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【FGO EpLW 殷周革命】結 和光同塵互助幇

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「わたしは『マシュ・キリエライト』であり、『マシュ・キリエライト』では、ない」

「……は?」

いきなりわけのわからんことをシールダーに切り出され、アホみてぇな声を出す。頭でも打ったのか。

「今のわたしは、デミ・サーヴァントではなく、サーヴァントです。人間の肉体を持たない存在です。英霊の座にいるのかは、わかりませんが……世界の記憶から喚び出された、幻影に過ぎません」
「…………はァ? 待て、俺に解るように話してくれ。おいエピメテウス、ダ・ヴィンチちゃん、なんか言え」
『今は、聞くだけ聞いたがええ』『うん、聞いてあげてくれ』

わぁったよ、聞きゃいいんだろ。肩を竦めて掌を上に向け、続きを無言で促す。

「かつて、わたしは一度、死にました。死んで、とあるサーヴァントが憑依し、蘇りました。その状態をデミ・サーヴァントといいます。その後いろいろあり……戦いの末、消滅しました。けれど、いろいろあって蘇りました。その時サーヴァントの力を失い、ただの人間になったはずでした。モニター、観測者として、先輩をサポート出来るだけの」

いろいろありすぎだろ。ああつまり、ただの人間になったはずなのに、サーヴァントとしてここにいること自体がおかしかったと。まぁ最初っから沸き立つヨーグルトだったり、どっかおかしかったが……。

「人間としてのわたしは、どこか……別の場所にいるはずです。たぶんウォッチャーに連れ去られたままなのでしょう。今ここにいるわたしは、サーヴァントとしてのわたしです。シールダー、マシュ・キリエライトとしての」

言い終わり、しばらく沈黙が続く。なるほどなるほど、要するにウォッチャーのせいだ。俺のせいじゃあねぇ。ならいいさ。
「そーかそーか。で、俺はそれに対して、どうリアクションすりゃあいい」
「別にどうも。聞いて欲しかっただけです。これまで通り、貴方を守護しますよ。先輩と『わたし』を取り戻すまで。人間のわたしと融合すればデミ・サーヴァントに戻るでしょうし、そうでなければ消えるだけです」
「そりゃ良かった。……自分の中で、折り合いはついてンだな。そこのサーヴァント連中とも」

シールダーは、黙って微笑み、頷く。そして、右手を差し出した。
「はい。改めて、よろしくお願いします、◆◆◆さん」
「こちらこそ、マシュ・キリエライトさん」
軽く握手。やれやれ、手のかかるお嬢ちゃんだ。俺も頑張らなきゃな……。

◇◇◇◇◇

孟津に戻ると、王様たちが出迎えてくれた。これで俺たちゃ、人類史を救った英雄だ。

「◆◆◆殿、英霊がた! よくぞご無事で……!」
「よう、おはよう王様。朝飯あるかい」
「そちらもご無事で重畳。……こちらは一騎、失い申した」

セイバーが悔しげに告げる。王様たちは驚き、話を聞いてまた驚く。
――――ああ、腹減った。朝飯を食うだけの時間を、ウォッチャーが与えてくれるといいんだが。

◇◇◇◇◇◎

「ふーん。あっちに残ってたサーヴァントは、インド人が殺ったのか。意外とすげぇな」
「タイミングを見計らっていました。あれでハッタリかまして、鼎を奪えたまでは良かったんですがね……」
「いやいや、チャーナキヤ殿がおらねばどうなっておったか。余はさしたる活躍も……」
「……アタシだって、結局ランサーを助け出せなかったなァ」
「いつまでも辛気臭ぇ話はやめろ。飯が不味くなる」

朝飯を食いつつ、反省会。いや、祝勝会だ。ユカタンじゃろくなもん食えなかったから、この機会にしっかり飲み食いしとこう。遊牧民だからか肉料理が多いのはいいが、味付けは塩と多少の香草ぐれぇか。ま、胡椒なんかねぇよな。一通り食ったあたりで王様が進み出て、改めて深々と感謝してくる。礼儀正しいこった。

