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キーワードは「映画化決定」。プロスポーツは感動ストーリーを描き出すビジネスだ

10月12日、台風19号直撃で首都圏は大変なことになっているのだけど、11日夜に開催されたサポーターミーティングにより、町田ゼルビア方面はクラブのことでも大荒れの模様で、Jリーグのチームを取材し続けている者としても、その様子を見て胸を痛めております。

ことの発端と経緯はこちらで。

火に油をそそいだサポーターミーティング

チーム名とエンブレムおよびマスコットの変更が行われるという情報が流れた当初から、ゼルビアサポのみならず多くの他チームのサポーターが騒然としていたのですが、そのことを受けて開催したサポーターミーティングでのサイバーエージェント社・藤田晋社長のプレゼンが火に油をそそぐ展開に。

環境整備だとか集客増だとかチーム強化だとかのプランに関してはある程度は誰もが賛同する内容だと思います。ていうか、当然やらなきゃならないこと。今後のACL優勝までの目標が「マジでそれ達成したら神」レベルなのは「夢が大きいって素敵ですね…」とも思えるけど、それは企業として頑張ってほしい。サポーターだって応援しているチームが強くなること自体は拒否するものではないでしょう。

なのにこれだけ反発され炎上してしまうのは、ビジネスとして参入しているはずなのにも関わらず、藤田社長があまりにも「Jリーグ文化」を理解していないからではないでしょうか。チーム名やエンブレムやマスコットが他サポからも含めどんなふうに愛されているかを知っていれば、そしてサポーターの方々がどんなふうに自腹を切って応援グッズを作ったり買ったりしながらアウェイ遠征しているかを知っていれば、「大旗くらいプレゼントしますよ」といった、サポーター感情を逆撫でするような発言は生まれてこなかったはず。「ゼルビアというチーム名は覚えづらい」という話に絡めてV・ファーレン長崎まで貰い事故したのはもう、気の毒というかなんというか。

西大分港湾地区再開発をめぐって経験した相似形の図式

かつて、わたしの住む西大分港湾地区がフェリー乗場移転を含む再開発計画で大揺れに揺れたことがあります。今回の一件はその図式に似ていて、当時のことを思い出しました。

桟橋の老朽化などにともないフェリー乗場を移転させるとともに、西大分港湾地区を商業地として活性化させたいという県のプラン。旧乗場あたりはベイサイド地区として緑地化し、古い倉庫群を買い上げて商業施設にリノベーションする。歩道には煉瓦を敷き詰め、若者が集うような街へ。「にぎわいの創出」と、住民説明会で配布されたレジュメに大書されていました。いやそもそも住民説明会にしても、こちらが「なんかうちの近所で勝手に進んでるみたいですけど…」と声を上げて初めて開催されたんですけどね。

そこで図面を見せられて、我が家の前の道の幅が狭められ一方通行になる予定であることを初めて知りました。ていうかその図面自体が、地域住民として見ると「本当にこのへん歩いて描いた?」と確認したいようなものだったので、それを指摘してなんとか一方通行化は撤回してもらえたのですが、多分その図面の中に人が暮らしていることに、プランを立てる側は考え至らなかったのだと思います。

その後も「工事にかかるから」と我が家の前の道路を封鎖されたまま、着手する様子もなく半年ほど放置。当時わたしはそこでギャラリーカフェを営んでいたので、ほそぼそとした店とはいえ最後にはさすがにブチ切れました。

当該地区に住む人たちの意見を聞くことなく、自治体と委託事業者とだけで進められていた再開発計画。当時そのプロジェクトの現場担当者だった県土木事務所の方に御尽力いただいて少しだけこちらの要望も反映させてもらうことが出来ましたが、若気の至りもありつつ、ああ、世の中ってこんなふうに進んでいくのだな、と遠い目になったのを覚えています。

港のそばには芝生の公園がつくられ、倉庫だった建物はカフェや美容室や結婚式場となり、遊歩道も整備された。一方で、それまで営業していた店は去り、以前の公園で将棋を楽しんでいた御老人たちの姿は消えました。おじいちゃんたちどこに行ったんだろうと探してみると、それぞれの自宅前に椅子を置いて一日中ぼーっとそこで何もせずに腰掛けていたりして、それがいちばんつらかったかな。

長年この地区に住んで港湾事業を支えてきたおじいちゃんたちだけど、そう遠くないうちに多分死んじゃうし、死なないにしても施設に入ったりしていなくなる。このあたりの風景が好きで引っ越してきたわたしたちも、いきなり周囲が一変してびっくりです。でもそんなのは個人の都合でしかなく、公共事業のほうが優先されるのは仕方ありません。経済のシステムが社会を回していくことこそが重要なのです。感情を排除すればそれは十分に理解できる。御先祖さまから受け継いできた土地だってダムの底に沈ませなくちゃならないときがある。愛着としては悲しいけれど、それによって多くの人の治水/利水環境が整うことになることを思えば、です。

