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【秋の風物詩】

 
 
秋が深まるにつれ、人々の心もますます潤っていく。 
緑一色であったはずの山々が、”錦秋” と呼ぶにふさわしく
今ではすっかり色づいて、まるで美しすぎる絵画のようです。
『秋の夕日に照る山紅葉、濃いも薄いも数ある中に…』と
しみじみと歌うならば感激もひとしお。
日本の紅葉は世界で最も美しく
なおかつ色彩の変化が格段に豊富であると聞く。
なるほど日本でこそ、紅葉は誰の目にも美しく
我が国の風土や文化に、とりわけ似つかわしい。


関西の名所なら、京都では嵐山、神護寺、永観堂、清水寺。
奈良では、竜田川に談山神社。 滋賀では西明寺等の湖東三山。
兵庫では布引の滝に姫路城。 和歌山では那智の滝。 大阪では箕面山など。
しかし、どの町どの村どの地域の紅葉も
遜色がないほどに素晴らしく、そして何より慕わしい。
日本中のいたる所が、名所であるように思えてならないのです。


色別に見ると、『紅葉』が
楓科、漆科、バラ科、葡萄科、ツツジ科、錦木科などに属する植物。
『黄葉』が、公孫樹、シナノキ、鈴懸の木、ポプラなど。
『褐葉』が、櫟、栗、欅、子楢、栃木、橅(ぶな)など。
二百種以上といわれる秋・冬の落葉前の
これらを全部ひっくるめて、紅葉(もみじ)と呼ぶ。
我が国を訪れた外国人観光客にはぜひとも
日本の世界に誇るべき風土や文化、礼儀正しさや
おもてなしの心ともどもに、『紅葉』を堪能していただきたい。
その紅葉も、最低気温が摂氏10度
もしくは8度をくだるようになると、いよいよ本番。


日本列島の各地では現在、秋祭りがたけなわで、笛や太鼓の祭囃子が
一段と町中を盛り上げ、矢も楯もたまらぬほどに郷愁を誘うばかり。
そうそう、我がふるさとだって例外ではありませぬ。
相生の今年の秋の天神祭りは、北町の当番で、ゆえに北町ゆかりの青年団は毎夜のごとく、笛や獅子舞い等の稽古に余念がないのです。
我が町、兵庫県相生市の相生は、1~5丁目と
川原町と大谷町から構成されており、更には古くから相生(おお)全体が
北町・南町・上町と慣習的に3つの区域に分けられています。
ちなみに北町とは、現在の相生1~2丁目の区域。


北町の者は、北町の獅子舞いが一番うまいと言い
南町の者は、南町の獅子舞いが…
むろん上町は上町で、毎回毎回、同じようなことを言い張っている。
秋祭りの熱気は、そのまま春祭りへと引き継がれますが
郷土愛の強さと言うべきか、非常に微笑ましいではありませんか。


秋祭りあり、運動会あり、修学旅行あり、芸術祭に文化祭…。
秋はまったく贅沢な季節だ。
日展や仁科展などの美術展。 芸術院賞や文化勲章等の授与式。
ハロウィンのかぼちゃおばけには、思わず頬が緩みます。
春には春の、夏には夏の、冬には冬の良さがあるけれど
秋はやはり、しのぎやすさや自然美なども相俟って
人々に深く親しまれているのでありましょう。


秋の代表的な風物詩としては、その他に、秋のお彼岸に敬老の日
赤い羽根運動に誓文払い、稲刈りに七五三、新聞週間に読書週間
新嘗祭に感謝祭、加えて、菊花展に詩歌管弦付きの観月会。
旧暦8月15夜が、中秋の名月(芋名月)ならば
旧暦9月13夜が、後の名月(豆名月)。
片月見を避け、両日とも祝うのがならわしで
縁側の机の上に、月見団子やススキの穂、或いは季節の作物を供えて
まん丸顔のお月様を祝い愛でる風情は、日本人ならではのもの。
耳を澄ませば、こおろぎ、松虫、うまおい、くつわ虫、鈴虫…。
小さな秋の演奏家たちが、ヴァイオリンの ”E線” や
ハープの ”ナイロン弦” さながらの、涼しげな音色を奏でています。


秋の七草も、彼岸花も、コスモスの花々も
すでに随所で見られるようになりました。
夕焼け小焼けの赤とんぼ達もまた
どこかで気持ちよさそうに、飛び交っている事でしょう。
『更け行く秋の夜 旅の空の…』だったり
『村の鎮守の神様の今日はめでたい…』だったり
昔なじみの童謡そのもののように、移り行く季節は確実に秋を装っている。
 



秋の神戸コレクション等はもとより、菊花展や菊人形展が
華やかに催されるのも、この季節。
福島県二本松市や、福井県武生市の菊人形は、とりわけ全国的に名高く
我らが地元関西でも、枚方パークのものが定番であり好評でした。
そう言えば子供会による当園へのバス旅行かたがた
菊人形の魅力に圧倒された記憶が…。
菊は菊でも、薔薇の花のように様々な種類や品種があります。
わけても菊人形のものは、主に『小菊』が存分に使われていて
丹精のなかにも優雅な時代絵巻や、世相を反映させた演出があり
子供の目にも、見ごたえは充分でありました。


