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どんな出来事も必要なタイミングでやってくる

中高時代。
家庭環境が悪かった私は担任の先生に心配されまくり、校内のカウンセリングを受けていたし、地域の民生委員の人にも繋がれていた。児童相談所へも行った。不本意ながら。

私には日常と化していたので、自分の置かれている状況が児童相談所へ行くべき事柄だとは微塵も思っていなかったから。

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今日は彼とデートだ。
早めに支度を済まし、お洒落をして家を出た。
彼と会う前に久しぶりにお洋服を買いたいな。コスメも見よう。と意気込んでいた。
世間を騒がす感染症が根絶したのかと思うほど、多くの人が日常を過ごしていた。

私のギリギリを一台のタクシーが通った。一瞬私は透視能力を得たのかもしれない。実際には、頭の一部しか見えなかったのだが、一人の女性が乗っていることがわかった。

早川さん(仮)かもしれない。

なぜか本当にそう感じた。
タクシーが速度を落とし、止まる様子があったので私はタクシーの向こうへまわった。
降りてきたのは、やはり、早川さんだった。

早川さん(仮)は、お世話になった民生委員の方だ。
私が生きていけるようにいつも気にかけてくれていた。母とのことも早川さんに相談していたし、家で事件が起きる度に話を聞いてもらうなど、お世話になっていた。

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「早川さん。ご無沙汰しています。」

感染防止のためのマスクにより顔が見えなかったからか、早川さんは自分の関わってきた多くの女性の中から私を検索しているようだった。

「向日葵です。」
マスクをとってみせた。

早川さんに会うのは4年ぶりだ。
長い月日が経っている上に
教員を辞めてから10kgも減った私に
気づくのには少々時間が必要だったようだ。

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早川さんは20分後にどなたかと待ち合わせをしているらしく、手短に、でも丁寧に、私に尋ねた。
仕事を辞めた経緯、体調、今の生活、家族の様子。

一通り話し切ると早川さんは言った。

「随分と変わったわね。」

なんとなく、意味は伝わってきていたが、あえて私は「10kg痩せましたから」と笑った。

「スタイルもそうだけれど、自分らしさが出ているわ」
「昔は常に緊張をしていて、ぎゅっとしていた。今の向日葵さんはのびのびとしている。やっと、自分をだせるようになったのね。安心した。」


「前よりもずっと若く見える。」

私は容姿は昔から幼い。若く見られがちだ。
けれども、この言葉は普段投げられる「若いわね」「幼い」という意味とは大きく違うのを私はわかっていた。

人生の希望を捨て、諦め、日々母のために生きていた私は、ある種の大人びていたと思う。若く希望に満ちた感じはなく、よく言えば達観していた。悪く言えば、可愛げはなかっただろう。隙を作るまいとし、周りは敵ばかりだと思っていたのだから。

「若く見える」それはすなわち、生命力や、エネルギーに満ちているということだろう。

再出発を目前にしている私にとって、この一年の変化を肯定してもらえるのは嬉しかった。教員を辞めたのも無駄ではなかったと思えた。

一瞬得た透視能力。

物事は起きるべくして起きている。
必要なタイミングで、やってくる。

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