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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(19)静寂の中で

Chapter19


「絶対に辿り着く、辿り着いてみせる。大丈夫だ⋯⋯今度は距離が縮まってる気がする」

 トムは自分に言い聞かせながら前進した。彼の足は確実に、「キリンの滑り台」のある遊具エリアに向かっていた。10分ほど歩いた後、最初は小さく見えていたキリンの頭が徐々に大きくなり、まるで彼を歓迎するかのようにその姿をはっきりと現していた。
 
「この公園はとても広いから、レナが今、その場所にいるって保証はないけど⋯⋯」

 トムはぼんやりとした不安に包まれながら呟いた。突然、不安が焦りへと変わり動揺した。直感的な行動が彼のパニックを回避させてきたが、今回ばかりは勢いだけで問題が解決するわけがないと、心のどこかで理解していた。弱気になった自分を奮い立たせるべく、全力で目的地を目指した。


***


 息を切らしながら遊具エリアの入り口に差し掛かったところで、彼はまた違和感を覚えた。人気スポットであるはずのこの場所に、今は誰一人として見当たらなかった。通常は子供たちの笑い声や賑やかな会話が響き渡っているはずだが、何か異様で、不気味な静けさが広がっていた。

「誰もいない? そんなバカな⋯⋯いつもは子供達の声で賑わっているのに、こんなに静かのは初めてだぞ⋯⋯!」

 トムは辺りを見回し、遊具よりも人の気配が全くない事に意識が向いていたが、突如彼の視界に不可解なものが映った。

「なんだ、あれは⋯⋯。透明な⋯⋯何かが動いて見えるぞ?」

 それはまるで、犬が駆け回っているかのような素早い動きだった。その物体は透けており外観は判別できなかったが、トムはある事に気づいた。地面からわずかに浮いているように動くその物体は、時折、光を反射する瞬間があり、その姿がほんの一瞬だけ見え隠れしていた。

「おかしいぞ⋯⋯何か影のようなものだけは動いて見える。姿は見えないのに、一体どういう事だ!?」

 トムは目を凝らし、その不可解な現象を解明しようと必死だった。その時、聞き覚えのある声が空を切り裂いて彼の耳に届いた。それは彼に安堵感をもたらし、胸をくすぐる忘れられない声だった。

「トム! トムなのね!」

 彼はハッとし、すぐに声のする方を振り向いたがそこには誰もいなかった。混乱と希望が入り混じる中、彼の胸は期待で高鳴り、感情を抑えきれずに声を限りに叫んだ。

「レナ!! どこだ!?」

 トムは無意識のうちに、キリンの滑り台の方へ向かっていた。


No one here? That can't be...


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