母さんが死んで、父さんが猫になった③

真夜中

ミチヨ「ああ、夜中なのに目が覚めちゃった。」

ミチヨ「トイレトイレ」

ガサガサっ

父さん「ガサガサ、ガサガサ」

ミチヨ「(父さん…?)」

ミチヨ「何してるのかしら?」

父さん「う〜ん、ないなあ〜ないなあ〜」

ミチヨ「??!!?!」

次の日の放課後、学校帰りのタケル。

タケル「クッソ。赤点ばっかで注意されちまった」

タケル「希望の大学なんてどこ選べばいーかわかんねーし。」

タケル「部活にも最近出てないしな…」

タケル「友達とも気まずくて、話すこともねーよ。」

タケルは、くよくよしがちな性格だった!

タケル「はあ…」

タケル「ああ〜もう!」

タケル「無理!むりむりむりむり!」

タケル「父親は猫だし!」

タケル「妹はバカだし!!」

タケル「くっそ!」

タケル「誰が悪いんだ?!」

タケル「俺じゃねーぞ!」

タケル「母さんがか…?」

タケル「…」

タケル「…」

タケル「そうこうしてる間に家に着いちまったぞ。」

ガチャ

タケル「んっ。」

タケル「父さんの靴がある。」

タケル「あいつだ。あいつが悪いんだ。猫になんてなりやがるからだよ。」

タケル「くっそ!」

扉の向こうから、話し声が聞こえてくる。

タケル「(なんだ?父さんか?)」

父さん「あのだから書類を先に提出してもらって。僕から事務所の方に連絡しておくから、佐藤くんは先方への連絡を取り急ぎやってもらえる?」

タケル「はっ?!」

父さん「あっ!」

父さん「にゃん!」

タケル「ど、どういうことだ?!」

父さん「にゃ…はっ!」

父さん「もしもし!もしもし?!」

父さん「いやっ違うんだ!うちの、猫が…ハハハハハ!とにかく書類を」

タケル「なんで喋ってるんだよ!?」

タケル「喋れるのか?!」

父さん「こっ、これは…」

パリンパリンパリーン!とガラス窓が割れ落ちる

父さん「にゃん!」

父さん「?」

タケル「うおっ」

タケル「何これ?!」

父さん「ダダダダーッ」

タケル「父さん!」

タケル「逃げた!俺の父親が逃げた!」

タケル「ということがあったんだよ。」

ミチヨ「…」

ミチヨ「あのね。じつは」

ミチヨ「わたしも夜、聞いちゃったの。お父さん、ひとりごと喋ってたのよ。完全に、日本語だったわよ。」

タケル「はあ?!」

タケル「なんでそういうことその都度言わないんだよ?!」

ミチヨ「夜中だったから、怖くて。」

タケル「怖い、って。」

タケル「父親だろ。」

ミチヨ「今は猫じゃない。」

タケル「たしかに。」

ミチヨ「夜中ににゃんにゃん言われてみなさいよ。」

タケル「ゾッとする。」

ミチヨ「そうでしょう?!」

ミチヨ「ガサゴソしてたのよ。」

ミチヨ「あっ!」

ミチヨ「何かを探してたみたいなの。「ないなあ、ないなあ、あった!」って言った後で、寝室に戻って行ったわ。とりあえずそれを、見てみましょうよ。」

寝室

ミチヨ「これよ。茶色い表紙だったからたぶん。」

タケル「「母さんからの手紙集」…?!」

タケル「ガサッ」

タケル「「テルキさんへ。わたしはテルキさんと初めて会った時からずっとずっと、テルキさんのことが宇宙の中で一番大好きです。」

ミチヨ「うわ」

タケル「寝ても覚めても、ううん。夢の中でも。夢の中にいるあなたはいつもより饒舌で、わたしのことをよく知っている雰囲気がありました。わたし達二人は結婚するのかもしれない、とその時にわたしは確信していました。とにかくわたしは一日中」

