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二世帯住宅が完成しない #5 空白

少女漫画が好きだった。パンをくわえながら走ってると恋が始まる世代ではないが、私が読破した少女漫画たちにも、安定の「お決まり」があった。

地味な主人公が、イケメン1に見初められ、ちょっかいをかけられる。少しずつ惹かれ合う2人。そこに、イケメン2が登場し、彼もまた主人公を好きになる。

「俺、アイツに告白するけど、悪く思うなよ」事前にイケメン同士が主人公を巡ってけん制する。イケメン2が告白するも、主人公は断り、イケメン1への恋心を再認識。その後、すれ違いながらも、主人公とイケメン1は結ばれる。

これが平成の少女漫画のテッパンだ。この吉本新喜劇のようなお決まりが、私は大好きだった。全ては「ドリルすんのかいせんのかい」のための伏線。すっちーのすっぴんは、意外と爽やかな塩顔。

主人公をめぐる三角関係、読んでいるとワクワクが止まらなかった。このお決まりによく添えられるのが、主人公の兄だ。

主人公とイケメン1がうまくいきだすと、突然シスコン兄が「妹にちょっかいかけんじゃねぇ」と2人の仲を邪魔する。結局はイケメン1が兄に認められ、ハッピーエンド。

少女漫画にシスコン兄というスパイスは、展開にハラハラする読者の箸休めにちょうどいい。新喜劇でいうMrオクレの登場だ。安心と安定感のある無重力ギャグ。

ただ、私はこのシスコン兄が出てくると、よろしいですねぇとやっかみをいれたくなる。ご存じのとおり私にも兄がいる。

少女漫画の設定は、「地味」という点だけ主人公と合致する私にも、ワンチャンあるんじゃないかと夢を見させてくれる。

しかし、漫画の中のシスコン兄は、つい実在する兄と対比してしまい、現実に引き戻される。うちの兄はシスコンのシの字もない。家でも全く口を利かなかった。

仲が悪いとかではない。お互い存在していないものとして存在しあう。ロシアとアメリカのように冷え切った関係だった。きっかけは、小学校高学年のとき。喧嘩が絶えなかった。

喧嘩の原因は、主にテレビの取り合い。うちは両親共働きで鍵っ子だったため、仲裁する人間もいなかった。ある日いつも通り、テレビの取り合いをしていると、兄がリモコンを思い切り私の頭にたたきつけ、「親にもぶたれたことないのに!」とガンダムの名セリフを体感し、憤ったのを覚えている。

兄は兄で、昔から「お兄ちゃんなんだから、我慢しなさい!」と親から妹贔屓されていたので、私が憎かったのだと思う。

それから徐々に口数が減った。私が中学生になったころ、兄と私は同時期に反抗期に入った。両親が、夫婦喧嘩をたくさんするようになったことも要因だった。

うちの母はヒステリック気質で、父は口が達者でない。最近離婚したカイヤ夫婦のようだった。気に入らないことがあると父を罵倒する母。我慢できず、父も大きな声で言い返す。「離婚するんじゃ…」と思わせるほど毎日喧嘩していた。

親の喧嘩ほど、子どもにとって見苦しくて情けないものはない。兄は家では部屋にこもるようになった。反抗期もあって、家族の嫌なところばかり目につくようになり、私も家族と話さなくなった。

一度話さなくなってしまうと、昔のように家族で会話することができなくなった。口が開かない。声が出ない。父や母が話しかけてきても、小さく「うん」というくらいだった。兄も同じだった。

自分が話さないわりに、私は家族との会話がないことが恥ずかしく、外では必死に隠していた。家で暗い分、外では明るく過ごしてバランスをとっていた。

そんな感じで、オンオフを激しく入り切りする毎日を続け、気が付けば私は就職していた。基本的に会話のない家族だが、一応両親とは、受験や就職のことなど、必要最低限のことは話していた。ただ、兄とは話す機会は全くなかった。

思えば15年もの間、兄と口をきくことがほぼなかった。熟成させてしまったボジョレーヌーボーのように、口火を切るには相当の勇気が必要だった。

転機が訪れたのは、私が20代後半に結婚して家を出ることになった頃。結婚相手を家族に紹介するとき、きょうだいで会話をしないわけにはいかない。

たくさんではないが、すごく久しぶりに会話した。兄は私の夫にも話しかけてくれた。

私が実家を出ると、距離ができたためか、両親とも普通に何気ない会話ができるようになった。1年後、兄も結婚のため、実家を出た。兄嫁を紹介されたとき、彼女と仲良くなれそうと感じ、嬉しかった。

私と兄は、おそらく共通して思っていることがある。
「自分は、理想の家庭を築きたい。」

毎日喧嘩する両親を横目に、耳を塞いでいた。家族仲のよい友人が羨ましかった。なんでも相談できる相手がほしかった。

家は自分の安全地帯でなければならない。自己肯定感という言葉が出てきて、そのようなことを本で読んだ。若かったし、こんなもんかと思っていたが、確かに当時の私はいつも自信がなく、心が不安定だったように感じる。

言っちゃ悪いが、私の両親は反面教師として、私は理想の家庭を築きたい。何が何でも、家族である夫と子ども達を守り、寂しい思いをさせないようにしたい。心からそう思っている。

家族第一主義の私と(おそらく)兄。
きょうだい愛を育めなかった私と兄。

そんな私たちが同じ屋根の下に住むと、少しずつひずみが生じるのである。

少し間があいてしまいました💦これは二世帯住宅を通じて、「家族」について考える連載エッセイです。スキをいただけたら、連載を続けようと思います。応援よろしくお願いします!

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