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マッド・ティーパーティー・オブ・ザ・デッド

「フーッ……」

紅茶エッセンスを静脈注射し、オレは溜息をつく。時計を確認する。午後三時。ここが下水道の奥底で、地上をゾンビどもがうろついてなきゃ、優雅な午後のティータイムだ。

英国、ロンドン。ここはもはや生者の都じゃない。晴れない霧で閉ざされた市街地を、数百万のゾンビがうろつく地獄だ。数日前の午後三時、突然それは襲ってきた。テロリストのウイルス攻撃か、悪魔の呪いか。パニックの中、誰もなにもわかっていない。外へ脱出しようとした奴らは、霧にまかれて戻ってきた。出られないのだ。

わかっているのは『紅茶を飲んでるやつはゾンビ化しなかった』ってこと。

その時、オレは偶然紅茶を飲んでいて助かった。大勢のやつらがそれに気づき、紅茶を奪い合った。ゾンビに紅茶を飲ませれば元に戻ると信じたやつは、全員噛みつかれてゾンビになった。どうも、そうではないらしい。そして……毎日午後三時のティータイムごとに、紅茶を一定量摂取しなければ、ゾンビ化してしまう。それがルール。

限りある紅茶を巡って、醜い殺し合いが始まった。銃、刃物、罠……同じ人間の手にかかって、大勢死んだようだ。オレは紅茶エキスをエッセンス化した医者と行動していたが、そいつも殺された。銃と医者の鞄を奪って逃げ、ここに来た。いつまでもつか。時計と紅茶エッセンスがあれば、数日は。水もペットボトルに多少あるが、食糧は尽きた。餓死するよりほかないのか。

「足跡だ! そこに誰かいるぞ!」「ゾンビか、生者か!?」「紅茶持ってるか!?」「ぶっ殺せ!

見つかった。声は四人。なら、なんとかなる。水と……食糧も。オレは銃を握りしめた。

【続く】

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