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農業とブランディング~ブランディングは「ズル」じゃない

中小企業診断士のフクダです。
だいぶ更新をサボっていたのですが、意外とブログは読まれているようなので再開します。今日は「農業とブランディング」について。
こちらの記事の続きです。


ブランディングに関する誤解

私は小規模~大規模、有機農法・慣行農法、農業団体やグループなど、さまざまなタイプの生産者から相談を受けています。

特に若い生産者や自治体、農業団体の方からは「どうやってブランド化を進めればよいですか?」というご相談が多いです。詳しく話を伺うと、自治体の予算を使ってかっこいいパッケージやらWebサイトやら立派なパンフレットを作りたい、というご相談が大半です。

ブランディングについては過去記事でも触れていますが「かっこいいロゴやWebサイトを作ること自体がブランディング」ではありません。
もちろん、ブランディングの「手段」としてそういったツールは存在しますが、あくまで「目的」ではなく「ブランドを伝えるための手段」です。
どうも農産物の場合は「かっこいいロゴやパッケージを作ったり、派手に宣伝したり、加工品を作って高く売ることがブランディング」と考えている方が多いようです。

ブランディングは「ズル」じゃない

このようなブランディングに関する誤解が、生産者を苦しめていることもあります。

ストイックな有機栽培生産者の場合、ものすごく手間をかけて良いものを作っているのに、手間と販売価格が見合わずに生活が苦しい、というパターンをよく見かけます。家族経営だと、ご主人が職人タイプで経営に無頓着、奥様が困って相談されることが多いですね。

「良いものを作っているのだから、ちゃんとブランディングしましょう」とお話すると
「ブランド化してやたらと高く売るのは主義に反する。分かる人が買ってくれればいい」
などと言われたりします。

ブランディング=不当に値段を高くすること=ズルしている
といった捉え方をされているんですよね。そうじゃないんです。

生産者の思いと情熱を伝えるのがブランディング

100円の価値しかないものを、300円で売るのがブランディングではありません。農業の世界ではむしろ、300円の価値があるものを、その真価を伝えきれずに100円で販売していることが多いのです。

1個300円のトマトは、スーパーで売っているものに比べれば高級品ですが、そのトマトが「自社農園で30年かけて改良したオリジナル品種で、栽培方法にもこだわり、味も素晴らしい特別なトマト」と知ったら、300円でも安い!と思われるかもしれません。
また、自分で500円で売ることが難しくても、扱ってくれるショップやサイト経由でお客様に価値を伝えることはできます。

「食べればわかる」というほど舌の肥えた人は少数です。作り手がその商品にかけた情熱や思いも商品の「価値」のうちです。「高く売れる」というのは、作り手の情熱や思いに共感し、支持してくれる人が増えた結果に過ぎません。

安く売りすぎる人は、「原価」を分かっていない

農業経営が苦しいという方に「農産物の価格決定はどうしていますか?」と聞くと、取引先と相談して決めたとか、同じ野菜の価格相場がこれぐらいとか、市場で売るから自分で決められない、といったお答えが返ってきます。
「製造原価はどれくらいですか?」と聞くと、家族経営の場合、種や肥料、資材の価格ぐらいしか計算していない方が多いです。家族だって人件費はかかります。「家族でも最低時給2000円で計算しないと、手間に合わないですよ」という話をします。ビニルハウスや農業機械などの減価償却費もコストに入れて、赤字になる価格でしか販売できないなら「作らない、売らない」という選択肢もありです。
栽培品目や販売方法を変えて、ちゃんと利益の出る農業に切り替えましょう。

「美味しい」は当たり前、その先にある価値を伝えよう

農産物のブランディングと言うと「美味しい」「甘い」といった味をアピールすることが多いです。でも正直言うと、ある程度以上のレベルの農産物の美味しさの違いって、素人には判断がつかないのですよ。
「まずい」と「美味しい」の違いはわかりますが「美味しい」と「ものすごく美味しい」の評価の違いは、味覚以外の情報で判断されることが多いのです。これを「情緒的価値」といいます。
この生産者が好き、応援したい、買い続けたいと思わせるような情報を伝え、見分けてもらい、買ってもらうための仕組みづくりがブランディング。決して、消費者をだましたり、ズルして高く売るというものではないのです、

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