歴史発想源_南洋雄飛篇_

第七回:南洋と祖国の架け橋「日本委任統治領」[和魂の酋長・南洋雄飛篇]

第一次世界大戦後、日本が南太平洋の島々を委任統治領としていく中、トラック諸島で酋長となっていた森小弁は日本との貿易を再開させ、どんどん利益を上げていきました。

そして森小弁はその巨額の利益を、トラック諸島の産業振興や教育水準の向上のためにどんどん投資していきます。一人の日本人によって戦後の南洋の経済基盤が作られていき、日本と南洋は密接に結びついていくのです。

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南太平洋と日本の架け橋となった日本人の大酋長・森小弁の生き様を描く「和魂の酋長・南洋雄飛篇」(全8回)、第7回をどうぞ!


▼歴史発想源「和魂の酋長・南洋雄飛篇」〜森小弁の章〜

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【第七回】南洋と祖国の架け橋「日本委任統治領」

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■私財は全て、島の発展のため


第一次世界大戦の影響で、ドイツに宣戦布告した日本軍が南洋諸島を次々と奪取し、それによって日本の占領下となったトラック諸島。

既に森小弁によって日本化されていたトラック諸島に日本軍の臨時南洋群島防備隊の司令部が置かれ、森小弁はその南洋群島統治のアドバイザーとして司令部の政務顧問に就任することになりました。

1919年(大正8年)に、第一次世界大戦は終結。

その大戦の後始末の講和条約、いわゆる「ベルサイユ条約」で、トラック諸島など旧ドイツ領だった南洋群島は、日本の委任統治領であることが承認されました。

つまり、それら南太平洋の島々は日本が治めていいよー、と国際的に認められたわけです。

ドイツ占領時代にはドイツによって島外への貿易を独占されていたため、森小弁はそれまで築いてきた日本との取引は全て壊され、ドイツの理不尽な取引の下で細々とした商売を15年間続けてきました。

しかし、ついにそれが祖国によって解放されたことで、森小弁の商社は一気に息を吹き返すことになりました。

島民たちは、以前よりもコプラの製造に熱が入り、トラック諸島の経済はいっそう潤っていくのです。



日本相手に貿易をして大いに稼いだ森小弁は、そのお金を何に使っていたのか。

まず森小弁がその私財を投じて行なったのは、公立学校の建設でした。

トラック諸島が正式な日本の委任統治領になった今、トラック諸島の人々の教育を、日本本土と同一レベルまで引き上げなければならないと森小弁は考えます。

それには、スペインやドイツの占領時代に教会の一室で宣教師が片手間に教えていたような、寺子屋タイプの私塾では十分ではありません。

そこで森小弁は、日本本土にあるような公立の尋常小学校の仕組みをトラック諸島に持ち込み、校舎建設のために自分たちの私財を寄付するのです。

そのような森小弁の尽力が実を結び、トラック島民学校が開校となります。

それまで、学校教育という概念がなかった島の部族たちに、日本の高度な教育が持ち込まれることになったのです。

島の子供たちは、小学校に通いながら日本語や日本の文化を学んでいきます。

やがてそこで教育を受けた子どもたちは、南太平洋の各地、また世界各国へと羽ばたく優秀な人材へと育っていくことになるのです。


また森小弁は、コプラ貿易で稼いだ利益を投じ、道路を作ったり、橋を架けたり、病院を作ったり、港湾や波止場を整備したりと、トラック諸島のインフラを次々に築いていきました。

森小弁自身は質素な生活を送っていて、得た利益は全て、自分のためではなくトラック諸島の産業開発に注ぎ込んでいったのです。

トラック諸島の経済はまさに、森小弁のリーダーシップによって築かれていきました。

【教訓1】 財産は自分のことよりも後進のために使う。


■増え続ける日本人入植者

森小弁は、情報発信も忘れませんでした。

この頃の日本にとっては、遠き南太平洋の島々はまだまだ未知の場所。

「南太平洋とは、そんな魅力ある場所なのか!」と、そこに理想郷の姿を見出した冒険心あふれる起業家や開拓者たちは、次々とトラック諸島へと移住をしてきます。

ドイツ占領前には14人までに増えた日本人入植者が、1920年の国勢調査時には約3,300人にまで増えており、その後も多くの日本人が入植してきました。


その年、日本政府は南洋群島の委任統治領を治めるための省庁「南洋庁」を設置することを決定します。

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