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生成AIとフェアユース 世界最高の人類悪たち

この記事は私のブログの内容を周知目的で転載・改変したものです
https://wing-sky-nine.com/2023-11-11/


はじめに


米国著作権局が著作権で保護された素材の生成AIの使用に関する新しい規則に関してパブリックコメントを募集していました。

AI companies have all kinds of arguments against paying for copyrighted content

世界で名だたるAI企業から様々な意見があつまりましたが

どこも著作権保護された著作物でも無許諾で機械学習に使用することができ、著作者に金を払う必要は無いという意見でした。

AI企業各社の主張


以下AI企業の意見を抜粋

メタ:著作権保有者にはそれほど多くのお金は入らないでしょう
この種のライセンス制度を今更導入することは、開発者たちが何百万もの権利保有者を特定するために奔走する混乱を引き起こすでしょう。というのも、公平なロイヤリティが支払われるとしても、AIのトレーニングセットの中で一つの作品が占める重要性は微々たるものであり、支払われる金額は非常に小さなものになるため、その恩恵はごくわずかです。

まあ兆単位のトークン、億単位の画像だと個別に支払う料金も少なくなりますね。Adobe Fireflyは還元しているのですが、1枚につき2円だそうです。それ手数料の方がはるかにかかりますし、著作者はもらっても嬉しいのでしょうか。NAFCA 一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟は還元はいらないと主張していました。

グーグル:AIトレーニングは本を読むことと同じ
もしコピーを作成せずにトレーニングが行えるなら、ここに著作権の問題は存在しません。実際、これは『知識の収穫』行為です。ハーパー&ロウ事件での裁判所の比喩を使えば、本を読んでその中の事実やアイデアを学ぶ行為と同じで、これは侵害行為ではなく、むしろ著作権法の目的を推進するものです。技術的な問題として、著作権付きの作品からそのアイデアや事実を抽出するためにコピーを作る必要があるという単なる事実は、その結果を変えるべきではありません。

これは日本でも過去議論されていますね。著作権法30条の4の前身になった旧47条の7開設時の文化審議会で指摘されていました。

情報解析の場合、その目的は、著作物の思想、表現そのものを感じ取るのではなく、その中から必要な部分を探し当てることや、アイディアや背景情報等を抽出すること等であって、仮に生身の人間が行ったとするならば視聴行為として著作権が及ばないはずの行為について、これと同様の行為をコンピュータ等に実行させようとする場合には、いったん中間的にデータとして蓄積させなければならないために著作権法上の利用行為となってしまうなどの点が、一例として指摘できると考えられる。

文化審議会著作権分科会報告書(平成21年1月 文化審議会著作権分科会)


人間の情報解析では前段階の視聴行為に著作権が及びませんが、コンピュータによる情報解析ではこの前段階として複製を行わなければいけないことが指摘されました。

情報解析という著作権に抵触しない行為のために複製を行わなければいけないことは課題になっています。

ハーパー&ロウ事件をとりあげていますが、あくまで人間と機械とでフェアにするべきでしょう。

マイクロソフト:著作権法の変更は小規模なAI開発者に損害を与えかねない
トレーニング用に利用可能な作品に対して許可を得ることを要求すると、AI革新を妨げることになるでしょう。作品とその所有者の身元が明らかであっても、責任あるAIモデルを開発するために必要なデータの規模を達成することは現実的ではありません。このようなライセンス制度は、ライセンスを取得する資源を持たないスタートアップや新規参入者の革新も妨げることになり、AI開発をライセンスプログラムを大規模に実施できる資源を持つ一握りの企業や、著作権付きの作品をAIモデルのトレーニングに使用することが侵害ではないと判断した国々の開発者に限定することになります。

学習に使用するためにすべての著作物に対して許可取っていたらAI技術の革新が阻害される可能性があると主張しています。膨大なデータを保有しておらず、許諾が取れないような弱小企業や研究者・新規参入者の技術革新は遅れてしまい。膨大な情報資源を持つ一部の大企業や著作権法的に有利な国に開発を限定することになると言っています。

