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医療ツーリズムで、日本医療を新たな段階へ


はじめに

このnoteで、最初の投稿となります。
はじめまして、消化器内科&肛門外科の医師をしています、長田(ながた) 和義です。
一般社会はおろか本業の医療分野でも全くの無名な人間につき、これから色んな方面の方に認知していただくにあたって、ちゃんと文章なりでアピールをしていかねばと思い立ちました。

身の上話的な内容はまた別の記事にしますが、まずは現在チャレンジを始めている『外国人への医療ツーリズム』への取り組みを通じて、自己紹介をします。


背景

もともとは消化器内科という診療科のごく一般的な病院勤務医でしたが、2019年ごろから色んな出会いから自分の変化があり、最終的には2023年に長崎市のアクセラレーション(企業支援)プログラム『コッコデショ2023』を通じて、医師のキャリア以外に新たなチャレンジをすることにしました。


コッコデショ2023

長崎市では、地元の伝統的なお祭りである『おくんち』の出し物にちなんで、『コッコデショ』というネーミングでアクセラレーションプログラムが開催されています。
3期目を迎える2023年に、僕も参加させていただきました。

長崎市と十八親和銀行&FFGベンチャービジネスパートナーズ、またメンターとして旅のサブスク『HafH』を展開されているスタートアップKabK Style社の皆さまを中心に、いろんな学びや機会をいただき、同期のメンバーと切磋琢磨して数か月過ごしました。

最終的に、プログラムから選考された5名で2024年1月に開催された決勝戦にてピッチを行い、審査員特別賞(準優勝)をいただくことができました。


いま立っているところ

いわゆるスタートアップを地域から創出するのが目的のプログラムで、賞までいただいたところではありますが、自分はいわゆるスタートアップ的な起業は目指していません。
本業を続けながら医師としてのキャリアを活かして、これからご紹介をする内容を長期目線でチャレンジしていく計画です。
戦略を練りながら色んな方面の方とお話して知見やネットワークを徐々に広めており、どこかの段階で適切な環境へjoinする、または自身の仲間を募るということを考えていますので、なにかいただける機会がありましたら、誘っていただけると幸いです。


チャレンジにかける想い

僕は、『日本の医療を、日本経済の足かせから世界に誇る産業にしたい』と考えています。


ジレンマ

現場の医師として人の助けになる仕事をやりがいをもって働き、また同業の皆さまをリスペクトしているのはもちろんですが、キャリアを積んで視野が広がると、逆に多くのジレンマを抱えることとなりました。

それは、社会保障費が明らかに日本経済の足かせとなっていることを強く意識するようになったことです。


『日本医療』特有の課題

国民皆保険制度、フリーアクセス、高額療養費制度などは日本医療の恵まれた特徴ではあるものの、その原資のほとんどは患者負担ではなく現役世代から徴収される社会保険料と税金であり、経済的には負の側面が大きい制度設計です。
また皆保険でカバーできる医療の範囲もおそらく世界一広く、あえて極端にいえば生活保護の医療扶助や本来寿命を迎える段階での延命、検診や自己満足とも取れる医療なども事実上無制限に近い状況であり、医療リソースが妥当とはいい難い利用のされかたをされてしまうことは、多々あります。
これは患者さんや医療従事者が悪いということではなく、制度が引き起こしている現象です。

かなりざっくりですが、こんなイメージ

またデジタル化の遅れ、さまざまな規制、病院統廃合や機能分化が進まないことなどで生産性が低いまま地域医療が運用され、さらには混合診療が禁止されていることで需給や付加価値を価格転嫁できないことから、インフラとしての面でも産業としての面でも、非常に時代遅れだと感じています。


変化なくして持続可能性なし

ただでさえ変化の遅い日本社会の中でも医療業界は最も保守的な世界の一つであり、政治との結びつきも含め、前述の現象や課題は長い歴史の中で強固に積み重ねられてきたことです。
コロナのパンデミックを経験し、わずかに変化の兆しは見えていますが、根本の制度が大きく変わるまでには至っていません。

そもそも本来どういった状態が良いのかということは、立場によっても意見が異なるでしょう。
ただ確実なのは、世界で類を見ないほど巨額の公金が医療および介護の費用として使用されていることに加え、医師や看護師などの人材が急性期医療や高度医療の現場から、美容などの『稼げる医療』やほかの領域にどんどん流出しており、日本の医療が産業として発展することはおろか、『持続可能性』すら危うい状況です。

