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新宿発乗車ブルース〜リアル学祭訪問まで

秋晴れの午前11:00。
高尾山はすでに紅葉を迎え入れる準備はできているが、早朝のひんやりとした登山口へ向かうハイカー達にはこの時間はすでにアイドルタイムだろう。

彩り賑やかな季節になった

学園祭シーズン真っ只中。
今年は数年ぶりのリアル開催で実行委員会も気合が入って、各校練り込まれた企画も楽しみのひとつになる。今回訪れるこの学祭にも同じ思いだ。

ガラガラの新宿行き上り各駅停車からようやく明大前駅に着いた。

ここ明大前駅は麺がうまい立食い蕎麦があるとYouTubeで見ていたが、新宿行きの京王線と渋谷行きの井の頭線に乗れる利便性と20分程度で繁華街に行けるというミニハブ駅であることは学生たちには大きな魅力であり、途中の初台や幡ヶ谷にワンルームマンションが多いというのも彼らにとっても何かと都合が良いだろう。

吉祥寺、渋谷、新宿、下北沢、調布に多摩に高尾山。キティちゃんにだって会いに行ける。

通勤通学だけではない賑わいの都会から郊外のショッピンセンター、自然豊かな場所まで網羅している京王線は好きな路線のひとつだ。

学生コンパも社会人になっても新宿にでも飲みに出れば、時に新宿駅発の京王線は「下りオーライ!」とはいかないこともある。

気の知れた仲間とテーブルを囲んで愚痴に文句に激論とボルテージも上がってドジ話の馬鹿笑いで酒もすすむこと間違いない。
すっかり出来上がって新宿駅をゆらりゆらりと歩き、お目当ての列車に無事到着できて新宿駅始発ゆえにシートに座ることができた日にはウトウトしながらもお隣の押し返しでハッとすることも“お疲れ様”のお情けがあるが、身も心も溶けるようにシートに染み込んで口を開き上を向いて天上と交信し出したらあっという間に高尾山の麓にいざなわれてしまう。


この巨大都市東京のハブ駅としてラスボスのごとく君臨する新宿駅は昔からどうも苦手だ。

全国有数の乗り換え難易度を誇る新宿駅。コースは5つ、山手に京浜東北、総武に中央、湘南新宿ライン。
無事JRの改札口を脱出できても、どこもかしこも「行き先サイン」で溢れている。
ランドマークの建物やビルの入り口、デパート入り口。このごろはバスタ新宿なんてバカでかいシンボルもあってJR構内の5つの路線でも十分なのに、すんなりJRステージをクリア出来ても、次のステージには都営新宿線、大江戸線、小田急に京王、更に京王新線と怒涛のごとく私鉄が追い討ちをかけ待ち受けていることを忘れてはならない。

右から左から正面から上から下から後ろから、もう東口も西口も関係ない人流は上り下りと入り乱れる中で数十秒でも立ち止まって頭をあげて行き先文字を彷徨っていれば、あっという間に自分が鳴門の渦潮状態になりかねない勢いだ。
人の隙間を縫うように歩くのは長年の通勤通学で身につけた特技だったはずだ。

油断するな。
巨大なスペースと天井の高い長い通路の東京駅で自然と作られる整列進行と違ってここは激流ポイントなんだ。パドルのないスラロームでゲートをくぐるごとくにおのれを操作しなければゴールは拝めない。

🟦🟥

シンボリックなロゴやイメージカラーはデザイナーの腕の見せ所だ。幾度も見た京王電鉄のマークの判別にはわりと自信があった。

形状と色の脳内再生を行うも、お目当てのマークはすんなりとは見つからなかった。

京王線・京王新線

(あれぇーどういうこと?)

新線なんてなかったぞ。

京王電鉄は事業再編を機にロゴマークを京王ブルーと京王レッドでスピード感あるロゴにリニューアルしていたのだった。コーポレートアイデンティティは普遍的であるものと思い込んでいたのだった。

360度視野を広げて、小さなサインをひとつまたひとつと追いかける。

ようやく大江戸線、京王線、京王新線方面の丸ゴシックサインを見つけ、「京王新線って京王線?」と半信半疑のステップでかけ抜ける。

不安になると陽のあたる場所に出たがるのはちょっとした人間の防衛本能だろう。古代では山々の形、岩山をランドマークに太陽、星の位置で時刻方位を確かめていたが、現代人にはビルの並び方にサイン広告、牛丼やバーガーチェーン店の位置で記憶するはずだが、何十年ぶりの景色はそんな経験も記憶もまったく活かされない。

都会慣れしてない人間のたったひとつの教え。
それは「私鉄は地下に潜れ」だ。

右に小田急大江戸線のステータスカラーが見える。サザンテラスのカフェで過ごす人たちを横目に、消去法で残された左方面に向かう。

数メール先にカフェより小さいワープの様な入り口が現れた。「京王線」
(おいおい。そんなとこにあったのかよ、、)

もうここまで来ればこっちのもんだ。
地下に潜る様に狭い階段を降りると大江戸線の案内に一瞬たじろぐが、「京王新線はこちら」のボードを持ったガードマンに掛け捨て保険をもらう。(大都会の地下迷路にみんなからきっと文句のひとつでも出たんだろう)
何事もなかった様に装う歩幅も心なしか広めになっている。

(京王線と新線って。聞いてないよ。行き先それとも停車駅が違うのか、、?)

