見出し画像

SS 橋の上 【#青ブラ文学部参加作品】

「君も死ぬの?」
「そうね……」

 夕闇の薄暗い橋で少女が立っている。たまに車が通るくらいで通行人はいない。橋の欄干らんかんに足をかけた少女を見つけて僕は驚いた。

「僕も死ぬんだ」
「そうなんだ……」

 表情が乏しい彼女は、コミュニケーションが苦手そうに見える。

「先でいいよ」
「うん……」

 そこにすっと車がライトを光らせて通り過ぎる。彼女は固まったまま動かない。

「ならぼくが先に行くよ」
「じゃあ、後から行くね……」

 彼女の表情がやわらぐと普通にかわいい。もっと会話したいけど、今の苦しさから逃れたい。足を欄干らんかんにかけて体を持ち上げる。体が重い、非力な自分が橋から落ちて自殺なんて無理に思える。

「むずかしそう?」
「乗り越えるのが大変」
「手伝うよ」

 彼女が近くまで来ると小さなやわらかい手で体を押してくれた。でも他人から押されると恐怖で震えた。

「こわい……」
「ここに腰をおろそう」

 彼女は欄干に腰をおろす。僕も真似する。もう暗い橋の上から、沈んだ夕日は見えない。

「だいじょうぶ」

 彼女は右手で僕の左手をつかむ。あたたかくやわらかい感触で不安が消えた。合図もしないで僕たちは落ちた。

xxx

「きれいね」
「きれいだね」

 夕闇がはじまったばかりだ。美しい夕日で、空は橙色に染まっている。彼女と手をつないで橋の上を歩く。

「ここだね」
「ここだよ」

 きっとこれは罰なのかもしれない、彼女と僕は橋の上に立つと毎日のように飛び降りて死んだ。繰り返される世界は、地獄なのかもしれない。

 でも僕は、彼女との逢瀬おうせがとても幸せに感じている……

#青ブラ文学部
#橋
#ショートショート
#怪談


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?