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ことばを、動かして

今日の日が終わる。仕事は普通にがんばった。いや、がんばっていないか。できることはやった。それ以上は何もない。それで充分だ。そういうこと。

2階窓際カウンター席に座って、注文を聞きに来たウェイトレスに「モーニングセットでホットコーヒー、トーストはバター多めで」と伝える。

バター滴るトーストの皿をテーブルの上に置いたウェイトレスがサイフォン式で淹れた珈琲をフラスコからなみなみとカップに注ぐと珈琲の湖面に白い湯気が漂う。

2階窓際カウンター席は、良い場所だった。トーストを食べ終えて珈琲を一口飲んだぼくは、窓から見える景色をみてタイピングをはじめる。当時の街は観光客で賑わっていて、窓の外にみえる商店街の入口あたりには朝の7時でもスーツケースを引っ張りながら歩く派手な服装の家族連れが大勢いた。そんな彼、彼女たちの様子をテキスト入力マシンのポメラでタイピングして過ごしていた。

2階窓際カウンター席の珈琲店は改装されて開店時間が8時になり、短い朝の時間を過ごすことができなくなった。その後、通うことになった半地下カフェも快適だったが、窓から見えるあの景色が恋しかった。窓の外ではいろんな人がいろんな思いで毎日を歩いていた。その人たちが行き交う横断歩道の景色をことばで描写するのはタイピングする指が跳ねるほど面白かった。2階窓際カウンター席は今もあるのかな。

身体の状態は悪くないし、呼吸も普通にできるが、黄砂が飛んできているようで、朝、通勤電車の長椅子に座って窓の外の景色を眺めていたら、両方の目に涙が溜まってきた。目の中の異物感に刺激されてじんわりと涙が溜まっていく感じで、ポケットから取り出したハンカチでマスクの少し上のこぼれそうな涙を拭いていると、前に座る女性もハンカチを鞄から取り出して涙を拭いた。

「これは黄砂かもしれませんよ」とマスクの中で口をパクパクさせるぼくに気づいた女性が怪訝な顔をしたので、ぼくは眠ったふりをする。


部屋の片付けを毎日続けていて、部屋にある一つの棚に手持ちのモノを全て集結させようと試みている。そこにモノを一旦集めて、その後整理しようという計画。棚一つにモノを集める過程で、不要なものを相当捨てた。今では床に置くモノはほとんどなくなり、部屋には可動式のスタンディングデスクとチェア以外、何も置かれていない。その他のモノは、きっと棚のどこかにある。

今日は、棚にある自分以外のモノを部屋の外の棚に移し、部屋の外の棚にある自分のモノを部屋の棚に移した。ただ移しているだけだが、自分が把握できる範囲内に自分のモノを置くのは大事なことで、片付けるモノと向き合うことができるし、どう片付けるのかを考えることができる。ただ、棚のなかのモノたちは決して動こうとしないから、片付くにはしばらく時間がかかりそう。動かそうとして、動かして、今日も何かが変化する。それは確実に。

今日はこんな感じで。


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