さまざまな制度の改修は必要でしょうが、法律や業界の慣習が必要十分な変化を遂げることが可能かはわかりませんし、これまでのように3歩進んで斜めに2歩下がるような動きを眺めている時間もありません。

目の前の仕事やこれまでの常識にとらわれず、業界の外や世界へも目を向け、『共創』『オープンイノベーション』のマインドで新たなアプローチが望まれていると思います。


なぜ外国人医療ツーリズムなのか

さてやっと本題です。
僕は、長崎に外国人医療ツーリズムのエコシステムを作りたいと考えて行動しています。
そしてそれが成功できれば、あるいはその過程で日本中の他の地域にも応用できるはずであり、日本医療が外貨を獲得でき日本のプレゼンスを向上させる、誇るべき産業になると考えています。


医療ツーリズムとは

医療ツーリズム(渡航医療)とは、自らが希望する医療行為を受けるために海外へ渡航することをいいます。
高度な精密検査や癌の治療だけでなく、美容整形や最近流行りの再生医療なども含まれます。
日本は全国的に比較的均一かつ高度な水準の医療を提供できる体制であり、本来は外国人にも高付加価値の医療を高単価で提供できるポテンシャルがあります。

また、ウェルビーイング(よりよい状態)を目指すウェルネスツーリズムといった旅行コンセプトも注目されています。
日本は自然や食、歴史、文化などあらゆる要素からいま世界で最も富裕層に人気の観光地の一つでもあり、こういったコンセプトにも本来非常に適していますが、医療を提供できるか否かでもその価値は変わってくると考えます。

身体的な健康やウェルビーイングに意識が高まっていることから、これらの市場規模は今後も大きな成長を期待されています。

医療ツーリズムおよびウェルネスツーリズムの市場規模は、今後ますます大きくなる


じゃあ日本の状況は?

医療ツーリズムの受け入れは世界中で行われていますが、アジアは人口も多く欧米に比べても低価格で医療を受けられることから、医療ツーリズムの市場として今後最も成長すると言われています。
近隣のアジア諸国は国策として医療ツーリズムに投資をし、多くの外国人を受け入れ一大産業となっています。

日本でも2010年の『新成長戦略』で外国人患者の受け入れも政策のひとつとして位置づけられ、2011年に『医療滞在ビザ』の運用が開始されました。
しかしながら、その後ほとんど発展せずに諸外国へ圧倒的な差を付けられた状態で、今日に至っています。

日本では医療ツーリズムの受け入れが非常に少なく、多大な機会損失となっている
参考:経産省 医療国際展開カントリーレポート https://healthcare-international.meti.go.jp/  ほか


日本の医療に需要がないんですか?

そんなわけないですよね。
先人たちの行いのおかげで日本人は一般的に国際的な信用度が高く、とくにアジアの方々から日本の医療は高度で信頼できると認識されているとのことです。
実際、お金を出して日本の先生に意見を聞きたい、日本の病院を受診して検査や治療を受けたいといった話は、たくさん聞かれます。
そんな人たちも、どうしたらいいのかわからないまま希望が叶わないことが多いはずです。

またそのほか日本に在住している、あるいは旅行やビジネスで滞在している外国人も医療を必要とするタイミングがあるはずで、その人たちはなんとか受診自体はできる場合が多いでしょうが、毎度非常に困っていることでしょう。

彼らに付帯している保険や制度、そして彼らのニーズにもさまざまなパターンがありますが、おそらく全員共通して困っています。

ざっくりですが、一般的に考え得る外国人の滞在パターンと保険および医療ニーズの状況


なぜ上手くいっていないのか

ここからはとくに私見になりますが、やはり日本の医療保険制度の特性が大きな障害になっていると考えています。

日本の医療提供体制は、法律、インフラ、組織、医療者の育成やマインドセットに至るまで、『皆保険制度のもとで』『日本の保険証を持っている(医療費をかなりの割合で回収できる)』『日本人(あるいは最低でも日本語を話せる人)に』『全国一律な保険医療を提供する』ことに全振りしてきました。

日本語を十分に理解できない外国人が受診したとしても、もともとその割合はさほど多くはなく、しかも中長期の在留者には日本の医療保険が適応され、だいたいの場合は何とかごまかしごまかし対応してきたことでしょう。

