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【中国大都市見聞録1】中国に何を求め、何を感じたのか

1. なぜ中国へ?

なぜ人は都市を作るのだろう。なぜ都市に住むのだろう。

農耕社会が成立してから、人類の一部は集まって住むことを選んだ。基幹産業が第一次産業から第二次産業、第三次産業へとシフトしていくにつれ、都市は加速度的に巨大化し、ますます多くの人が都市に住むようになった。現在世界の都市人口率は50%を超え、未だかつてない水準に達している。

都市に住むことは、生産力のある広い土地を手放す代わりに狭くて家賃の高い家に住むことだし、騒音や大気汚染に悩まされることだし、感染症の影響を受けやすくなることでもある。しかし同時に、自分の好きな人と出会い、好きなものを食べ、好きな仕事ができる(諸説ある)、自由な場所だからこそ、都市は人を惹きつけ続けている。

私は東京都江東区で生まれ、日本一の混雑路線東西線にもまれて育ち、電車に乗って優れた教育機会を享受してきた。今住んでいる本郷では、街のいたるところに刻まれた歴史に囲まれながら、好きなお店に通って生活している。雑然とした都市で生まれ育ってきたからこそ、集まって住むことの魅力と可能性を信じたい。コロナ禍で散々都市からの回帰が叫ばれたけれど、たくさんの人と出会えること以上に大事なことなんてないと思う。田舎や郊外での生活は素晴らしいと思うけれど、街の真ん中でも同じくらい素敵に暮らせるはずだと思う。そう思って大学で都市計画を学んでいる。

都市計画は多くの人が同じ空間で暮らすためのルールだ。19世紀末から20世紀初頭にかけて、近代都市計画が形成される前にも、都市空間はいろいろなルールで作られてきた。都市計画はいつだって経路依存的でローカルなものだから、ある場所でうまくいった政策が他の場所でもうまくいくことは少ない。だが、全く別の経路で発展してきた都市があるからこそ、その都市の形態や政策を相対化してみることができる。歴史も文化もサイズも制度も異なる都市をたくさん知っていることで、今自分が見ている都市に新しい視点をもたらせるはずだ。そしてそもそも将来日本だけで仕事をする必要はないから、世界中の都市をフラットに比較できる視野を持っていたい。

私は昨年1年間イギリスに留学し、ヨーロッパ中の都市を歩いてきた。イギリス、西欧(ドイツ・フランス・オランダ等)、北欧、南欧、旧共産圏(東ドイツ・東欧諸国)、アメリカ、北アフリカと、地域ごとに都市の形態が異なっていた。特に旧共産圏や北アフリカの都市は、これまで見たことがない都市形態で、都市の在り方について新しい気付きをもたらしてくれた。

そして今回、都市への視野をさらに広げるべく、中国への旅行を決めた。中国は地理的に日本に近く、歴史的文脈を一定程度共有しながらも、全く異なるシステム・思想のもと都市を作っている。とにかく街を歩いてみて、感じたこと、気になったことを調べながら、中国の都市の思想・形態・制度を理解しようと努めた。

2. 旅行の概要

2/29-3/10まで計11日間で、香港、深セン、広州、長沙、武漢、合肥、南京、上海の8都市を回った。このうち香港・広州・武漢は2日かけてじっくり回り、長沙・南京・上海は1泊で、深セン・合肥は日帰りだったのであまり理解が深まっていない。移動は主に高鉄を使い、朝9時半-夜18時半まで街を歩き回った。できる限り広いエリアをカバーし、かつ地元の人が生活している空間を見ることに努めた。

生成AIに作らせているので若干のズレもあると思うが、大まかなオーダーは正しいはず。

各市の基本情報を整理すると、いずれの市も常住人口が1000万人近くかそれ以上の大都市で、中国版の都市ランキングでも上位に位置している。中国の1人当たりGDPは約12,550$(2021年)で、訪問した中で一番低い長沙市・合肥市でも平均水準より25%ほど高い。当たり前だが、中国の都市を見に行ったというよりも、ほんの一部の大都市を見に行ったに過ぎないことに気づく。

3. 実感としての中国大都市

実際に中国の大都市を歩き回ってみて感じたことを列挙してみる。リサーチに基づかない、純粋に主観的な感想だ。

安全性

・どれだけ歩道に原付が行き交っていてもひったくりがない。ロンドンなら3回は盗られそう。
・路地裏に入っていっても危険を感じない。「奥まった」「汚い」場所ほどコミュニティがあり、路地への視線があり、むしろ安全に感じる。写真を撮ったりしていても排他的な視線をあまり向けられなかった。
・同質性があるからこその安心感を感じる。中国国内での人口移動は多くとも、国外からの移民は殆どいない。「中国的なるもの」が存在するかは議論の余地があるけれど、自分の感覚としては、多様な人種と文化が入り混じるヨーロッパ大都市で共通して存在した他者への警戒感が希薄だった。

快適性

高速鉄道や地下鉄が整備され、バス網もあり、食べ物もおいしい。便利で安い。支払いは全部アリペイかWeChatで解決する。外国人にとっては中国語がわからず、中国国内の銀行口座がないので支払いが機能しないことがあるし、中国の電話番号がなければ使えないアプリも多いが、中国人であればこれほどまでに便利な国はないだろう。

同質性/閉鎖性/均一性

・半鎖国状態と言っていいほどに外国人がいない。上海以外でほとんど外国人を見なかった。広州・深センには外国人が多いはずだが、おそらくマンション居住+車移動なので街中で見ることはなかった。長沙・武漢・合肥では外国人の存在が想定されておらず、高速鉄道はパスポートに対応していないし、ホテルのフロントでもパスポートを提出するとチェックに手間取るくらい慣れていなかった。当然英語は通じない。前述のように中国の銀行口座や電話番号がないと生活できない。
・「中国的な都市」の形態は存在していて、都市ごとの差異はありつつ共通した要素が多い(当たり前)。どの都市も「歴史的な街並み」「改革開放以前の古びたエリア」「1980-2000年代あたりの都市化エリア」「2000年代以降の高層住宅群開発」でなんとなく整理できる印象がある。差異となるのは基本的に歴史であり、中心部にある。郊外に行くほどどの都市も同じ要素で構成されている。

歴史的なものへの執着

都市にキャラクターを与えるのは歴史だ。日本以上に急速な都市化を経てきたからこそ、均一でない歴史への執着を感じる。45年前に誕生した深センでさえ、中国の歴史的な街並み"っぽい"エリア(東門)が中心的な商業エリアになっている。南京や上海でも再建された歴史的な街並みが賑わいの中心だし、武漢や上海は旧租界の西洋建築が人気だ。その土地の出身だったりゆかりがある人物への興味関心も強く、広州の孫文、湖南(長沙)の毛沢東、合肥の李鴻章は特に印象的だった。李鴻章に至っては李鴻章大雜燴という安徽料理の代表的な一皿になっている。ただこれは日本でも欧州でも同じような話なので、中国独特というのは大げさだとも思う。

4. noteを書きながら問いたいこと

noteという形でアウトプットを出すのはコストが高い。noteを書くにはいろいろなことを調べ、振り返り、思考を整理しないといけない。本noteシリーズを通じて、以下について考えていきたい。

  • その都市が中国全体の中でどんな位置づけにあるのか

  • 中国政府は都市政策を通じて何を実現したいのか

  • 政府は「都市政策」として具体的に何をしているのか/何ができて何ができないのか

  • 近年の都市政策の方向性や目立つイニシアティブは何か

  • 都市と不動産市場の関係性


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