邦題：聖母マリア、夜明けの星よ（Santa Maria, strela do dia）

　ローマ皇帝ディオクレティアヌスの即位から20年目、2月末。小アジア、ビテュニアの街ニコメディアにおいて、皇帝と副帝ガレリウスはキリスト教を禁止する勅令を発布し、教会を破壊して財産を没収し、聖書を焼き、信徒や聖職者を逮捕して投獄せよ、逆らう者は処刑せよ、と命じた。

「皇帝は悪魔に唆されたのだ。やつを倒さねばならぬ」深夜。ニコメディアの宮殿近くに、一団の狂信者たちが潜んでいる。手に手に剣や松明を持ち、目はぎらぎらと輝いている。「キリスト・イエスは言われた。『私は世に剣と火を投げ込むために来た』と。福音書にも書かれている」狂気！

「殺せ殺せ！」「報復だ！」「神も赦し給う！」「聖霊がお告げになった！やつを殺せと！」狂気！「やつはニコメディアの教会を焼き、宝石を奪ったではないか。目には目を、歯には歯を、剣には剣を、火には火を！」狂気！「掠奪には掠奪を。ぎひひ、宮殿にはどんな金銀財宝があるかねェー！」

「全て人民に重税をかけて搾取したものだ。人民の手に取り返し、神に捧げて清めねばならぬ」兵士崩れのゲオルギオスが槍を手につぶやいた。彼は狂っていた。「行くぞ。光と闇の最終戦争の時が来た！光の子らよ！この世に光を取り戻せ！」「「「ワオオーーーッ！アーメーン！」」」狂気！

「待ちなさい」光！後頭部に光輪を輝かせ、立派な男性が姿を現した。「私の名はニコラオス。兄弟たちよ、聞きなさい。キリストは『剣に頼る者は、剣に倒れる』と言われ、十字架につけられたではありませんか」「黙れ！サタンよ、引き下がれ！」ゲオルギオスが叫ぶ。「わしの槍を食らいたいか」

「お待ちを。彼は確か、リュキアの街ミラの司教です」「それがどうした。迫害が行われれば、こやつこそ狙い撃ちにされて投獄されるではないか。おめおめと迫害を受け入れろというか！」「はい。聖書にもそう書かれております」「黙れ！」ゲオルギオスは叫んだ。「わしは聖霊を受けた！戦う！」

　ゲオルギオスは馬にうちまたがると、ニコラオスを無視して宮殿へ駆け出した！「吶喊！神も照覧あれーッ！」狂気！「敵襲！射てーッ！」宮殿を守護する親衛騎兵パラティヌスたちが弓兵らに命令！矢の雨が降り注ぐ！「「ジーザス！」」「「クライスト！」」バタバタと殉教！ナムアーメン！

　だがゲオルギオスは槍を盾めいて振り回し無傷！「我が槍アスカロンある限り、殉教には至らぬぞ！」「仕方ありませんね」ニコラオスはため息をつくと、地面に聖水を振りまき、聖句を唱えた。すると……おお見よ、ヤギめいた角を生やし、牙をむき出す恐るべき悪鬼たちが召喚されたではないか！

「北方の国々に住まう悪霊どもよ。聖なる目的のために、悪と戦うべし」『『『AARGHHH！』』』ズシン！ズシン！巨大な悪鬼たちは地響きを立ててローマ兵たちへ向かっていく！その手には鉤爪がずらり！「「アイエエエ！ダイモーン！？」」ローマ兵たちは恐慌！「神を畏れ、従いなさい！」

　さらにニコラオスは、たもとから多数の金貨や銀貨を取り出すと、兵士たちへばら撒いた。「あなたがたへ！」「ワオーッ！」「カネ！」「カネ！」安い給与で働く弓兵たちは地面に這いつくばって貨幣を拾う！「バカ！やつの幻術だ！」隊長は看破！だがゲオルギオスが目の前に！「イヤーッ！」

「アバーッ！？」ナムアーメン！聖槍アスカロンが一閃し、隊長の首を刎ね飛ばした！ゲオルギオスはそのまま高い壁を飛び越え、宮殿へ！「神を讃えよ！」だが、彼の前には黄金の鎧を纏った屈強な騎士たちが立ちはだかる！「ドーモ、ガレリウスです」「ドーモ、コンスタンティヌスです」

「ドーモ、ゲオルギオスです」馬上からアイサツを返す。敵同士であろうとアイサツは絶対の礼儀だ。聖書にも書かれている。「曲者めが。我が君ディオクレティアヌス陛下の寝首を掻きに参ったか。我らが相手してやろう！」ガレリウスとコンスタンティヌスは槍を構える！「「「イヤーッ！」」」

◇

「「グワーッ！」」激しい戦いの末、ガレリウスとコンスタンティヌスは馬から叩き落され、地面を舐めた。「見たか！キリストは勝利する！」勝ち誇るゲオルギオスも無事ではない。実際満身創痍である。彼は信仰の力によって少しずつ傷を癒やすと、単身で宮殿へと飛び込んだ！「イヤーッ！」

「イヤーッ！」ZZZZZT！宮殿の奥から稲妻がほとばしり出た！「グゥワーッ！？」ゲオルギオスは全身を稲妻に撃たれ落馬！ナムアーメン！「アバッ、おのれ、この魔力は……！！」「ドーモ、ゲオルギオス＝サン」おお、闇の中から現れたのは、齢60を数える邪悪なる老皇帝！

「ディオクレティアヌスです」おお、クライスト……！彼の全身は闇の衣に包まれ、両手にはユピテル、すなわちゼウスめいて雷霆の武器が握られていた。その両目は火の中で精錬された青銅のごとく輝き、口からは炎がほとばしり出ている！「朕こそはローマ皇帝、ユピテルの化身なり！畏れよ！」

