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ヒーローと悪者がファミレスで打ち上げしてるだけの話



「うぃーす」
「ぉーす」
「注文まだ?」
「まだ。何する」
「いや、その前に言う事あるやろ」
「え?」
「昼間のアレ! ぜってー加減ミスったろ! あのパンチ! めっちゃキツかったんやけど!」
「あー、ごめん。確かにやりすぎた」
「お前なー、こちとらアームドスーツの下は生身の人間なんやぞ」
「なんか今日いつもより頑丈だったからちょい力んだ」
「あーまあそれはあるな。改良したから」
「だからちょっと強くした。ごめん」
「まーえーけどよ。あ、俺これにするわ。海老グラタン」
「俺ミートドリア」
「ピザも食おう。マルゲリータで。いる?」
「いる」
「すんませーん」
「はーい。ご注文お決まりですか?」
「えー海老グラタンとマルゲリータとー」
「ミートドリアで」
「ご注文繰り返させて頂きます。海老グラタン、マルゲリータピッツァ、ミートドリア、以上でよろしかったですか?」
「はい」
「ありがとうございます。少々お待ちくださいはませ」
「じゃ、とりあえずお疲れー」
「お疲れー。水で乾杯すんの貧乏くさくてやだな」
「それ言うなら夜のファミレスで正義の味方と悪者が飯食ってんのもヘンな話やろ」
「それな。でもここ人少ないし、見られてもコスプレかなんかって思われてるみたいだから助かるよな」
「まあかれこれ二年くらい使ってるけど一回も顔指されたことないもんな」
「そりゃ世間もまさかヒーローと悪者が同じ席で打ち上げしてるとは思わないだろうよ」
「つかお前、今日来るのちょっと遅なかった?」
「YouTube見てた」
「街の平和よりユーチューバー優先したんか」
「違うって。古いテレビ見てた。あのーコント番組。カッパの親子とか借金取りのやつとか」
「ヒーローなら街が襲われたら即来いよ。間ぁ保たせるのめっちゃキツかった」
「ごめんて」
「今日さ、ちっちゃい男の子いてさ、俺がグハハハーって笑ってんのに腰抜けてその場でヘタリ込んでてさ、つかず離れずで間ぁ保たせるのキツかったわ。ちょ誰か早くこの子助けに来いよ! って感じでめっちゃ大変やった」
「ごめんて」
「来週は二時半くらいに中央銀行行くから。四十分くらいには来いよ」
「昼の?」
「昼の。また遅かったら俺逃げ切っちゃうから」
「二時半って一番暑いじゃん。自分それ機械のスーツ着てて暑くねーの?」
「冷房ついてるから中」
「めちゃうらやましい」
「前から気になってたんやけどお前それ変身して特撮戦士みたいになってるやん?」
「うん」
「それって服どーなってんの? 消えてんの? 素っ裸状態? 冬は寒い?」
「まあ感覚的に素肌だわな。体感温度変わんないけど」
「でも俺がミサイルとかレーザーとかやってもあんま痛くないんやろ?」
「うん」
「どういう理屈?」
「俺もわかんない」
「つかなんでお前変身できんの?」
「んー、誰にも言うなよ」
「おん」
「なんか前、バイク乗ってて」
「おん」
「あー事故ったーって思ったら宇宙人で」
「おん?」
「なんか変身する能力もらった」
「どゆこと?」
「俺もよくわかってない」
「え、ちょっと待って、宇宙人と事故ったの? 宇宙船?」
「たぶん」
「どっちが悪い?」
「7:3で向こう」
「お前宇宙船に追突されたん?」
「まあ」
「すげーな。人類の歴史上そうそういないんちゃうそんなやつ」
「そんで、なんかごめんなーって感じで向こう。気が付いたら変身できるようになってた。たぶんお詫び的ななんかアレ」
「すげーな。金払うのイヤやったんやろな」
「ただまあ、変身したら巨大になるパターンじゃなくて良かった。大きさそのままで変身パターンで助かった。デカくなってたらあれ絶対足の裏痛いもん。車とか電柱とか歩く度に踏みまくるだろぜってー」
「そんな心配したことない」
「お待たせしました。マルゲリータピッツァです」
「おー、シンプル」
「切る?」
「いいよ。切って」
「自分なんかそういう機能のハイテク装備ないの。レーザーカッターみたいな」
「あるけどピザカット用ちゃいますわ」
「はい、こっち自分のな」
「おん」
「そのスーツさ、全部自分で作ってるって言ってたじゃん?」
「おん」
「毎週それなりに壊しちゃってるけどお金とか大丈夫? けっこうするんじゃないの? いくらくらいすんの?」
「あーまあ三千円切れればええ方やね」
「えっ、マスターグレードのプラモより安いの」
「先週はちょっと奮発して五千円超えたけどな。あ、ちょっ、思い出したわ。おたく先週さ、俺が新しい武器の説明した後、まだ使ってないのに先壊したやろ」
「うん。え、ダメだった?」
「いや……俺はええけどけっこうヘコむぞあれ。なんやってん今の説明の時間ってなった。人によってはめっちゃムカつくと思う」
「あーうん、わかった。次から気をつける」
「俺はええけど絶対怒る人いるわ。これからまた他の悪者と仕事することもあるやろーし気ぃーつけとけよ。俺はええけどな」
