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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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#セイバー

【聖杯戦争候補作】混じり気の無い、気高い青

 新宿区、東京都庁。 「……以上の件について、報告を終わります。では……」  都庁の一室。大きく重厚な机と立派な椅子に座るのは、眉目秀麗な男性。男性官僚の報告を聞いていたその男は、差し出された書類に判を押した。 「ご苦労。下がってよろしい」 「はい。それでは、失礼致します」  官僚は男の放つ威圧感に冷や汗をかきつつ、お辞儀し、退室した。  男は視線を背後の窓の外に移す。記憶はあるのに記憶にない街だ。立ち並ぶ高層ビル。青い空、白い雲。治安はまだ比較的良く、大勢の善良な市

【聖杯戦争候補作】Two Heads are Better than One

夜。見滝原に聳える高級マンションの一室。シャワーの音、乙女の影。 「♪んふふー・んふふー・ふんふふふー……ふふふー・ふふふー・ふふんふふー……」 鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる乙女。読者の皆様にはシルエットだけでご勘弁頂きたい。やがてシャワーは止まる。……しばらくして、バスローブを纏った乙女がベッドルームへ。黒髪の東洋人。なかなかの美少女だ。年は16、17といったところか。 「ふわーあ……。そうだ、寝る前に、アレをしましょう」 はらりとバスローブをはだけ、肩から背中

【聖杯戦争候補作】Neo-Yakuza for Sale

「なかなか風情があって、ええとこじゃのう」 夜。ネオンきらめく歓楽街の真ん中を、一人の酔漢が歩いていく。 年齢は二十代前半。中折れ帽にティアドロップサングラス、ダボシャツにダボズボン。腹巻きに雪駄履き。口には爪楊枝代わりのマッチ棒。黒髪の短髪にゲジゲジ眉毛。背丈はそれなり、筋骨もしっかりした男だが、その顔たるや兇悪そのもの。口から出るのは広島弁。三百六十度どこから見たって、昔の任侠映画から抜け出てきたような、完全なヤクザである。しかもチンピラや三下ではない。強烈な殺気が全身

【聖杯戦争候補作】Reboot,Raven

手の中にあるのは、血塗れの短刀。 自分の血だ。襲ってきた奴は即座に殺したが、不覚を取った。物盗りではなく、オレの命そのものを狙った、刺客だ。……そりゃあ、狙われもしようなァ。裏はあいつらで、あろうなァ。疑り深いことだ。ま、オレがいない方が、クニは治まるか……。 トリカブト、か……。これはたすからぬか……な。傍らに駆け寄ってきた猟犬たちに命じる。 「鳥はもういい、人を呼びにいけ!」 ふ……そうは行っても……この山の中に人はおらんか……。 小屋まで行けば、毒消しが、ある……

【聖杯戦争候補作】ヴェンジェンス・イズ・マイン!!

父よ、御心なら、この杯をわたしから取りのけてください。 しかし、わたしの願いではなく、御心のままに行ってください。 ――――『ルカによる福音書』22:42 「……本当に、本当に、本当の本当に、いらんのか!?」 「何度も言いましたよ、セイバー。僕は聖杯を必要としません」 雨の止まぬ昼下がり。冬木市にある教会の一室に、カップの置かれたテーブルを挟んで、少年が二人いる。 一方は、小柄で黒髪。女性と見紛う美形だが、顔には複雑な紋様の入れ墨が施されている。黒檀色の装束を纏い、腰の

【聖杯戦争候補作】悪党たちの交響曲

悪はわたしにからみつき、数えきれません。 わたしは自分の罪に捕えられ、何も見えなくなりました。 その数は髪の毛よりも多く、わたしは心挫けています。                           ―――詩篇40:13 ◆ 「……エルフは神を信じない、っちゅうに」 夕刻。スノーフィールド中心部からやや外れた、閑静な住宅街。昔の商館を移築・改装したアンティークショップ。 目つきの悪い痩せた男が、館の西の窓辺でたそがれ、ぼやいている。一人暮らしの、館の主人だ。黄色