「ドーモ、ゲオルギオスです……！悪魔め！」ゲオルギオスはよろめきながら立ち上がるが、もはや力が！「神よ！立ち向かう力を！お与え下さい！」彼は必死に祈る！「朕は神なり！イヤーッ！」ZZZT！ZZZT！ディオクレティアヌスの手から雷霆が投げられる！雷速すなわち光速！

「グワ、アバーッ！」ゲオルギオスは躱しきれず二発とも食らう！凄まじい信仰心で殉教は免れたが、うつ伏せに倒れ戦闘不能！ナムアーメンダブツ！「ムッハハハハ！やつを捕らえ、首を刎ねよ！やつの神のもとへ送ってくれよう！」嘲笑うディオクレティアヌス！おお主よ、寝ているのですか！

　……その時だ！

「Wasshoi！（ヘブライ語：神の救いが来た）」

　禍々しくも躍動感溢れるヘブライ語シャウトとともに、連続側転でエントリーしたのは！「ドーモ、ディオクレティアヌス＝サン。ニコラオスです」「ドーモ、ディオクレティアヌスです。貴様もキリスト教徒か！」「アーメン。私はキリストに仕える者です」ニコラオスは恭しくオジギした。

「こやつの命乞いにでも来おったか」ディオクレティアヌスは傲然と、倒れ伏すゲオルギオスを指差す。「ハイ。どうか彼をお許し下さい。そして、全てのキリスト教徒を」「ならぬ。朕に背く者を生かしておっては、帝国の秩序が崩れる。ペルシアにもゴート人どもにもナメられるわ」

「そこを、どうか」ニコラオスは深々とオジギ。「ならぬ。それとも貴様、ユダヤ人どもの迷信を定めたモーセ気取りで、朕に奇跡を見せてくれるとでも言うのか？」「それによって陛下が心を改められ、信仰の道に入り給うなら、これほど喜ばしいことはございませぬ」「フン。ならば見せてみよ」

　ディオクレティアヌスは両手に新たな雷霆をチャージし、ニコラオスを睨み据える。妙な動きをすればいつでも投擲電撃殺！「父と子と聖霊の御名によりて、真実を現し給え……」ニコラオスは聖句を唱えながら複雑なサインを結び、地面から美しい少女の姿を現出させた。「くだらぬ幻術よのう」

　皇帝は鼻を鳴らして笑う。「彼女はアグネス。いま12歳のキリスト教徒。来年には殉教する運命にあります」「ほう」「彼女は告発され、異教の女神ウェスタに供物を捧げるか、売春宿に行くかと迫られますが、敢然と後者を選びます。しかるに天使が彼女を守り、誰も彼女に近づけませぬ」

　光り輝く天使が彼女の傍らに現れ、光で彼女を覆い隠す。「ならば、どうして殉教する」「神は彼女を通じて、その栄光を現さんとなさいました。まずは火刑に処されますが、炎は彼女を避けてしまい、傷一つつけることはありません。続いて剣によって刺し貫かれ、ついに殉教致します」「ふむ」

　ニコラオスは次々と、これから殉教する信徒らのまぼろしを皇帝に見せ、喜ばせた。そこには、ゲオルギオスの姿も！「ムッハハハ！なんたる無力！何が神の栄光だ！信者の一人も守りきれぬではないか！」だが、次第にニコラオスの姿はぼやけ、ゲオルギオスとともに薄れていく。「おさらば」

　……夜が明け、二人は姿を消していた。「一杯食わせおったわ。だが、面白い見世物であった」ディオクレティアヌスは笑い、玉座に戻って腰を降ろした。「やつは見つけても殺すな。投獄せよ。朕の生命を狙おうとはしなかったのだからな」「「ハイ」」ガレリウスとコンスタンティヌスは頷く。

◇

　ミラの司教ニコラオスは、ディオクレティアヌスの迫害の時に投獄され、獄中で囚人たちを励ました。10年後、東帝リキニウスと西帝コンスタンティヌスが「ミラノ勅令」を出して禁教令を停止すると、迫害はやみ、ニコラオスは復職した。彼は兵士の暴動を鎮め、冤罪の者を救い出したという。

　彼はそれから長く生き、73歳で安らかに永眠した。彼の遺体は朽ちることがなく、芳香を漂わせ、これに触れた多くの者が病を癒やされたと伝わる。

【サンタ・マリア・ストレラ・ドゥ・ディア】終わり

◇

Ca veer faze-los errados
道に迷い、罪ありて
Que perder foran per pecados
過てる者を救われたり
Entender de que mui culpados
その罪を知りながらも
Son; mais per ti son perdoados
彼らを赦し給う
Da ousadia que lles fazia
彼らが望まれざる悪事をなせるは
Fazer folia mais que non deveria
その愚かさのゆえなればなり
Santa Maria, strela do dia
聖母マリア、夜明けの星よ
Mostra-nos via pera Deus et nos guia
神への道を我らに示し、導き給え

◇

これはなんですか？

　去年は参加しませんでしたが、一昨年は飛び入りで二発撃ちました。つのの得意分野の歴史ものに、ニンジャをぶち込んだらこうなりました。ミラのニコラオスは論争相手のアレイオス（アリウス）を殴ったとの伝説もありますが、登場人物は実在の人物や宗教とは一切関係ありません。つのは宣教師ではなくメガテニストですのでごあんしんください。問題があれば爆破します。暇ならまたやるかもです。撃ちたい人は撃ってみましょう。

参考な：

【以上です】