たぶんその有利になる大企業はマイクロソフトお前じゃいといいたくなりますが、下々のAI企業のことも考慮に入れてくれるマイクロソフトの寛大さに心打たれるばかりです。

アンスロピック:現行法は適切、変更する必要はない
健全な政策は常に、創造性、革新、およびその他の価値を支援するために著作権に適切な制限を設ける必要性を認識しています。私たちは、現行の法律とすべての関係者間の継続的な協力が、様々な利害関係を調和させることができると信じています。これにより、AIの利点を解き放ちながら懸念にも対処することができます。

アンスロピックは現行法で十分って言っています。

まる。

アドビ:フェアユースで、アコレードがセガのコードをコピーした時のように
セガ対アコレードの訴訟では、第九巡回裁判所はセガのソフトウェアの中間コピーが公正な使用であると判断しました。被告は、セガのゲームコンソールと互換性のあるゲームを作るために必要な機能要件(保護されていない情報)を発見するために、リバースエンジニアリング中にコピーを行いました。このような中間コピーは公衆にも利益をもたらしました。それはセガのコンソール用に独立したデザインのビデオゲーム(機能的かつ創造的な側面を持つもの)の数を増加させることにつながったのです。この創造的表現の成長は、まさに著作権法が促進することを目的としていたものでした。

アドビは1992年のセガ対アコレードの事件を例に挙げてフェアユースが適用されることを主張していますね。アドビは自社のAI開発ではアーティストから許諾取って還元しているのでフェアユースいらんのではと思いますし、過去にはたびたびアーティスト側にたって、自社が有利になるような法案通そうとしています。今回は他のAI企業側に立ってフェアユースを主張しています。

アンスロピック:コピーは単なる中間段階
上記の議論にあるように、Claudeのトレーニングプロセスでは、データの統計分析を行うために情報のコピーが作成されます。このコピーは単なる中間段階に過ぎず、保護されない要素を作品全体から抽出して、新しいアウトプットを作成するために行われます。この方法により、元の著作権付き作品の使用は非表現的です。つまり、著作権で保護された表現を再利用してユーザーに伝えるわけではありません。

またアンスロピック。グーグルと同じであくまで複製は中間段階でしかないと主張しています。また作品から抽出しているのは著作権保護されていないアイデアであると言っていますね。

ハギング・フェイス:著作権付き素材を使ったトレーニングはフェアユース
トレーニングにおける特定の作品の使用は、広く有益な目的を持っています:独自で生産的なAIモデルの創造です。このモデルは、初期作品の特定のコミュニケーション表現を置き換えるのではなく、その下層にある、著作権で保護される表現と全く関係のないさまざまな種類の出力を作成する能力があります。これらの理由とその他の理由から、著作権付きの作品の大量にトレーニングする際、生成AIモデルは一般的にフェアユースとされます。ただし、「一般的に」という表現は意図的に使っており、より困難な判断を必要とする事実のパターンも想像できるからです。

ようは機械学習は著作権で保護されている表現とは全く関係の無い部分使っているからフェアユースが適用されると言っています。

StabilityAI:他の国々はAIモデルのトレーニングをフェアユースとみなしている
シンガポール、日本、欧州連合、大韓民国、台湾、マレーシア、イスラエルを含む多くの管轄区域が、AIトレーニングのための安全な港を作ることで、著作権法を改正し、フェアユースと同様の効果を達成しています。イギリスでは、政府の主席科学顧問が、「もし政府の目的が英国における革新的なAI産業を促進することであれば、利用可能なデータ、テキスト、画像(入力)のマイニングを可能にし、AIのアウトプットに対する既存の著作権および知的財産法の保護を利用すべきだ」と推奨しています。

StabilityAI社はシンガポール、日本その他は著作権法を整備して機械学習をフェアユース同然にしているよって主張しています。本社イギリスの企業なのでイギリス政府の見解を述べています。

アップル:AIによって作成されたコードに著作権を許可してください
人間の開発者が出力の表現的要素や、提案されたコードを変更、追加、向上させる、あるいは拒否する決定をコントロールする状況においては、開発者のツールとの相互作用によって得られる最終コードは、著作権を有するための十分な人間による著作性を持つことになります。

