伐採作業を行います。ご理解とご協力をお願いいたします」と関係者。あまりに突然で、あまりに悲しい知らせに、胸がキュッと締めつけられた。

「寂しくなるわね」

このサクラの木については、父親や母親、そして姉も愛着を感じているはずだ。幾度となく、この木の下を一緒に通り過ぎた奥さんも、きっとそうだろう。悲しい知らせを独りで抱えるのは、あまりに心の負担が大きい。すぐに母に伝える。すると、母も「うそっ!?」と言ったきり、しばらく絶句。その後、「寂しくなるわね」と言葉を継いだ。

このサクラの最後の花。家族揃って見届けたい。

(写真:『りすの独り言』トップ画像=フリー素材などを基にりす作成)

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