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口の中のこと

「矯正するとき引っかかって邪魔になると思うから、頬の肉切ろうか。」

小学5年生。
人より頬の中の肉が多かったらしいわたしは、頬の肉を中から切り取らなければいけなかった。


たった4日くらいの入院。

「前に比べたら全然マシやなァ。」

と母に言われて、そうやなって思ってしまえるくらいのこと。



「麻酔の匂い、好きなの選んでいいよ。いちごとぶどうとさくらんぼあるけどどうする?」

「前いちごにしたんやから今度は別のにしたら?」

アレ、前いちごなんかにしたっけ、全然匂いわからんかったな。


麻酔の前の精神安定剤の作用でテンション爆上がりしてる同室の女の子のこと笑ってたのに、自分も飲んだらアレとおんなじになる。

それがいやで飲んでから色々考えてたら頭冴えすぎてきて、
あ、これは無理かもしれん、麻酔効かんかも知れん、

なんて思ってるうちにベッドは手術室。
服は剥がれる。ちょっと寒い。なんか色々ペタペタ貼られながら、
あ、前も足の親指のとこクリップみたいなので挟まれたな、とか。冷たい。眩しい。


「麻酔のマスクつけるよ、ゆっくり呼吸してね、」

吸う、吐く、吸う、、、、、、くらいでもう頰肉とはサヨナラ。

口内の粘膜はすぐに治る。縫ったあとの糸もすぐ溶ける。ご飯もすぐ食べられた。
肉切られたけど、減ったかな?くらいの体感しかなかった。

でも今回はちゃんと覚えてた、
選んださくらんぼの匂いは、強く鼻に刺さって痛かった感じがしたし、

退院後に友達にもらったチェリーのチュッパチャップスの味と似てて、なんか車酔いみたいな感覚になって吐いた。


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「ワイヤー変えた後は歯が動くから痛いと思うけど頑張ってね。」

中学2年生。矯正が始まった。歯が痛いって本当にイライラした。


朝起きたらワイヤーで口の中が切れまくっている。
鏡で見たえぐれた粘膜にドン引き。

頬の肉、切ってなかったらどうなってたやら。


部活中、えぐれた粘膜の皮膚が口の中でちぎれそうになっているのが気になりすぎて噛みちぎった。

やばい、血が止まらん。
噛みちぎった肉は大事に手の平に出して水道で洗う。
止まらない血は飲み下して飲み下して、あぁ、なんかコレ、セルフ輸血。

初めて見たなぁ、わたしから切り離された肉。粘膜は薄いピンクで光にちょっと透ける。可愛い。
そういえばあの時切り離した頰肉ってどうなったんやろう。
どうせなら食べたかったな。自給自足。

そうこう考えてるうちに飲んだ血で胸焼け。気持ち悪くなってやっぱり吐いた。
セルフ輸血、失敗。


今私が私の肉片を手に持ってるなんてこと、誰にも共有はできないけど、私よりもこの肉片の方がはるかに実態って感じがする。

肉片眺めながら自分よりも自分な細胞組織が可愛すぎて泣くかと思った。

そういえば人肉食べるのって犯罪だったような。
でも自分の肉だったら良いんじゃないか。

悩んだ結果、とても小さい肉片だったけど、食べるのは半分だけにした。


残った半分は窓から弾き飛ばして外に捨てた。

なんでそうしたのかは、よくわからなかったけど、
私が苦心して通い切ったあの腐った母校には、私の肉片の一部が(土に還ったとしても、食べた虫がそこで繁殖したとしても)沁み混んでいるのだな。

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