アップルは例外ですね。機械学習ではなくAIによって作成されたコードに著作権保護を求めています。

各社の意見をまとめてみると

メタ:著作者にたいして金が入らない

グーグル:機械学習は人間が本を読むのと同じ

マイクロソフト:機械学習に許諾を取っていれば弱小企業が不利になるよ

アンスロピック:現行法で十分

アドビ:セガの時と同じフェアユース

ハギング・フェイス:著作権で保護されてない部分使っているからフェアユース

StabilityAI:様々な国で機械学習が認められているよ

アップル:AIのコードに著作権認めて

まあだいたいどの企業も機械学習にフェアユースが適用され、著作者には許諾も金もいらないと主張していますね。

アメリカ著作権法のフェアユースについて


フェアユースを規定しているアメリカ著作権法107条です。

17 U.S. Code § 107 – Limitations on exclusive rights: Fair use

Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include—

(1)the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;

(2)the nature of the copyrighted work;

(3)the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and

(4)the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.

The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.

和訳

セクション106および106Aの規定にかかわらず、著作権付きの作品の公正な使用(そのセクションで指定された手段による複製または録音による使用を含む)、特に批評、コメント、ニュース報道、教育(教室での複数のコピーを含む)、奨学、研究などの目的での使用は、著作権の侵害ではありません。特定のケースでの作品の使用が公正な使用かどうかを判断する際に考慮されるべき要因には以下のものが含まれます:

(1) 使用の目的と性質、特にその使用が商業的な性質を持つか、非営利教育目的のためのものかを含む

(2) 著作権付きの作品の性質

(3) 使用される部分の量と重要性が、著作権付きの作品全体と比較してどの程度か

(4) 使用が著作権付きの作品の潜在的な市場や価値に与える影響。

作品が未公開であるという事実は、上記のすべての要因を考慮した上で公正な使用と判断される場合、その判断を妨げるものではありません。

アメリカの著作権法における「公正な使用(フェアユース)」は、著作権付き作品の使用が著作権の侵害にあたらない特定の条件を定めています。公正な使用を判断するためには、以下の4つの要因が考慮されます:

1.使用の目的と性質:


使用が商業的な性質を持つか、または非営利教育目的のためのものかが考慮されます。

非営利、教育的、または個人的な使用は公正な使用の可能性が高くなります。

2.著作権付き作品の性質:


作品が事実的な内容(ニュース記事など)を含むものか、創造的な内容(小説、映画など)を含むものかが考慮されます。

事実的な内容を含む作品は公正な使用の可能性が高くなります。

3.使用される部分の量と重要性:


使用される部分が著作権付き作品全体に占める量とその部分の重要性が考慮されます。

小さな部分の使用や、作品全体の中で重要でない部分の使用は、公正な使用の可能性が高くなります。

4.使用が著作権付き作品の潜在的市場や価値に与える影響:


使用が原作品の市場価値に悪影響を与えるかどうかが考慮されます。

使用が原作品の市場価値を損なわない場合、公正な使用の可能性が高くなります。

これらの4つの要因は、個々のケースに応じて総合的に評価され、公正な使用かどうかの判断が行われます。

機械学習とフェアユース


それでは機械学習にフェアユースは適用されるのでしょうか。実際に裁判機械学習に伴う著作物の利用が、米国著作権法のフェアユースに該当するかどうかの判断が行われた裁判を見てみます。

Thomson Reuters Enter. Ctr. Gmbh v. Ross Intelligence Inc.

「Thomson Reuters Enterprise Centre GMBH v. Ross Intelligence Inc.」の訴訟は、法的調査プラットフォームウェストローの所有者であるトムソン・ロイター社が、法的調査スタートアップのロス社を提訴した事件です。ロス社は、競合するAIベースの自然言語研究プラットフォームを開発しようとし、第三者であるリーガル・リサーチを通じてウェストローのヘッドノートとキーナンバーシステムを利用してAIを学習したとされています。この訴訟は著作権侵害と契約不正干渉の主張を含んでいます。

主な訴訟内容


1.著作権侵害: 裁判所は、ウェストローのヘッドノートとキーナンバーシステムの独創性、およびロス社が使用した内容がウェストローの素材と著しく類似しているかどうかについて、裁判が必要な問題に直面しました。

