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元彼と、たばこの匂い

「軍艦島でも見にいこうかなぁ」  
金曜の仕事終わり。突然旅行に行きたくなった。
そうと決めたら話は早い。

高速バスで、ひとり長崎へ。
長崎駅に着いたのは、深夜12時前だった。
 
夜飯食ってないなぁ、なんて思いながら、付近のご飯屋さんを探す深夜0時。
そこで見つけた、とあるラーメン屋さん。
Googleの口コミ数は600を超えており、星は4.1だった。 
 
 
間違いない! 
そう思って、ラーメン屋へ向かう。  

中には、深夜とは思えない程の人がいた。  
豚骨鶏ガラスープの中太麺が売りらしい。
 
食券を買って外で待機する。
そこで、また驚いた。 
店の壁を伝うように、うんと長い列があったのだ。

「ここであと30分は待つなぁ」 
と思いつつ、最後尾に1人で並ぶ。

前には二人組の男が並んでいた。  
恐らく大学生くらいだろうか。

店員さんが人数を聞きに来る。 
すると、二人組の男は「6人で」と答える。
その後聞かれた私は「1人で」と呟く。 
 
一人旅には慣れているが、こう言う瞬間は少しやっぱり恥ずかしい。

しばらくして、残りの4人が合流してきた。 
話に華が咲いている。
「東大王が何ちゃら〜」とか、 
「雀荘が〜」とか、 
「彼女が妊娠するから結婚して正社員に〜」とか。  

いかにもな、男子的な会話で盛り上がっていた。 
 
そういえば、今日は1月6日。 
大学時代の友達で、久しぶりに集まったのだろうか。そんな様子だった。

しばらくすると、6人のうちの1人、 
メガネをかけた小太りの男の子が駐車場の車へ向かう。 
彼はきっと、愛されキャラだ。

「ジャニーズと仰天ニュースの両方応募して、どっちに受かるか見てみよう」 
なんて会話がさっき聞こえてきたもんだから。

その男の子は、数分して車から戻ってきた。 
 
なお、私は本を読んで待つつもりだったが、6人の盗み聞きに集中してしまい、ページは全く進んでいない。
  

  
そのまま並んでいると、ラーメンの匂いと一緒に、どこかで嗅いだことのある、懐かしい匂いがしてきた。 

胸がザワザワするような、ちょっとだけ泣きたくなるような匂い。 

ふと手元の本から目線を上げ、前を見る。
ぽっちゃりメガネくんの手元には、iQOSが握られていた。彼はこれを車に取りに行ってたのか。 

  
そう、懐かしい匂い。
 
2年前の4月。上京してきた私が初めて付き合った、池袋の彼氏。  

身長は180cm近くあって、顔は高良健吾に似ていた。彼は自身をウッディだと言っていたが、私の目から見れば、ウッディより高良健吾だった。 
どちらの目が正しいかは分からないが。

彼とはアプリで出会った。そして、会った日から、なんとなく付き合う気がしていた。 

付き合うまでに、彼の家には2回泊まった。 
その時、手も出されなかったし、毎日電話もしていた。 
誠実な人だと思った。そして付き合った。

結論からいうと、三ヶ月の研修後、私は九州に配属され、そのまま別れてしまう。
 
実は九州配属を言い渡された時、正直ほっとしていた自分がいた。
 
毎週末はともかく、平日も会いたがる彼氏。 
彼氏と自分の恋愛のスタンスの違いに、やや辟易していたのだ。

どんな形の恋愛を望んでいて、どういう風に付き合っていったらいいのか、分かっていなかった。

彼は温泉リゾートに行っても至近距離でイチャイチャしたいタイプ。人気のないところでは、昼でもキスをしたがる。
アパートのベランダで線香花火をしようとも言われた。

僕にはそれらが、早すぎた。
知り合って間もない中、熟年カップルのようなことができなかった。
彼はロマンチストで、私はもっと淡白な付き合いを望んでいた。
  
だから、九州配属になった時、ちょっと気が楽だったんだ。  
「あぁ、毎週末会う必要が無くなる、、、」
 
九州に行ってからも、しばらく関係は続けようとお互い頑張った。 
でもやっぱり、彼への好意が無くなっている自分の気持ちに気づき、別れを告げた。
 
彼はいい人だった。  
別れた原因は、恋愛に対する価値観の違いだろう。
彼に未練は無い。もう連絡も取ってない。 
そう。私の頭から、もう彼は居なかった。
  
 

けれど、どうしてだろう。
アイコスの匂いを嗅いだとき、少しだけ泣きそうになったのは。 

彼の吸うタバコの匂い。  

初めはすごく嫌だったタバコの匂い。途中から慣れてきて、寧ろ最後は、その匂いに安心するようになってたけ。
 

未練は無いし、連絡も取ってない。 
けど、人生で1番最初にできた彼氏。

 
一時期流行っていた、コレサワの歌を頭の中で流しながら、ラーメンを待つ。  
  

明日はどこを観光しようか。

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