ミチヨ「ははは恥ずかしい〜!」

タケル「→あなたのことが頭を離れません。テルキさんの為に今、詩を作ってます。それから、お母様に会いに行くときのために料理教室にも通い始めました。ちなみにわたしが一番あなたの好きな部位は」

ミチヨ「ちょーやめえや!」

ミチヨ「ふつうのラブレターじゃんか!」

タケル「人差し指です。」

タケル「好きな部位は人差し指です。」

タケル「理由は」

タケル「ごくり…」

ミチヨ「何かを知ってるような顔で読むな!」

タケル「知ってるのか。ミチヨ」

ミチヨ「そういう話じゃないのよ。」

ミチヨ「なに?!何なの?この手紙を探してたっていうわけは?」

ガタッ!

タケル「あっ父さん!」

父さん「…」

父さん「母さんとは話を付けてきた。」

タケル「はっ?」

タケル「てか、喋れるのか?!」

父さん「うん。」

パリンパリン!

父さん「かあさーん!」

父さん「言っただろう!タケルも、ミチヨも、家族だって!」

父さん「家族は特別ルールだろう!」

………。

タケル「はあ?」

ミチヨ「なななに。どういうこと?」

ミチヨ「誰と喋ってるの?」

父さん「母さんだ。」

父さん「母さんは死んだ後、亡霊になった。そして父さんに取り憑いている。」

父さん「ハッ」

父さん「読んだのか?!」

父さん「この手紙、読んだのか?!どこからどこまで読んだんだ?!」

タケル「これだけだよ。」

父さん「それを?!」

父さん「よりによって?!」

父さん「…」

父さんは、気持ちをシフトした。

父さん「まあいい。仕方ない…」

父さん「その手紙アルバムの一番最後にある手紙を読んでみろ。」

ミチヨ「う、うん。わかった。」

ミチヨ「ガサッ」

テルキさん。テルキさんと出会ってからもうすぐ一年になります。わたしのお腹の中にはあなたの赤ちゃん(一郎)がいますね。

タケル「一郎?」

父さん「初めは一郎にする予定だったんだ。」

一郎と名付けた日、わたしたちは10回目のデートで、予約していた洋食店「ミカエル」に行きました。その後で入った映画館「みんなの館」で見た「スプーンパーティ」はとても感動しました。そしてその後、帰り道で雨が降って来たのでたまたま入ったラブホテル「一郎」で出来た子が今のわたしのお腹にいる赤ちゃんなんだと思います。

タケル「情報が多過ぎるだろ!!」

タケル「一郎〜!!」

ところで

ミチヨ「どうして名前変えたのよ。」

父さん「タケル。」

父さん「前向きに生きろ。」

五年経っても、わたしは初めてあなたに会ったときの気持ちのまま。宇宙で、ううん、ビッグバンが起きる前からだいすき。

ミチヨ「いわゆる I love you the most than the universeね。最上級なのね母さん。」

父さん「…」

でも、一つだけ心配になることがあります。それは、わたしがもしもあなたよりも先に死んだらっていうこと。わたしがもし、一人だけ先に死んだとしても、残ったあなたには絶対に再婚して欲しくありません。

タケル「…」

テルキさんと結婚するのは地球上ではただ一人、過去も未来もずっとわたしだけであってほしい。なんてわがままかな?ずっと、ずっとわたしと一緒にいてください。ほかの女の子とも喋ったらダメよ!

父さん「wwwwww」

タケル「イヤ笑えねーよ」

タケル「で?」

タケル「もしやこれが理由だってのか?!」

タケル「「再婚しないでください」「喋らないでください」?!」

タケル「ふざけてんじゃねーよ!」

父さん「違うんだ。タケル。ふざけてなんかない。」

父さん「父さんも普通に生活して、子ども達、それから死んだ母さんの為にも精一杯、より良く生きようとしていた。けどな、」

父さん「ダメだったんだ…思ってた以上に母さんの想いが強すぎたのか、」

父さん「他の人間と喋ろうとするたびに、ものが壊れたり、はたまた事故に合いそうになるんだ。」

父さん「見たろ。ガラスやコップが割れるのを。」

父さん「ずっとあんなだ。」

父さん「このままじゃ、周りの人間も危険な目に遭いかねない。それで父さんは、父さんは…」

猫になった!!

