見出し画像

リアルタイムで聴きたかった。ドキュメンタリー映画『甦る三大テノール 永遠の歌声』ドイツ、2020年


最近、音楽映画が好きです。いい音響でめいっぱいの音楽が聞きたい。多分、ライブとかコンサートに行けないストレスがたまっているんだと思います。そんなわけで、本当に有名なパヴァロッティ、ドミンゴ、カレーラスの三大テノールのドキュメンタリーを娘と見に行きました。

世界の三大テノールといわれたルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラス、プラシド・ドミンゴが共演したのは本当に偶然。1990年のローマ開催のサッカーワールドカップのイベントで、ローマのカラカラ大浴場を舞台にカレーラスにコンサートをしてくれと依頼したのがきっかけ。

カレーラスは、オペラ歌手のとしての絶頂期に白血病で闘病生活を強いられて、ようやく復帰したばかり。そんな彼が、自分ひとりじゃ意外性がないから、パヴァロッティやドミンゴと一緒にやろうと言ったので企画が動き出したとか。そして、どちらかというとライバル視して緊張感があったパヴァロッティとドミンゴも、カレーラスの回復祝いの気持ちがあってOKしたとのこと。

たった1回だけのローマ講演。でも、3人が集まって、ズービン・メータというすばらしい指揮者がいて、曲目をすばらしくアレンジしてくれる人たちがいて、本当にいろんな要素がこもったコンサートは大成功で、会場はとても盛り上がり、TV中継では世界の8億人が聴いた。アンコールを考えていなかったので、急遽、イタリアの「オー・ソレ・ミオ」を歌って感動は頂点に。

映画では、3人の最高な男性オペラ歌手たちの歌を映画館のいい音響で堪能できただけじゃなくて、彼らがハイタッチして初めてのコンサートを互いに励まし合ったり、歌い方の順序を確認しあったり、とっても楽しそうに音楽と戯れている感じが、画面からの伝わってきて見ている方も幸せな気分になれました。

サッカーワールドカップと同時並行のコンサートだったので、サッカーの懐かしい映像も見れたのもうれしい。マラドーナ! そして、今はもうない西ドイツ!! 音楽とスポーツのすばらしい融合って感じで、予想しなかったラッキーでした。

ただ、当事者たちの予想を遥かに越えて、あまりにも成功してしまったために、二回目のサッカーワールドカップのロサンゼルス大会以降は「ハートよりお金」になっていったとか。このあたり、さすがドイツの演出って感じで、第一回のローマの遺跡の自然な重みを感じるロケーション&オペラと、第二回ロサンゼルスのいかにもハリウッド的な金はあるけどチープな会場、そしてそこに集うセレブたち(フランク・シナトラ、若いシュワルツェネッガー、ブッシュ大統領などなど)&アメリカのポップな曲って組み合わせがいろんな意味でシュールでした。

あとは、クラッシック界からの批判。やっぱり、伝統とか格式を重んじる人たちはどこの国でもどの業界でもいる。しかも、レコードがたくさん売れて、「オペラを見てみたい」って手紙が山程舞い込んだにも関わらず、実際にオペラを見に行く人は増えずに、衰退していくばかり。オペラの「俗化」の責任のように批判されたとか。

あんなに素晴らしい歌声でも、時代の流れはとめられないし、文化のあり方は変わっていく。多分、私もドキュメンタリー映画だから感動できたけど、もし本物のオペラを見たら、途中かなり退屈しちゃったんじゃないかと思う。

2006年、パヴァロッティが病気で亡くなり、葬儀のシーンが映し出される。その後、映像はもう一度、ローマの最初の三大テノールのコンサートに戻る。すばらしいパヴァロッティの歌声、うれしそうな三人。エンドロールで流れるアンコールのオ・ソレ・ミオ。音楽のような構成で、幸せをいっぱい聴かせてくれる素敵なドキュメンタリー映画でした。

邦題:甦る三大テノール 永遠の歌声(原題:The Three Tenors The Last Concerts) 
制作:ドイツ(2020年)93分
制作指揮:ジャン=アレクサンドル・ンティビハブワ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?