2.フェアユースの対象: ロス社のフェアユースに関する対象は、使用の目的と性格に関する問題、特に「中間コピー」に焦点を当てていました。中間コピーでは、新しい製品の開発のための一歩として、または保護されていない情報を見つけるために素材がコピーされます。裁判所は、公正利用の4つの要因すべてについて裁判が必要な事実の問題を見つけ、これを陪審員の判断に委ねました。

3.不正干渉の主張: トムソン・ロイター社はまた、ロス社がリーガル・リサーチにウェストローの利用規約を破るよう仕向けたと主張しました。裁判所は、連邦著作権法が著作権法第106条に記載された独占権に相当する州の主張を先取りすると判断しましたが、州の主張に第106条の主張にはない要素がある場合は先取りは発生しません。

裁判でのフェアユースの4要件


1.使用の目的と性質:

この裁判ではロス社の用途は商業利用でありましたが、変容性でありました。商業的利用よりも変容性の方が上回り、機械学習においては「中間コピー」に関する判例がその使用法を最も適切に反映しています。ここでロス社はセガ事件判決を例に「セガの著作権で保護されたソフトウェアをコピーすることがゲームをセガのゲーム機と互換性を持たせるための機能要件を把握するためだけに行われたことから、その機能情報は保護されていなかったため、そのコピーはフェアユースでした。」と持ち出しました。

またSCE事件判決も例に「ソニーのソフトウェアのコピーを使用してリバースエンジニアリングし、ユーザーがゲームをプレイできる新しいゲームプラットフォームを作成したことがフェアユースに適用される。 」ことも持ち出した

この例をあげながらロス社は、AIがヘッドノートや意見の引用を研究したのは言語パターンを分析するためだけであり、ウェストローの表現を再現するためではなかったと述べました。

しかしながら、ウェストローの弁護士編集者作成の創作性のある文章を再現・複製するために、変容されていないヘッドノートのテキストをそのAIに使わせたと主張しています。

どちらかになるかは、陪審の判断に委ねるべきとした。

2.著作権付き作品の性質:

著作権で保護された作品の性質がフェアユースにどのように影響するかです。作品が著作権保護の「核心」に近いほど保護される可能性が高く、そのような作品のコピーはフェアユースと見なされにくいとされています。しかし、「情報的」な作品は「創造的」な作品よりもフェアユースの範囲が広いとも指摘されています。

ヘッドノートは核心に近いですが、それでも特に近くはありません。編集者は、どの法律のポイントを要約するか、それをどのように要約するか、ヘッドノートをどこに添付するかについて創造的な選択をするかもしれませんが、これらの選択は制約されます。一般的に、ヘッドノートは最も重要な法律のポイントを示し、意見の言葉を大まかに追い、段落の始めに配置されます。

最終的に陪審員が判断しますがフェアユース成立に有利であるように思います。

3.使用される部分の量と重要性:

複製の量と重要性がロス社のAIの出力の性質に依存することを議論しています。複製の量を判断する際、問題となる作品の定義が重要です。各ヘッドノートのレベルで定義すると、約25,000のヘッドノートに対して複製が完了したとされます。しかし、コンピレーションのレベルで定義すると、複製はそれほど重要ではないものの、ヘッドノートはウェストローの表現の「核心」を表している可能性があります。

また、利用の定義も重要です。なぜなら、「少量の複製でも、その複製した抜粋が元の作品の創造的表現の核心を成す場合、フェアユースの範囲外となることがある」からです。逆に、「より多くの複製」でも、「複製された素材がその素材の創造的表現の少ない部分を捉えている場合」はフェアユースになることがあります。特に、「公開されない」場合、逐語的な中間コピーは一貫してフェアユースとして認められています。

ここでは、各ヘッドノートのレベルでの定義が最適です。前述のように、コンピレーション登録は個別に著作権で保護される素材もカバーしています。そして、各ヘッドノートが重要です。しかし、各ヘッドノートの核心はその元の表現であり、それが要約する意見の部分とのリンクではありません。したがって、ロス社のAIが主張するように機能するならば、元の表現ではなく意見のみを生成するため、フェアユースと見なされる可能性が高いです。