ミチヨ「そんな…ふつうの、優しい母さんだったのに。」

父さん「あれは…表の顔だ。」

ミチヨ「お、表の?」

父さん「裏の顔では、父さんが宇宙一なんだ。」

父さん「可愛かった。あんなに若くてぷりぷりしてたのに、父さんに一途だったし。」

父さん「もちろんお前達のことも大切にしてたぞ。(一応)」

タケル「いいんだよそんなのは」

タケル「だいたい、なんで猫なんだよ?!そんなのどこにも書いてなかっただろう!」

父さん「それは…」

父さん「父さんの発案だ。」

父さん「母さんのお墨付きのな。」

クリエイトしただけだった!!

タケル「知るか!!!!」

父さん「タケル。タケルが父さんにいっしょうけんめい日本語を覚えさそうとしたろう。いっぱい悩んでいただろう。可愛かったぞ。ぜんぶ、しってるのに。しってるのにって思ってたぞ。」

タケル「……!!」

父さん「その後ちょっとだけ泣いたぞ。」

タケル「…」

タケルは、いろいろ考えて整理した!

タケルは、すこしだけ大人になった!

タケル「仕事は?」

父さん「それも決着済みだ。仕事出来なかったら生きていけないからな。仕事相手の、しかも男なら母さん的にもOKみたいだ。」

ミチヨ「え。女は?」

父さん「…」

父さん「にゃーん」

タケル「不憫な…」

父さん「だろう。」

タケル「てか、どうすんだよ?!これからの人生。」

タケル「女と喋れないってことだろ?」

ミチヨ「おばちゃんとかは?」

父さん「それは、まだこの先生きてく上で明らかになって行くと思う。まだまだ、亡霊との付き合いも浅いからな。」

父さん「ハハハハハ」

ミチヨ「あははは」

タケル「…」

タケル「(俺って、暗いのかな?ぜんぜん面白くない)」

タケル「どうすんだよ?今度、ミチヨの家庭訪問あるだろう。」

父さん「まじか。」

ミチヨ「そ、そうよ。女の先生よ。」

父さん「美人か?」

ミチヨ「うん。25歳」

ドドドドドドドド、ゴゴゴゴゴゴゴ

父さん「イヤ〜マズイなあ!それはちょっと!」

父さん「でへでへ!」

ぱりーん!

父さん「ウグッ割れた…メガネが…」

タケル「てめえのそういうとこだよ!!」

タケル「諸悪の根源はよ!」

父さん「…」

父さん「さすがにすまない。」

ミチヨ「ぷっ」

ミチヨ「父さん、死ぬまでの辛抱ね。」

父さん「…」

父さん「何故だろう、他人から言われると」

父さん「笑えんな。」

タケル「…」

父さん「ささ。一件落着したところで、家族三人、イヤ四人(?!)で鍋でも囲むかあ〜?!」

タケル「あっそういえば、父さんさっきまでどこ行ってたんだ?」

タケル「買い出しか?」

父さん「裏庭に隠れてただけだ。」

タケル「子供かよ」

父さん「夢中になってるところでいきなりドアが開いたから、とにかくびっくりしたんだ。」

ミチヨ「はいはい。買い出しに行来ましょう。三人で!」

パリン!

ミチヨ「あっ四人で!」

ミチヨ「(参加してく予定なんかい!)」

父さん「ハハハハハ!」

タケル「ふっ」

タケル「あり得ないな。」

タケル「まあ、いいか。家族みんな元気なら。」

チャンチャン!by母



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ポエム、詩、短歌などを作ります。 最近歴史に興味があります。