いま現在でも、ほとんどの医療機関は外国人に対して満足な対応能力を有していません。
また保険証を持つ外国人への診療は日本人と同じ収益であり、保険証のない外国人への医療費は調整が可能ではありますが、そもそも未収金のリスクが高いです。
誤解を恐れずに言うと、よほど信頼できる企業の従業員でもなければ、普通の保険医療機関にとって、外国人はコストとトラブルのリスクを抱えるだけで歓迎できる相手ではありません。

外国人への医療提供には、さまざまなハードルがあり解消できていない


そのうえ医療ツーリズムともなれば、ある程度高付加価値のサービスを提供する必要があります。
一般的に日本の医療水準自体は高いので、それ自体は十分なことが多いかもしれません。
しかし、保険医療機関の収入はほとんどが保険からで赤字体質であり、また医療法人は医療以外の事業で稼ぐことができません。
そんな中でコーディネートや言語の対応ができるスタッフを育成したり、『日本医療』で設計されたインフラやアメニティを改修したり、院内外のコンセンサスを形成する努力をする余裕がありません。

さらには高度な医療機器や人材を有する医療機関は、多くの場合はその地域の高度医療や救急医療などを担っており、そもそも人材や時間の余裕がなく、地域医療以外にリソースを割くということは実際的にも雰囲気的にも難しいでしょう。

一部の保険医療機関では、経営者や特定の医師の個人的なつながりや努力から医療ツーリズムを積極的に受け入れている事例がありますが、非常に俗人的であり、ほかに応用したり還元できるものではさそうです。
検診事業にトライした事例も聞きますが、単価が安く結局治療につなげられないことから、なかなか難しい状況でしょう。
主にクリニックの単位で高単価の医療ツーリズムに取り組んでいる施設はありますが、美容や再生医療などを始めとしてそもそも自費診療で行っている分野が中心であり、一般の医療業界への恩恵はほぼないです。


諦めたらそこで試合終了ですよ

第二次安倍政権以降には観光立国を掲げて外国人旅行者が増加し、また留学生や技能訓練生として、あるいはビジネスで日本に居住する外国人が増加する中で、医療機関が外国人への対応を迫られることも増えてきました。
さらにコロナ窩以降は、旅行需要の増加に加えて円安などの影響もあり、さらに外国人の滞在者や居住者が増加しています。
(昨今では不法滞在者や迷惑行為・犯罪行為を行う輩の話題も、以前にも増して目立つようになってきましたが・・・)

当然地域によりますが、まずもって普通の医療機関も外国人へ対応しなければいけない機会が増加してくると考えられます。
本来これは医療機関にとって、また日本全体にとっても、『社会保険料以外』かつ『外貨』というこの上ない収入を得るチャンスとも捉えられますが、前述のようになかなかそこに向かって投資できない状況があります。

普通に医療機関で仕事をしているだけでは、また逆に医療の現場にいない人では良い解決策が見出しがたいはずです。
そこで僕のように医療現場での経験が十分にあり、外部の知見や人材と繋がって思考や活動できる人間によって、何とかこの状況をブレイクスルーさせたいと思っています。


じゃあ具体的に何すんのよ?といったところですが、今のところ一つの夢を描いています。

それは、『長崎に消化管早期癌の内視鏡診断および治療を目玉とした、外国人専門クリニックを作る』といったプロジェクトです。


日本の内視鏡医療は、マジですごい

我々消化器内科医が行っている内視鏡、つまり胃カメラや大腸カメラは、胃癌や大腸癌の診断と治療に有用です。
特に、内視鏡治療で完治させることができる早期癌については、その診断が難しい場合も多く、内視鏡で安全かつ完璧に切除するには非常に高度なテクニックが必要です。

細かいことを語ると長くなるので省きますが、この早期癌の内視鏡診断と治療については、平均的な層の医師もトップ層の医師も、その数とスキルは明らかに日本が世界でトップです。
また内視鏡は日本で発明され進歩し、OLYMPUS社、FUJIFILM社、PENTAX社の3つの日本の会社で世界シェアがほぼ100%を占めるという、日本に残された数少ない強いアドバンテージを持った分野です。