「わかったってもう。ごめんなって」
「まあ俺はええんやけど。あ、じゃあ代わりに一個いい?」
「え、なに代わりって」
「俺の見せ場一個無駄にした代わり」
「えー……なに?」
「ちょ、一回変身解いて」
「え、いや」
「ちゃうちゃう、一回でいいから。一回でいいから」
「いやだっつってんじゃん。お互い素性詮索しない約束じゃん」
「あ、じゃあ俺も見せるわ」
「いや見たくない興味ない。なにが『じゃあ』なのかわからん」
「ちょ、ええやん。ちょっとでええから。じゃ俺メット脱ぐでお前も絶対見せろな?」
「だからイヤだってやめろメットに手ぇ当てんなお前が脱いでも俺絶対見せんからな勝手にお前がやってるだけだからな」
「もーセコいなー。なんでーええやん別にー」
「自分気づいてないかもしれないけどめちゃくちゃウザイぞ今」
「お待たせしましたー。ミートドリアのお客様」
「あ、はい」
「こちら器熱くなっておりますのでお気を付けください。海老グラタンのお客様ー」
「はーい」
「熱くなっておりますのでお気を付けください。以上でご注文よろしいでしょうか」
「大丈夫でーす」
「ごゆっくりどうぞー」
「あつっ」
「気をつけろ言われた二秒後」
「こりゃ冷めるまでステイですわ」
「昼間にミサイル18発受けてマグマ火炎放射くらっても平然としてたやつがドリアに負けるのおかしくね」
「あ、じゃあ冷め待ちの間に渡しとくわ」
「ああ、忘れるとこやったな」
「ん、今週の取り分」
「おーぅ」
「……」
「あれ、なんか先週より増えてね」
「スポンサー一社増えたから」
「おーやったな。まあ先月ハデにカマしてたもんなー。やっぱああいうのがウケええよなー世間は」
「…………」
「したら来週はもちょっと火力上げてこか? やっぱ期待に応えなきゃなんねーもんな。って、悪党が市民の期待に応えるってのもヘンだけどな」
「…………あのさ、いっこいい?」
「おん?」
「…………今日のはいつも通りの取り分で入れてるけどさ、来週からちょっと配分変えていい?」
「……」
「……」
「…………は?」
「いや、さ、スポンサーが金払うって言ってんのは俺に対してじゃん? なのに取り分が5:5ってのなんか腑に落ちないからさ、6:4にしよか。お前がもらう額自体はそんな変わりないから。総収入が増えたから」
「…………」
「いいよな? 別に。お前の手取りが減るわけじゃないからさ」
「…………お前本気で言ってんのか」
「……うん」
「お前ほんまええ加減にせえよ」
「……えー……」
「最初にフィフティフィフティでいくって決めたやんけ。なに今更欲かいとんねん。お前俺が居るからヒーローやれてんのちゃうんか。俺居らんかったら何もできひんやんけ」
「違う違う、ちょっと落ち着いて」
「なにがちゃうねん。ええ加減にせえよマジで。ええ加減にせえよマジで。あかんむっちゃ腹立ってきた」
「スポンサーついてんのは俺じゃん。金もらってるのは俺じゃん。本当ならお前一切収入ないハズのとこ俺が分けてあげてんじゃん」
「ハお前マジか。なんやそれお前、恵んでやってんねんでみたいな感じ。お情けで金渡してる思てんのかお前」
「実際そうじゃん」
「お前コラ!」
「危ない危ない! 水こぼれる!」
「お前ほんまふざけんなコラ。誰に言うとんねんお前」
「わかったわかった。じゃあいいよじゃあいいよ。今まで通り山分けでいこ。もういいから。それでいいべ」
「ちゃうなんやねんお前それお前が我慢したってるみたいな感じなんやねんそれ」
「もういいって。5:5でいいって言ってんじゃん」
「ちゃうその態度が気に入らんねん。お前俺がおるから金入ってくるんちゃうんか。やられ役やったってんのにようンなこと言えんなお前」
「いや役じゃなくてマジじゃん。その気だったらお前一発で終わるじゃん」
「は? お前、は?」
「俺めっちゃ加減してあげてるの気づいてない? え、本気だと思ってた? ごめん自尊心傷つけちゃった」
「ちょお前!」
「やめろって。他の人みてるから。ここ公共の場」
「お前ほんま……お前……」
「やるなら食ってからにしよ。もう冷めたし。後でいいじゃん。今は食お」
「…………お前ほんま調子のんなよコロスぞボケ」
「あーはいはい」
「……」
「……」
「…………」
「……あーダル」
「ちょお前っ!!!」
「やめろって。危ないって」
「お前誰に言うとんねんお前ほんまお前……!」
「うるさいから。他の人に迷惑だから。テーブル乗んなって。お店に迷惑だから。グラタンひっくり返るから」
「お前ほんまコロスからなアホンダラボケカスウジ虫」
「はいはい、こわいこわい」
「ちょ、出ろ。外出ろ。あかん我慢できんわ。無理や」
「もーいいってそういうのダサいから。ウザいってほんと」
「出ろやっ! 来いやっ! ビビッてんのかコルァ! お前ザケんなお前コラ! ほんまボコボコにすっからな! ほんまコロすからな!」
「もー…………」
「立てや! 来いや! オイコラ! 来いや! 来いやっ!!!」