「……密偵によれば、大邑商では混乱が続いておる様子。我らは急いで河を押し渡り、商を攻めねばなりませぬ」
アサシンと俺は骨をしゃぶりながら、セイバーは匙を置いて折り目正しく答える。シールダーとインド人は奥ゆかしく黙っている。
「そーね、頑張ってね。アタシらは人間相手に戦ったりしないよ」
「商の英霊は全滅した。我らが手を貸せるのは、ここまで。もうじき次の特異点へ向かわねば……」
「せっかくだし、もう少しのんびりしてぇんだがな。ウォッチャーからなんか連絡があるまでは、リラックスしてようぜ」

ぴく、とシールダーが何か勘づき、振り向く。天幕の片隅に、怪しげな痩せた髭面のオッサンがうずくまっている。王様が驚愕した。
「貴様は……!」
オッサンがぎひっと嗤い、立ち上がり、右手を挙げて挨拶する。酒と煙草で焼けた嗄れ声で。
「やあやあ皆様、ご苦労さん。オレ様のご登場だよ。こいつはオレのアバター『申公豹』さ」

英霊たちがざわつく。俺もつい眉根を寄せる。食い終わるまで待ってくれたのはいいが、もう数日待ってくれてもいいじゃねぇか。
「来やがったな、ウォッチャー
「どーもどーも。いかがでしたかい、お歴々。ちったぁ楽しんで頂けたかしら?」

ウォッチャーのアバターだかは、話しながら腰から剣を抜く。それですぱっと自分の首を切断すると、その首でお手玉を始めた。血は一滴も出ねぇ。
「ウフフ、ウフフハ。めでたいめでたい。天国天国、天国聖杯」
『悪趣味な遊びはやめたまえ、ウォッチャー』
ダ・ヴィンチがモニタ越しに冷静なツッコミを入れる。だいぶ慣れてきたようだ。シールダーも冷たく話しかける。
「今回は手助けもしてくれましたね、ウォッチャーさん」
「なんのことやら。お前さんも自己が確立できて何より。おじさんはね、若者に何かを伝えるのが好きなのさ」
「何の話だ。俺にもなんか伝えようってのか、てめぇ」

言われて、ウォッチャー野郎は首をひっつけた。
「そうそう、メッセージを伝えに来たんだよ。次の特異点への行き方についてだ。次で最後だと思うぜ、多分」

最後。このアホみてぇなタイムトラベル・アドベンチャーも、ようやく終わりが見えてきたのか。俺は安堵し、息を漏らす。
「そりゃ良かった、グッドニュースだ」
「演劇は古代ギリシアの時代から、三部作(トリロジー)が基本だっつうしな。サテュロス劇を加えてやってもいいぜ」
「いらねぇ。そんで、どうやって行くんだ。またクレーターかどっか行けってのか」

ウォッチャーが九鼎を指差す。
「そりゃァ、そこに聖杯が九つもあるだろ。一つ一つは大したもんでもねえが、九つ揃えばチャイナ大陸を支配できるほどの代物だ。そいつを然るべく配置すりゃいい。あとはオレ様がキャスターに伝えておくぜ」
「キャスターって、どっちのさ」
「インド人の方。そいつは次には連れていけないぜ。オレは髑髏の方に縁があるがね」
「縁、ですか」
シールダーが、否、皆が訝しむ。一体全体、こいつは何なんだ。

その雰囲気を読み取ってか、ウォッチャーが陽気に嗤い、こう言い出した。
「そうそう、今更だが、ここらでオレ様の真名を名乗ってもよろしかろう。知ってる奴はとっくに知ってるだろうが、念のためにね」
ウォッチャーが、そいつのアバターが、変化していく。丸縁のサングラスをかけ、顔に白い髑髏のペイントをした、痩せこけた髭面の黒人だ。燕尾服にシルクハット、手にはステッキ。ビキニパンツを穿いて毛脛を剥き出し、下は裸足。そいつはニタニタ嗤いながら、恭しく挨拶した。