しかし、この要素も陪審員による事実調査を必要とします。

4.使用が著作権付き作品の潜在的市場や価値に与える影響:

作品の市場への利用影響を判断することについて議論しています。利用が元の作品やその潜在的市場の価値に「意味のあるまたは重大な影響」を与えたかどうかを問います。しかし、すべての損失が同じではありません。原作の表現が侵害されていない場合、その損失は著作権で保護されない利益に関連して一般的に発生する可能性があります。

変容性もこの要因に影響を与えます。コピーが元の目的と異なる目的を達成するために行われるほど、そのコピーが元の作品の満足のいく代替品となる可能性は低くなります。また、市場への影響を評価する際には、技術作品の作成と普及の現実を特に注意深く考慮する必要があります。

ここでは、これらの「現実」が争われています。トムソン・ロイター社は3つの潜在的市場を主張していますが、実質的には2つの市場に言及しています。:ウェストロー自体の法的研究プラットフォームとしての市場と、そのデータの市場です。また、ロスの利用が公共利益をもたらす可能性も考慮する必要があります。ロスの研究プラットフォームは、より低コストで法律へのアクセスを増やす可能性がある一方で、トムソン・ロイター社や類似の企業が将来ヘッドノートのようなコンテンツを作成するインセンティブを減らす可能性もあります。

公共の利益を天秤にかけた時、創作者を保護することの方が良いか、それとも複製による利益を優先することかを決定することは早計と判断されました。著作権は創造的表現を奨励するために両方を保護しようと考えています。したがって、公共利益に関する両方の説得力のある主張を考慮し、最終的なフェアユースに関する結論は陪審員が決定する必要があります。

この事件で注目されていることは「変容性」です。

フェアユースにおける変容性を次の章で見ていきましょう。

フェアユースと変容性


変容性とは、元の作品を新しい文脈や目的で使用し、新しい意味やメッセージを生み出すことを指します。変容性の高い使用は、元の作品に新しい表現、意味、メッセージを加えるため、フェアユースとみなされやすいです。例えば、新しい芸術作品や学術研究において、元の作品を新しい方法で使用することも変容性の使用と見なされることがあります。また、変容性の高い使用は、元の作品の市場価値に影響を与えないか、あるいは元の作品の市場を補完する形で存在することが多いです。このため、変容性が高いほど、市場への影響が少なくなり、フェアユースの可能性が高まります。

変容性に注目してフェアユースの4つの要件をそれぞれ見ていくと

1.使用される作品の目的と性質:

変容性の高い使用は、元の作品を新しい文脈や方法で利用し、異なる目的で使用されることが多いです。このような変容性のある使用は、元の作品の意味やメッセージを変え、新たな価値を生み出すことができます。

2.使用される作品の性質:

変容性の高い使用は、元の作品が創造的なものであっても、新しい意味やメッセージを加えることで、その性質を変えることができます。

3.使用される量と重要性:

変容性の高い使用が元の作品に新しい意味や重要性を付与する場合、使用される量が多くてもフェアユースとされることがあります。

4.使用が著作権付きの作品の潜在的な市場や価値に与える影響:

変容性の高い使用が元の作品に新しい市場を生み出す場合、これはフェアユースの支持材料となることがあります。

総じて「変容性」はフェアユースが適用される重要な要因になっており、

「変容性」の高い使用はフェアユースの4つの要件をクリアしやすくなります。

ここまで見てフェアユースは日本の著作権法30条の4に近い考えをしていることが分かります。偶然の一致ではなく法30条の4が米国のフェアユース導入に頓挫して生まれたもの日本の廉価版フェアユースなので当然です。

フェアユースの「使用される作品の目的と性質」は非享受利用目的に該当します。

変容性が高い使用=元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できない使い方=非享受利用ですね

フェアユースの「使用される作品の性質」これはあまり該当しませんが著作物の性質を説いている1号2号3号だと思います。情報解析の部分とかです。

フェアユースの「使用される量と実質性」その必要と認められる限度の部分ですね。

フェアユースの「市場への影響」は但し書きの著作権者の利益を不当に害することとなる場合に該当します。

フェアユースが問われた過去の裁判


さらに前述の事件で触れられている関係するフェアユースの過去の判決を見ていきます。

Sega Enterprises Ltd. v. Accolade, Inc.