スッキリしないまま上がって下って、どうにか「京王多摩センター」行きが待つ京王新線?ホームにたどり着いた。
なんとなく耳から流れていたプレイリストの音楽もブルースロック(*)だったとわかり、ようやく落ち着きを取り戻していた。

*Got to Hurry(Atanetive Version)

The Yardbirds:リードギターは3代ギタリストのひとりEric Clapton

ホームを待つ隣には初老のご婦人が若い女性に自分の行き先がこのホームでいいのか?はたまた、なに行きに乗れば良いのか?を尋ねている様だった。

(わかるよ、その気持ち。意外とみんなわかんないんだから、ほんと。)

そんな同調気分もそこそこに目当ての列車が目の前に入ってきた。
ラッピング車両にちょっぴりワクワク感で乗車し、お気に入りのプレイリストでどっしりと腰を落とす。

先程ご婦人に答えていた女性もすでにブルートゥースのイヤホンに聴き入っている様だった。

チャイムとともにスルスルと動き出す。

京王線は確か駅間が短い記憶だった。ジーンズ姿の自分と数人という車中は幡ヶ谷駅のあと2つか3つで到着のはず。

The Thrill Is Gone

唄:B.B.King

スリルは無くなってしまった。すっかり悦に行って再びブルースロックに聞き入っていると到着駅の社内アナウンスもリズムの中に消えて自分の視界のみが頼りとなるが、リュックに入れたペットボトルに目を落としてひと息ついているすきに思った以上にスピードが速いことに気づいた。

京王多摩センター行きの文字には自信を持って(夜寝過ごしたサラリーマンでもあるまいし)たかを括っていた。

「次は桜上水」

(アレ?)

電光掲示板を見て降車駅から2駅を迎えたことに気づき、桜上水で上りの各駅停車新宿行きを待つことになるとは。(油断するなと言ったよね)

ホームで待つこと数分。すぐに新宿駅行きがやってきた。
今度こそコウベをあげたままやり過ごして本日2度目の登場、明大前駅にようやく降りたつことができた。

本来なら新宿発各駅停車で下り京王多摩センター行きでたった5駅での目的地だったのに、なんてこった。これから学園祭に行くというのに、おつかれさまだ。

噂の立食い蕎麦屋をやり過ごすし、京王線と京王新線の違いを分からぬまま改札口を出て秋晴れの街を見上げれば、あとは駅前の通りを進み京王線に並走する首都高4号下の甲州街道の陸橋を渡れば、お目当てのステージはもうすぐだ。スリルは無くなってしまった。

「ああ、なんて素敵な日だ」

スマホのプレイリストもいつの間にか流行りのJ POPに変わり、今日の京王線第二ステージクリアを労ってくれてる様だった。


(学祭訪問後記)
ヘッダの写真は明大祭パンフレット。秋色をモチーフにしたデザインもなかなかなものだったよ。
今回訪れた大学に限られたことではないが、手ぶらで訪れているグループと会場でパンフレットを手にする人たちが見受けられる。
前者は学祭イベントを縦スクロールでリサーチする学園祭専用note、インスタ、XやTikTokといった動画を取り入れたSNS派、後者は親世代が中心だろうか。

第一回開催の1881年から数えて139回目を数え、例年50,000人近くが訪れるとのことで、開催理念も趣旨も練り込まれた文系一大イベントとも言えるリアル学園祭。

世代が行き交い、集まって語らう場所。

「知的創造と活動を喚起する環境としての大学等キャンパスに関する分科会」では

・ユニバーサルデザイン
・共同体験の場
・都市における防災拠点の役割
・防犯
・子育てしながら学べること
・造園、庭園設計といった専門家のランドスケープアーキテクト

(参考文献:日本学術会議 土木工学・建築学委員会 2017年9月29日)

の改善と重要性を提言している。

絶妙な接点を作り
互いの思いを解放するんだ
あえて囲ってしまうことが
「いま」と「ここ」を楽しむこと

訪れた11月3日はビートルズ最後の新曲「Now  and Then」の解禁日だ。メインステージではビートルズトリビュートバンドの歌声が秋日のキャンパスを上手に彩っていた。
ありがとう。

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