「うっせえんだよ!!!」



「……すんませーん」
「はーい、お待たせしまし……あら」
「――――――」
「すんません……何か拭くやつありますか? ナプキン全部使っちゃって」
「はーい、はい、こちらお使いください。あ、床とか椅子はこっちでやりますんで大丈夫ですよ」
「すんません汚しちゃって」
「……またダメだったんですね」
「……もぉ~~~……今回はうまくいってたのにぃ……やっぱ自我持たせるとダメッスわ……最初の頃はいいけどめっちゃ調子乗ってくるんスわ……」
「今回は2年くらいでした? また最初からやり直しですかね」
「それなんスよぉ……記憶とか設定すんのめっちゃダルいんすよ……あんまりベタなキャラ設定すぎると自分で気づく可能性あるし……あ~……今回は手塩にかけて育てたのになあ……」
「ヒーロー稼業も大変ですね」
「最近ヒーロー人口増えてる割に悪者は減る一方なんでねぇ……大手のヒーローさんだと新人雇えるんだろうけど、俺みたいな個人経営主は自前で調達するしかないんスわ……定年までいけるかなあ……」
「でも複製体《クローン》とはいえ自分の首へし折るのって抵抗ないんですか?」
「ヘルメットで顔わかんないから気軽にコキャれるし、何より慣れちゃったスわ」
「恐ろしい話ですね」
「とはいえまた作るの大変だなぁ……一週休むくらいなら大目に見てもらえるけど二週も休むとスポンサーも世間も一気に離れちゃうんスよ」
「恐ろしい話ですね」
「そういえばお姉さん、俺が一人目を連れて来た時からここで働いてますよね。何年くらい働いてんスか?」
「奨学金返済の為に働き始めてかれこれ10年ですね。税金でめっちゃ持ってかれるんでなかなか返せないんですよ」
「そっちの方が恐ろしい話スわ」

 ――終――

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