「Sega Enterprises Ltd. v. Accolade, Inc.」の判決は、1992年に米国第9巡回控訴裁判所によって下されました。この訴訟は、Accolade社がSegaのゲームコンソールで動作するゲームを開発するためにSegaの著作権で保護されたソフトウェアをリバースエンジニアリングしたことに関連していました。

裁判所の判決では、Accoladeのリバースエンジニアリングの行為がフェアユースの原則に基づき合法であると認められました。裁判所は、AccoladeがSegaのソフトウェアをコピーしたのは、機能的な要件を理解し、Segaのゲームコンソールと互換性のあるゲームを開発するためであると判断しました。この機能的情報は著作権で保護されていないため、そのコピーはフェアユースと見なされたのです。

この判決は、リバースエンジニアリングとフェアユースの法的原則に関して重要な先例となり、ソフトウェア開発と著作権法の関係に影響を与えました。

Sony Computer Entertainment Inc. v. Connectix Corp.


「Sony Computer Entertainment Inc. v. Connectix Corp.」の判決は、2000年に米国第9巡回控訴裁判所によって下されました。この訴訟は、Connectix社がSonyのPlayStationゲームコンソールのソフトウェアをリバースエンジニアリングし、それを基にVirtual Game Station(VGS)というPlayStationゲームをMacintoshコンピュータでプレイできるソフトウェアを開発したことに関連していました。

裁判所の判決では、ConnectixのリバースエンジニアリングとVGSの開発がフェアユースの範囲内であると認められました。裁判所は、Connectixが作成した製品が「全く新しい製品」であり、Sonyのシステムとの類似性にもかかわらず、Sonyのソフトウェアの創造的な表現を含まないと判断しました。この判決は、リバースエンジニアリングとフェアユースの法的原則に関して重要な意味を持ちます。

リバースエンジニアリングとは、製品やソフトウェアの構造、システム、または原理を理解するために、それを分解し、分析するプロセスを指します。これは、競合他社が製品を分析し、類似の製品を開発するために使用されることがあります。この2つの裁判を見てもフェアユースの原則は、このような活動が著作権で保護された作品に対して行われる場合に適用されるという判決が下りました。日本の著作権法30条の4でもリバースエンジニアリングが該当することについて文化庁が触れていましたね。前述の通りアドビ社やロス社や機械学習はこのリバースエンジニアリングと同種の行為であることを主張しています。

各社の意見書


Google社


Googleの意見書

Google社の意見書ではGoogle社が過去にフェアユースを巡って裁判を起こしたAuthor’s Guild事件とOracle事件を引用し機械学習がフェアユースに該当することを主張しています。

Author’s Guild事件
この訴訟の中心は、Googleによる書籍スキャニングプロジェクトでした。Googleは、多数の図書館と提携して、膨大な数の書籍をデジタル化し、Google Booksサービスで部分的に公開しました。これに対し、Author’s Guild(作家組合)をはじめとする著作権者たちは、Googleのこの行為が著作権法に違反するとして訴訟を起こしました。

彼らの主張は、Googleが書籍をスキャンし、データベースに保存し、オンラインで検索可能にすることは、著作権侵害にあたるというものでした。一方、Googleは、このプロジェクトがフェアユースに該当すると主張しました。フェアユースとは、教育、報道、研究などのために、著作権物を許可なく使用できる特例を指します。

裁判は長期にわたり、多くの議論を呼びました。結局、裁判所はGoogleの行為がフェアユースに該当すると判断しました。この決定は、デジタル時代における情報のアクセスと、著作権者の権利保護との間のバランスを図る上で重要な判例となりました。

Oracle事件
GoogleとOracleの間の訴訟は、GoogleがAndroidの開発にJavaプログラミング言語を使用したことに関連しています。Oracleは、GoogleがJavaの著作権で保護されたコードを無許可で使用し、そのプラットフォームの開発に利用したと主張しました。この訴訟は長い法的闘争になり、多くの重要な著作権に関する問題を提起しました。

