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ワンオペママの戦場(朝)

ピロリン…ピロリン…。アレクサのアラームが鳴る。意識を引き戻されるように夢から覚めた。「…アレクサ、とめて。」子ども達が起きないよう、慎重にアレクサに声をかける。

「おはようございます。今日も素敵ですね。今日の天気は晴れ時々曇り。予想最低気温は14℃、予想最高気温は26℃…」アラームを止めると、アレクサが淡々としゃべる。(…今日、何気に寒暖差すごいな)アレクサは毎朝、寝ぼけている人間にとってちょうどいい情報をくれるのだが、その反面、子ども達が起きてしまわないかヒヤヒヤする。

義務感をエネルギーに変え、重たい身体を起こす。1日で一番重力を感じる瞬間。開眼しようにも、片目がぎゅっと閉じたままで、険しいウインクをしながら、子どもに目をやる。昨晩も息子の夜泣きが多かった。4回くらい授乳した。もう生後9か月なんだが…。子ども達はスースー寝息を立てている。…よし。そーっと寝室を出て、キッチンへ向かう。

朝5:30。夫の弁当を作るため、おかずを作る。今にも芽が出そうなジャガイモを消費したかったので、今日は肉じゃが。先週安売りしていた牛こまを冷凍しておいて正解だった。昨晩から肉は冷蔵庫に移し、解凍済み。ジャガイモの皮も、寝る前に剥いて水にさらしていた。圧力鍋で肉を炒めている間にイモと野菜を切り、追って炒める。念のため、肉じゃがレシピを検索して、調味料の割合を確認。投入後は圧力をかけてから、3分弱火にし、火を止める。作り置き副菜を弁当箱に詰め、肉じゃがのスペースだけ空けておく。

料理中に夫が起きてきた。娘も一緒に起きてしまったらしい。「まだ眠いの~!」とリビングにある弟のベビーベッドで寝始める2歳10か月。お気に入りの枕を抱いてウトウトしている。朝の料理中に抱っこをせがまれ困った時期もあったけど、最近は親と同じ空間にいるだけで落ち着くようになった。可愛い。

夫が洗顔や髭剃りを終え、食卓にきて配膳を手伝う。「ごめん、納豆切れてたわ。」「いいよ。それより、今日何の日だか知ってる?」「お客様感謝デーでしょ。」「よろしい。」よろしいってなんやねん。結婚記念日はフツーに忘れるくせに、20日30日は5%オッフ♪は絶対忘れない倹約家の夫。納豆、たくさん買っておこう。

圧力がぬけて、出来立ての肉じゃがを皿に盛り、食卓の真ん中に置く。「あら、立派。すごいね。」料理が苦手な夫にとって、朝から一品作る私は、できた嫁らしい。確かに家事スキルは私の方が勝っており、夫にはもっとしっかりしてほしいと思うが、ほめてくれるのは素直に嬉しい。弁当にも詰め終わると、私も一緒に朝食をとる。

朝食後はコーヒーを淹れる。コーヒーメーカーは全自動だから、挽きたてで香りがいい。コーヒーには甘いものがほしい。「アイス、たべる?」「うん」冷凍庫からファミリーパックのシュガーコーンを1本とる。高カロリーなので2人でわける。すかさず、娘が起き上がり、「たべる!!」…ちっ!小声で話していたのに聞こえていたか…「朝ごはん食べた人が食べられるのよ~」「いややー!食べるー!」「じゃあ、朝ごはん食べる?」「食べないよ!」はいはい。話を変え、娘の死角になるようテーブルの下でアイスをパスし合い、こっそり夫と食べる。娘はアイスが見えないので、また横になる。

7:00。息子の泣き声が聞こえてきたので寝室へ。扉を開けるとまだ眠そうな目で私を見る。意を決して抱っこする。重い。9か月だが、もう11㎏を超える息子。抱くと、目の前に大きなポチャポチャほっぺがあるので、とりあえず吸い付くようにチューをする。くすぐったそうに笑う息子。「おはよう」