他の診療科も同様ながら、我々は保険医療の枠組みの中でクオリティの高低に関わらない薄利多売を強いられ、必ずしも能力や貢献に見合った報酬も得られません。
僕はトップと言えるスキルはないのでともかくとして、こういったことからも疑問やフラストレーションを抱えている先生方はおられます。

早期大腸癌の内視鏡治療(ESD)


長崎もけっこうすごい

人様のスキルを比較して語れる立場ではないですが、僕の同門の長崎大学医学部消化器内科には、日本でもトップレベル=世界トップレベルと言える内視鏡治療ができる先生が何人もいて、しかもいまの主戦力は30‐40代とまだまだ若いです。

諸外国では国内で有名な大病院にハイレベルな医師が集中していることが多いはずですが、少なくとも内視鏡に関しては、日本全国津々浦々の、ときには中規模の病院にまでハイレベルな医師が分散しています。
必ずしも東京や大阪でなく、地方でもその価値を医療ツーリズムのコンテンツとして発揮できるポテンシャルがあります。


でも、病院では難しいって言ってたじゃん

前述のように、通常の保険医療機関では外国人医療ツーリズムを誘致することは、非常に困難だと思います。
しかし、小規模のクリニックであれば開設者の提供したい医療にそってデザインすることができ、実際に昨今では専門性の高いクリニックが全国に多数あります。
また先進的な経営者は保険診療の限界を認識しており、保険診療と自費診療の両方を提供するクリニックも多くなっています。


どうせ上手くいきっこない・・・?

外国人専門など誰もやったことのないスタイルで、しかも長崎のような地方で、成功するわけがない。
自分より経験のある一部の先生からはきっとこう言われるでしょうし、僕も簡単とは思っていません。
あと、そもそも僕は実家のクリニックを継承して普通に地域医療を担う役割もあります。

しかし、繰り返すように圧倒的な需要に対して供給がないという特異な状況であり、全国で大きな機会損失をし続けています。
またテクノロジーや制度を含め、今後世界はどんどん流動的に変わっていきます。

さらには、僕には医局(大学の診療科グループ)と地域医療で培ったキャリアと仲間があり、前教授を始め一部の先生方とは僕の夢をすでに共有し、応援してもらっています。
このアイデアも、一緒に診療をしてくれる仲間が見込めているからこそ、実現させるイメージができています。

これは医師にしかできないことであり、僕の価値でもあります。

当然ながら内視鏡診療以外も提供できなければ不十分ですが、まずは自分たちで一定の流れを確立し、そこからは他の専門クリニックや既存の大きな病院とも協力体制を作り、地域でひとつのエコシステムを作ることができると考えています。


長崎に、そして日本の地方に希望を

また、医療を目的として裕福な外国人を呼び込むということは、地元の魅力的な文化観光資源を使うことが彼らに来てもらうための材料でもあると同時に、そのまま経済的な波及効果にもなります。

受けた医療に満足してもらい、その地域での体験でさらに満足してもらうことで、日本の医療や日本自体のプレゼンスが向上することが期待できます。

これが、僕が考える『日本の医療が、日本経済の足かせから世界に誇る産業になる』ことへのひとつの答えです。

まずは地元の長崎で日本の医療ツーリズムの地方モデルを実現させることができれば、他の地域にも展開したり、コンサルして応用してもらえる可能性があります。
また、集まる顧客自体が新たなビジネスチャンスであり、様々な事業にも繋がる可能性を有しています。


やれんのか?

プログラムの後半にこの構想を始めてから半年も経過していませんが、その中でも可能な限り社会やビジネスのことを学び、また様々な人とコミュニケーションを取って思考をめぐらせてきました。
現在僕の考えていることには一定の根拠と自信がありますが、あとは本当にやりきるのかといったことだけです。

現在は長崎を離れて新たな診療分野で研鑽を積んでいるところであり、何より家庭もあるため、敬愛する他の起業家ドクターの方々のようには到底動けません。

いまはこれまでいただいたご縁の中から、また可能な限り新たな出会いの場に出向いてさらにコミュニケーションを重ね、数年後に長崎へ戻る前の準備期間として、何らかの実働に移るチャンスをうかがっています。


さいごに

長くなってしまいましたが、いったんまとまった自己紹介としての固定記事にいたします。
自身のためにも、たまに当直中の気合でnoteもやっていく所存です(がんばれ、自分)。

拙文ながら、お読みいただいた方は誠にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。



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