「オレはヴードゥー教のロアのひとり、『バロン・サムディ』様だ。今後ともよろしく……」

真名判明

星座聖杯のウォッチャー 真名 バロン・サムディ

モニタの向こうで、ダ・ヴィンチが顎に手をやる。
『ふむ、なるほど。死者の魂が必ず通る、「永遠の交差点」に立つロアか。陽気で下品で猥雑な、生と死の神、精霊。それで、暇つぶしか』
「いや、誰だよ」
『ひらたく言えば、死神だ。生殖の方も司ってるが』
エピメテウスが、ウォッチャー野郎の声で喋る。どっちが喋ってやがんだ。
「オレさ。そいつはトリックスターとしてオレ様と似たとこがあるからな。そいつの兄貴の方が近い気もするが、贅沢は言わねえ」
「おい、勝手に考えを読むんじゃねぇ。そんじゃ、こいつや他のサーヴァントたちを呼び集めたのも、お前か……」
「つまりそういうことよ。前の特異点でもそうだったし、ここでも、次でもそうさ。お前さんたちゃ、オレの掌の中……おっと」

セイバーがこめかみに青筋を浮かばせ、無言で剣をウォッチャーの顔に突きつける。ウォッチャーがハンズアップする。いいぞ、殺っちまえ。いや、アバターのこいつを殺しても何の解決にもならねぇが。

「おいおい、やめなさい。オレを斬ってもなんにも出ねぇぜ。これには深いワケがあってのことなんだ。ダ・ヴィンチちゃんにも告げたが、『創造主』がお前らを試してるってのもホントさ。オレを信用してくれ。オレはただのメッセンジャー。お許しが出たからこうやって、お前らを駒に遊んでるだけなのさ」

創造主ねぇ。まあ、そういうのもいるんだろうな。セイバーがウォッチャーの頭を縦横に切断するが、やはり一滴の血も出ねぇ。ペタッと切断面がひっつき、首がぐるぐる回転する。セイバーが呆れて剣をおさめ、シールダーが進み出る。怒りのオーラを漂わせて。

「つまり敵は、創造主ですか。上等です」
「敵じゃねえってば。あー……ま、このへんの話は忘れちまっていい。真の目的は次の特異点で分かるだろ。たぶん」
「誰だろうと先輩を拉致するような相手は敵です。『わたし』はともかく」
「まぁまぁ、次行こうぜ。次で最後だっつぅんだから、そこにセンパイだかもいるだろ……」
「そうそう。そ、それじゃオレ様、このへんで……アスタ・ラ・ビスタ!」

シールダーの剣幕に、ウォッチャーは焦って姿を消した。ざまぁみろ。

◇◇◇◇

いろいろあったが、とにかくエンシェント・チャイナとはここでお別れだ。インド人が九鼎と接続し、ゲートを開いてくれた。

ランサーは消えた。アーチャーとライダー、あと一匹もくたばった。ついてきてくれるのはエピメテウス、シールダー、アサシン、それにセイバー。結局、来た時と人数は変わってねぇ。またはぐれねぇように、シールダーを介して正式に契約は結んどいた。ランサーの代わりはセイバーやシールダーがやってくれる。次の特異点にも、仲間になる奴はいるだろう。

「それじゃ世話になったな。縁があったらまた会おうぜ。インド人さんよ」
「こちらこそ。ウォッチャーのことも気になりますが、私はここまでということで」

セイバーは王様たちに改まって挨拶している。この中じゃ一番縁が深いらしいしな。
「周王陛下。人の世を存続せしむるため、新たな主のもとで戦うことを許し給え」
「勿論です。貴方がたはこの時代、この天下を巡る争いより、もっと大きな戦いをしておられる。行っておいでませ、越王勾践殿」

へへ、なんか涙ぐんでやがる。俺ァジーザスに出会ったって、涙ぐんだりしねぇが。
「どしたのマスター、涙ぐんでるじゃない」
「うおっ!? ……るせぇ、安心したのと、砂が目に入っただけだ、チクショウ」
アサシンめ、気配消して近づきやがって。みっともねぇとこ見るんじゃねぇや。

挨拶を終え、セイバーが戻って来た。爽やかに笑ってやがる。
「随分丁重なご挨拶だったじゃねぇか。お前も王様だろ、どこだかの」
「彼こそは、天下の宗主である周王の祖だ。余とて当然敬意を払わねばならぬ。それに……」
深呼吸を一つ。
「後代に集めた崇敬からすれば、余よりも遥かに偉大な御方。彼がまことの王。余は覇者に過ぎぬ」


亜種特異点 B.C.1023 異聞封神釋厄傳 殷周革命


定礎復元


To be continuied…

◇□◇

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