息子のおむつを替え終わると、しっかり目を開けて寝転んでいる娘に「チッチ、行く?」と聞く。「行かない!」「ごはん食べる?」「食べないよ!」はいはい。無理に促しても、こちらが疲れるだけなので、放っておく。

7:15。夫が出勤のため、家を出る。「パパ、お仕事いやいやするの?」「そうだよ。」常々出勤を嫌がる夫。「パパ、仕事嫌なんだ~」と娘によく話しているので、出勤前は娘がよくこう声をかける。2歳児に気を遣わすな。息子も家を出る父親の背を追う。「いってらっしゃい。気を付けてね。」「行ってくるね。」夫が扉を閉める。お仕事、頑張って。

バタン…と閉まった扉がコングの音。第2ラウンドが始まる。

育休中なので8:30~9:15の間に娘を保育園へ送りだす。なるべく早く、そして決して遅れないように。ごろごろしている娘に「朝ごはん食べる?早く支度しないと保育園でみんな待っているよ~!」と娘の自主性を促しつつも、お尻を叩くように語気を強くする。「食べないよ☆」こっちの気も知らず、のんきに返答する娘。「あいちゃんも、まあくんも、待ってるし、このままだとみんなで先にお出かけに行っちゃうんじゃない~?」「…食べる~」よしッ!

ベビーベッドから下ろし、ごはんをよそう。お茶碗の底にはあらかじめ、娘の大好物の梅干をちりばめている。ごはんの上には肉じゃがが乗る。3層構造だ。エプロンをつけて、ゴムで髪をしばり、食べこぼし被害の最小化をはかる。娘は真っ先に牛肉に食べる。予想通り。もぐもぐ噛み終わったら、野菜を眺め、一気に食欲なさそうにする。予想通り。「ごはんの下に梅干しあるよ~、おかずとごはんを食べていったら、出てくるからね~」「うめぼし?!」ちょっと士気が上がる娘。ニヤリ。私の口元はナイキのマークになる。

息子を見ると、娘のお気に入りであるアンパンマンの人形を一生懸命かじっている。娘が見つけたら厄介だが、とりあえず2人ともそれぞれ集中しているし、放っておくか。息子の離乳食の準備に取り掛かる。離乳食後期で歯も6本生えようとしているが、まだまだペースト状のものを好む息子。玉ねぎや人参、芋類を軟らかく煮てペースト状にしたものや、加熱した魚や肉をほぐしたものを冷凍ストックしている。白ご飯をよそい、水に軽く浸し、ペーストとタンパク質の冷凍塊を放り込み、500W 3分 ピッ!

娘の様子を見ると、私の趣旨に反して、3層構造の最下層(梅干)だけ掘り出して食べている。私の作戦なんてお見通しと言わんばかりに「梅干しだけ食べる~♪」とニヤニヤしながら梅干しを頬張る。2歳児のくせに小賢しい…。「ごはんとおかずを食べたら、もっと梅干しが出てくるよ~。はい、どうぞ!」幼児用の補助付き箸に、器用にごはんと肉じゃが(野菜)を載せ、娘の口に運ぶ。2歳半まで野菜や芋の食感を嫌がり、手こずっていたが、最近はすんなり口に入れてくれる。嬉しい。でもゆっくり噛んで、なかなか飲み込んでくれない。1口入れるごとに1分ほど家事を進める、を繰り返す。

ピー!ピー!(チンの音)離乳食ができた。見てみると、あちゃー、水が多すぎた。とろみのあるリゾットを作るつもりが…。2人目にもなるとですね、計量を全くしなくなるんですよ。そして下手をこく。せっかくのペーストが水分のせいでサラッサラ。昔、母親のカレーがシャバシャバだったのを思い出す。せっかちで火を止めずにルウを入れるから…。私は火を止めてルウを入れるけど、こういうときに親の遺伝子を感じる。とりあえず、蒸らすか。

