会いたくて《エッセイ》
こんな時間にお腹が空いてしまった。
困ったな…と思っていたら…ふと懐かしい味が食べたくなった。
それは、祖母がよく作ってくれた鰹節と醤油だけを混ぜたおにぎり。
私達孫の大好物だった。
ふんわり柔らかく握ってあるのに、食べてる時にボロボロ崩れない。
あの加減が、未だに私には分からない。
祖母の味には、到底追いつかない。
そんな事を思っていたら、胸をギュッと締め付けられる。
何度も越えてきた壁や節目に、私は祖母に報告をする。
「今日はね…」
そう心の中で語り掛けて居ると、祖母があの笑顔で、私の手を優しくさすってくれている気になる。
もう15年が経つのに。
今日の桜が舞う中、少しづつ葉桜になってきている姿が切なく、やはり祖母を重ねた。
今生きていたら91歳だった。
もしかしたら、私の事も忘れていたかもしれない。
身体の自由も効かなくなっていたかもしれない。
それでも、祖母には変わりはない。
祖母の代わりは居ない。
最後に交わした短い言葉を、ずっと胸に抱えている。
私の胸に刻み込んで今日も生きた。
後悔は捨てる程ある。
何も出来ずにいた自分。
無力だったと気付いた時は、もう遅かった。
行方不明の当日に、祖母の命の灯は消えた。
生きていると信じていた数日間、祖母は冷たい水に流されていた。
そんな事も知らずにいた自分が憎い。
馬鹿だ。
私は呑気だった。
何を知って居たのだろう。
私は祖母の何を見ていたのだろう。
今こうして、祖母の不在を胸に抱えて、ただただ後悔と虚無が去来する。
『会いたい』と願っても、二度と叶わない。
肩たたき、もっとしたかった。
もっと話したかった。
もっと沢山の事を聞きたかった。
おばあちゃん孝行したかった…。
また…浅草の仲見世に一緒に行って、今度は私が美味しいものをご馳走したかった。
何も出来なかった。
何も返せなかった。
ただ、私は祖母の存在に救われ支えられ愛されていた。
私は、何も返せていない。
おばあちゃん、会いたい。
話したい事、報告したい事沢山あるよ。
時間が足りない位に。
会いたい。
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