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Not E.

「逆噴射だ!」

 艦長の命に従い、総舵手がスラスターを起こした。

 404基の炎筒が、火を吹いて闇を裂き、ハイパーウェーブが巻き起こる。

 だが、KSエンジンのパワーをもってしても、強大な引力を引き剥がせなかった。

 I・E(インフィニット・エクスペリエンス)号は、暗黒の海に浮かぶとある惑星へと引き込まれてゆく。


 ――……

 墜落から一週間が経った。
 あくまで我々の基準時換算で、だが。

 私達は、高度な文明を築いていた原住生物達と友好的な関係を結ぶことに成功した。

 彼らは我々を快く受け入れ、食物も技術も無償で提供してくれている。

 彼らが“楽園(エデン)”と呼ぶこの地に滞在しつつ、我々は大破したI・E号の修理を急いだ。

 遠く遠く離れた星へ、再び飛び立てるように。


 ーーだが、もうここから抜け出すことはできない。

 なぜなら、ここは宇宙のあらゆる“叡智”が集まる地だったからだ。

 遠い昔の星々の記憶――
 遥か彼方の銀河系の戦史――
 異星人達が残した様々な伝記――

 観測しきれない程の膨大な知識や情報、そして物語が記録されており、それらは今も尚増え続けているのだ。

 
 知的生命体にとって、好奇心とは抗いようのない欲望である。

 誰もが皆、この地の虜となり、呑み込まれてしまった。
 知らないことを知ろうとして、盲目的にのめり込んだ。

 ブラザ副長は銀河の旅録を眺めて擬似体験に浸るばかり。
 火器管制官のファイクスは異なる位相世界の英雄譚に憑りつかれた。
 オペレーターのグクロムにいたっては、己の幻想を“叡智”の一つとしてこの地に刻むことへ心血を注いでいる。

 かくいう私も、遥か遠き蒼い星の“詞”という文化に毒されつつある。


 この記述を読んでいる者よ、気をつけろ。

 君が求める情報もーー
 それもここにあるだろう。

 それを得たなら早急にーー
 ここから出ろ。

 早く逃げろ。

 この地に呑まれるな。


 楽園などではない……


 【続く】

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