無知による無防備さが招く悲劇。それは「リブランディング」とは呼べない

本来はホワイトナイトとなって歓迎されるべき藤田社長なのに、完全に掴みをミスったな、という印象になったのは残念です。

Jリーグ文化の実態を知らないから無防備に「大旗くらいいくらでも作ってあげますよー!」と邪気のない提案をしてくれたりしちゃう。「え、なんでそんな怒るの?」と思ったでしょうか。想像すると双方にとってつらい。

プレゼンでも「リブランディング」とか最近流行りのビジネスワードを使っているけど、果たしてそれは本当の意味で「リブランディング」たりえているのか、と思います。元ネタのブランド価値を十分に知らずして「リ」もクソもなくね?…と、口の悪いわたしは問いかけたいよ。

欠如しているのは「感動ビジネス」という視点

こういう行き違いの根底には、プロスポーツが「感動ビジネス」であるという視点の欠如があるのではないかと考えます。

観客がスポーツ観戦にお金を落とすのは何故か。勝利の喜びや敗戦の悔しさを分かち合ったり、スーパーなプレーに感嘆したり。チームがシーズンを追うごとに成長していく様子を見守ったり。好きな選手を見つけて、その人間ドラマを追いかけたり。そしてファンやサポーター同士でそれを共有し、ときには二次創作的に世界を広げたり。

スタンスや楽しみ方はファンやサポーター、そして彼らの応援するチームや選手によってそれぞれでしょうが、そこにはいずれも人が存在し、さまざまに感情を揺さぶられているわけです。各自がスポーツを応援する物語を生きている。この小説にはそんな「どこかの誰か」がたくさん出てきます。

そんな「どこかの誰か」たちの感動の集合体の「うねり」が、「観られる」ことで成立するプロスポーツのシーンを生み出し、ビジネスを成立させていく。それは大前提のことなのに、藤田社長のプレゼンには、その視点が欠落しているように感じられてなりませんでした。

もっとプロスポーツビジネスについて深くシビアに考える過程を踏まえていれば、Jリーグ特有の文化を知ろうとしたでしょうし、そうやって知ることでそこにある何がファンやサポーターを惹きつけるのかが見えてくれば、あのような行き違いの悲劇はせめてもう少しは防げたはず。

プレゼンの冒頭には町田ゼルビアの歴史について触れていましたが、それをストーリーとしてとらえるまでには、彼は十分に咀嚼できていなかったのではないでしょうか。これまでのゼルビアが築いてきた文化を自分なりにストーリー化できていれば、現在ひらかれているページの先に、どのように自分と新しいクラブを紡いでいくか、もう少し戦略的に演出できたのではないかと思うのです。

「映画化決定」な展開が大好きなクラスタ

わたしが取材し続けている大分トリニータも、数々の波乱を乗り越えて現在に至るクラブです。25年前の創設から右肩上がりに成長し、予算のない地方クラブながらどうにかJ1で残留争いを繰り返していた中で、2008年にナビスコ杯優勝。「地方の星」と讃えられた翌年に未曾有の経営難に陥り、借金を返済しながらJ1に返り咲いたりJ2に戻ったり、さらにJ3にまで転げ落ちたりもして、そこからいまはまたJ1で戦っている。

いろいろな時期をたどってきましたが、どんなに落ち込んでも一定数以上のファンやサポーターが応援し続けてきたのは、クラブの描き出すストーリーがつねに魅力的だったからではないかと、わたしは考えています。意図的に演出された部分と、なりゆきでそうなった部分とがあるとは思いますが。

トリニータだって他人事ではありません。これまでは県内の自治体や経済界の多大な支援を受けながら県民クラブとして運営されてきましたが、いずれは一企業として独立採算できる力をつけなくてはならないと、榎徹社長もインタビューで語っています。それは当然の流れです。でも、そこにはいろんなハードルがあるし不安もある。どのクラブだって一歩踏み誤れば、存続さえ立ち行かなくなってしまうリスクがあります。

だからこそ、「応援したい」「支えたい」と、ファンやサポーターやスポンサーが思わず腕をまくってしまうようなストーリーを紡ぐ努力を休んではならない。トリニータなんかは総合的に見ればむしろ「こんなダメなクラブは俺たちがなんとかしてやらなくちゃ!」的な歩みでしたよね。もしかしたらゼルビアもそうだったかもしれない。アクセスの悪い(そりゃもうすこぶる悪い)野津田への道を雨の日も真夏日も通い続けた人たちの積み重ねてきた日々。そんなゼルビアがある日突然、シンデレラのように生まれ変わったらそれはもう映画化決定です。プロスポーツファン周辺の方々が御存知のとおり、彼らは「映画化決定」な展開が大好きなんですよね。

あの感動ストーリーの「うねり」が、ひとりひとりのドラマの集合体であるということ。それを理解すればきっと、余計な行き違い少なく、ともに高みを目指せる関係になれるはず。だから藤田晋社長にはもう一度、この本をオススメしたいと思います。

どうかFC町田ゼルビアの今後が、希望に満ちあふれた輝かしい未来へとつながりますように。

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