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たったひとことから

プルーストの『失われた時を求めて』では、紅茶に浸したマドレーヌの香りで突如、主人公が過去の記憶を鮮やかに思い出すシーンから始まりますが、今回はわたくしめも。たったひとことを聞いて、瞬間によみがえった感動の書籍のご紹介をいたします。

そのきっかけとなる言葉は、なんとも下世話ですがテレビ番組から。。。
8日放送テレビ朝日の「ざわつく!金曜日」をつけっぱなしにして聞くともなく他の用事をすませていたら、急に耳に飛び込んできた長嶋一茂のセリフ「ところてんつき!!」。その瞬間、あの、物語のシーンがわたくしの頭の中で再びイメージ映像として映りだし、しばらくかたまっておりました。

何故ところてんつきか、と言いますと、その話はところてん屋に立ち寄った、屈託をもった江戸時代の手代の心境から始まるのです。ここでもうお分かりになった方は、きっとわたくしのこの本への推し具合もご理解いただけることでしょう、そうです、こちらです。

半村良 『どぶどろ』扶桑社、2001年。

にんげんの根源的に変わらない愚かさや悲哀、せつなくて粋な生き方、慈愛、未熟さ、老練、したたかさ、鮮やかな覚悟など、ももも、もう、それはそれはカッコイイ~~~小説です。
この本に出合った当時まだ20代だったわたくしは、この中のあるページをコピーし、社の会議でスタッフや営業に向けて読み上げたという、実に熱くてイタイ思い出も、今は良い思い出として残っています。。。

何に感動したかというと、その深さです。
オムニバス調の様々なエピソードには根底的に人間のせつなさが流れており、それへ逃げたり対峙したりする、様々なひとの姿勢。
それと、言葉の運び方に余分がなく実に読みやすく、しかし内容は重い。このコントラストは、生半可な経験をしたひとには不可能な芸当だとピンときます。いったい、どんなことを乗り越えてきたひとの文章なんだろう、と文字通り痺れました。

あの頃はまだネットで検索も思いつかなかったですが、この記事を書く前に試しに検索してみたら、下記がありました。
どぶどろ | 半文居 | 半村良オフィシャルサイト (hanmura.com) (2023年12月10日閲覧)
公式サイトがあったのか!遅いよ、私。上記リンクよりお入りいただき、「プロフィール」へお進みいただくと氏の一部がうかがえますが、そこから引用する「半村さんは奔放に夜の巷を泳ぎ回っていたことは確かで、その時代の経験が、さまざまな作品に生かされることになる。」という一文に深く腹落ちです。さもありなん、相当に練れた大人でないとこんな小説書けないよ。

こちらの記事をお読みいただいて、もしもこの作品を読んでみようかな、とお思いになる方がいらっしゃれば、こんなに嬉しいことはありません。
そして、そこまで思うくらい感動した作品に出合えた自分にも、ありがとうと言いたいです。



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