菊は、桜と共に日本の国花につき
天皇家や皇族方の紋章にも使用される大変由緒ある植物。
ちなみに『菊の宴』とは、旧暦九月九日の重陽の節句に
宮中で催されていた ”観菊の宴”  のこと。
群臣に詩歌を作らせ、菊酒を酌み交わし、不老長寿を祈ったとされる。
また重陽の日を、お九日(おくにち)と呼んで
各地方で氏神様の秋祭りとして、収穫を祝ったそうな。
九州地方では、この呼び名が単に祭りの意味にも使われ
長崎くんち&唐津くんち等の語源の由来に。


ところで、越中おわら節の民謡などで著名なのが
富山市八尾町に伝わる風の盆。
『風の盆』は、二百十日の暴風を鎮めて五穀豊穣を願う風祭りと
盂蘭盆の納めの行事とが習合したもので
九月一日からの三日三晩、町をあげて披露される。
麗しい北陸地方の石畳と疎水の古い町並みに
胡弓&三味線の哀切ただよう曲調と唄と、無言で踊る女衆に男衆。
夜ともなれば、雪洞や提灯の神秘の灯りに、ゆらりゆらり幻影のごとく
映し出される…。 これぞまさに日本の秋の風物詩。
日本はなんと、魅力的な素晴らしい国だろう。
その素晴らしさを数え上げたら本当にきりがない。


日本人の “心のふるさと” であり続ける京都、そして奈良——。
両者の地においても、秋でなくてはならない風物詩が数多く見られます。
京都では、三大祭りの時代祭りや、嵐山紅葉祭り、鞍馬の火祭、ずいき祭
京都御所秋の一般公開、斎宮行列、真如堂お十夜法要、梨木神社萩祭
太秦の牛祭、伏見稲荷火焚祭、石清水祭…等々。
奈良では、奈良公園の鹿の角切り、猿沢池采女祭り、国立博物館正倉院展
薬師寺万燈会、西大寺大茶盛、豆比古神社翁舞、法隆寺夢殿開扉
石上神宮渡御祭、大神神社酒祭り、談山神社秋の蹴鞠祭…等々。


日本人のはしくれとして
奈良や京都には、格別の憧れを持ってしまうものの
しかし、どれほどの小さな町、小さな村、ちいさな地域であれ
自分たちの生まれ育った故郷で催される行事ほど
待ち遠しく、心の底から嬉しいものはないのです。


阿寒まりも祭り、釧路コタン祭り、角館の祭り、須賀川の松明あかし
鶴岡八幡宮流鏑馬神事、箱根大名行列、川越祭り、島田帯祭、こきりこ祭
秋の高山祭、岸和田だんじり祭り、灘のけんか祭り、牛窓の秋祭
出雲大社神在祭、金比羅宮例大祭、西条祭り、北条祭り、唐津くんち
長崎くんち、八代妙見祭、西都原古墳祭り、鹿児島おはら祭り
曽於の弥五郎どん、そして那覇大綱挽まつり…。


これらは皆、何物にも代えがたい日本国民全体の財産だ。
たとえ、秋の夜空に瞬くカシオペア座や、アンドロメダ座が
宝石に勝る稀に見る美しさであろうとも、それにも増して
大宇宙の中のこの地球の、この日本列島こそが格段に美しい。
全国の津々浦々で、この秋のさまざまな行事を、そして風物詩を
多くの人々が、どれほど心待ちにしていた事でありましょうか。


秋の魅力は、それだけではありません。
桃にぶどう、梨に林檎、柿に秋茄子、無花果にあけび、里芋にじゃがいも
かぼちゃに玉蜀黍、松茸に椎茸、鮭に秋刀魚、それに栗ご飯に御萩…。
このような品々を連呼されると誰しもつい、よだれを。
奇跡としか言えない自然界の賜物の数々。
人々が歓呼する、このありがたい季節はまさに、実りの秋。
いつか将来、若者も家庭を持ったならば、その時は家族総出で…
紅葉狩りや、秋祭りや、お月見や、運動会は勿論のこと
栗拾い、梨狩り、ぶどう狩り、松茸狩り…
そして秋ならではの郷土料理も、ぜひとも味わいに出かけるべし。


秋に行楽は打ってつけであるし
結婚シーズンが、秋である事も、忘れるわけにはいきませぬ。
かけがえのない日本の秋を、さて皆さんはどのように満喫いたしますか?



※建礼門葵による『秋の風物詩』でした。
2/6に投稿した『冬の風物詩』や
2/13に投稿した『夏の風物詩』と同じく
四季折々の日本の風景や行事や人情の素晴らしさを
多くの方々に再発見していただきたく
できるだけ盛り沢山に綴ってみました。
生まれ故郷の相生で過ごした ≪美しい秋のスケッチ!≫

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