訴訟の中心にあったのは、GoogleがJavaのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)の一部をAndroidに実装したことでした。Googleは「フェアユース」の原則に基づいてこれが合法であると主張しましたが、Oracleはこれを著作権侵害と見なしました。

この訴訟は複数の裁判所で争われ、異なる判決が下されました。当初、地方裁判所はGoogleのフェアユースの主張を支持しましたが、その後の控訴裁判所はこの判断を覆しました。最終的に、この事件はアメリカ合衆国最高裁判所に持ち込まれました。

2021年に、アメリカ合衆国最高裁判所は6対2の判決でGoogleの主張を支持し、GoogleのJava APIの使用がフェアユースであると判断しました。この判決は、ソフトウェア業界におけるAPIの使用と著作権法の解釈に大きな影響を与えるものでした。

Meta社


Metaの意見書

Meta Platforms Inc.の意見書では、著作権素材を用いて生成型AIモデルを訓練する技術的プロセスに焦点を当てています。Metaは、これらのモデルの訓練に著作権で保護された素材を使用することは、事実、アイデア、概念を作品から抽出することであり、この使用は本質的にフェアユースであると強調しています。また、著作権法はアイデアを保護するべきではないと主張しています​​。

現在のAI環境における大規模言語モデルの展開方法と、Metaがこのエコシステムにおいて果たしている独自の役割について説明しています​​。これには、伝統的な統計モデルと複雑な大規模モデルの主な違いが含まれ、後者は多様な数学的技術とアルゴリズムを用いてコンピュータが処理できる数値で情報を組織化します​​。これらの技術は、テキストブロックを「トークン」と呼ばれる断片に分割し、個々の単語を捉えて記録する「ベクトル化」のプロセスです。これにより、機械が理解できる単語の「辞書」が作成されます。単語を定義する場合、数値的表記を使用して他の単語との関係を定義し、多次元空間で単語を相互にプロットすることで数学的に表現されます​​。

まとめると、Metaは生成AIモデルの機械学習において著作権で保護された素材を使用することは、その作品から事実やアイデアを抽出することであり、これがフェアユースに該当すると主張しています。

まとめ


機械学習と変容性の高い著作物の利用


機械学習は、元の著作物を新しい文脈や形式で使用し、新たな意味や価値を創出する利用の仕方です。こういった変容性が高い著作物の利用は、フェアユースの4要件を満たす可能性が非常に高いです。

機械学習と事実やアイデアの抽出


機械学習は、著作権保護されている作品から事実やアイデアを抽出します。これは、著作権法が保護する表現形式とは異なります。このような抽出行為は、フェアユースの4要件を満たす可能性が非常に高いです。

機械学習とリバースエンジニアリングの類似性


過去の裁判で、リバースエンジニアリングは特定の条件下でフェアユースとされることがありました。機械学習がリバースエンジニアリングに似たプロセスを経ることがあるため、これらの前例が機械学習にも適用される可能性があります。

各社の主張とフェアユース


各AI企業は、機械学習がフェアユースに該当するため、著作権者の許諾や報酬支払いが不要であると意見書を出しています。

おわりに 世界最高の人類悪たち


どの企業どいつもこいつもろくでなしどもですね。今まで散々生成AI産業の足を引っ張ろうとした、逆張りクソ企業アドビぐらいはアーティスト達を擁護するかなと思いましたが、まあ全員一致で著作者に金は出さんでしたね。これが、いくらでも政府とコネがあるビッグテックを始めとする大企業がパブコメでやることですか。

アメリカのAI企業がこのような態度を貫いているのはとても安心しました。たぶん、日本企業は逆立ちしたって絶対に真似できない部分でしょう。この外道アメリカ企業が技術革新イノベーションを促進し真っ先にAGIやその先まで生み出して世界を引っ張っていくことは確実と思えます。アメリカの技術的、経済的優位性は、今後も続くと考えられます。まだずっとアメリカ企業のグローバルでの天下は続くことでしょう、今回の意見書眺めていたらそうとしか思えませんでした。

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