あれ、娘が椅子にいない…。視線をずらすと、息子がかじっていたアンパンマンを横取りするところ。「食べないで!」あんたは食べてくれ。息子は(ワイ、可哀そうやねん。)と泣いて母に訴える。「はい、よしよし。そろそろ離乳食食べようか、お待たせ。」息子をベビーチェアに乗せようとする……ん?このフレーバーは…。お尻を覗くと、はい、ウンチ。

ふーっ、思わずため息。(ワイ、なんかした?)ときょとんな息子。娘を椅子に戻し、また1口入れる。ウン処理のため、風呂場へ行こうとすると、…ん?なんか踏んだ。足の裏に米粒。あーもう!指でつまみ取り、ティッシュにとり、気を取り直す。風呂場でつかまり立ちをさせ、ズボンを脱がせ、おむつとウンチを軽くとり、シャワーで流す。(おお、ワイのタマタマやん。)ここぞとばかりに握る息子。やめい。タオルでふき、おむつを履かせ、今度こそベビーチェアへ。

エプロンを付け、離乳食を口に入れる。「シャバシャバやん!」と言わんばかりに息子は眉間にシワを寄せる。私も母のカレーにそんな反応していたのかな。娘の口と息子の口、交互に飯を突っ込む。燕の親子みたい。途中ギュルルル…と腸が動く。あ、便意…トイレ行きたい…。でも今、子ども達を放ってトイレに駆け込むと、絶対やばいことになる。しかも万一、地震とかきて、ベビーチェごと息子が倒れたら?コワイコワイ…この便意は一旦押し殺せ…。後で行こう…。

8:00。無事に食べ終えた頃。ブギウギを流し見しつつ、自分の身支度。歯磨き、洗顔、着替え。食器を洗い、洗濯機を回す。(便意はすっかり遠のいていた。)2人でおもちゃを取り合う。仲裁に駆けつけようとするとまた米粒を踏む。ブギウギが終わったら、Eテレにチャンネルを変える。静かに「いないいないばあっ!」でも見ていてくれ。あ、そうだ。娘の歯ブラシを取って…くそっ!また足に米粒!!テーブルや床の食べこぼしをふき取り、歯磨きをさせ、掃除機をかける。

8:30。掃除機をかけ終え、服を着せて家を出ようと思うと、重大な事に気が付く。「お帳面、まだ書いていない!」何時に寝て何時に起きた、昨晩は何を食べ、朝食は何を食べた。排便の有無…。記憶をまさぐりながら一心不乱に書く。やっかいなのは広々と余白スペースがとられた「家庭での様子」。上で書いた情報以外に何を書けと?サラサラと動かしていたペンが止まる。潔いほど真っ白の欄。やばい、時間がないのに…。

「ママ~」遠慮がちな声が聞こえる。声がする場所に目をやると、娘がトイレの前に。「あ!チッチね!」娘は膀胱が大きい方らしく、トイレの回数が少ない。でも間に合わずにトイレの前で漏らしてしまったことがある。トイレへ急げ!この間にネタを考えろ!止まっていたペンを置き、補助便座をセットし、娘の介助をする。それにしても遠慮がちな「ママ~」は恥じらいがあって可愛い。あ、今回はこれを誇張したネタをお帳面に書くか…。「うーうー!(ワイもトイレ入ってみたい!!)」と侵入しようとする息子を通せんぼしながら、頭の中でネタを構成した。

娘の手を洗わせ、服を選ばせている間に、お帳面を走り書きする。足元で息子が抱っこをせがむ。書き終えると息子のおむつを替え、服を着せる。娘は…もちろん服を選べていない。「これにしない?トーマス!」適当にコーディネートして娘の承認をもらい、着させる。自分も靴下を履き、最低限のマナーとして眉毛を描く。やった!やっと準備万端!(泣)

8:50。家を出る。早くもないけど、遅くもない。今日は、まずまずの結果かな。保育園の到着は8:55。娘を預け、息子と自宅へ。出勤途中の通行人がまぶしい。半年後、私も復帰して、出勤しているんだろうな。そんなことを考えていると、思い出したように便意が私を襲い、速足に家へ帰った。

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