【感想】朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」(2019)
平成の葉隠「武士道は死ぬ事と見付けたり」
#読書の秋2022 に参加しよう!と、タイトル一覧でこの「死にがい」を見つけ、ちょうど生きがいの本を読んだばかり(【感想】泉谷閑示「仕事なんか生きがいにするな」(2017)|オカピ|note)だったので、これに決めました。
で、本を手にして焦る…
ぶ、ぶ厚い…小学生の辞書くらいあるやん…473ページ、読書苦手人間だったので、不安…でも帯に、梶さんが「脱がされました」と寄せていたので、か、梶さん受け本…!(変態)と、頑張って読むことにしました( ・∀・)=b 以下ネタバレ祭です。
各章の概要
感情が死にかけてる看護師「白井友里子」と「南水智也」と「堀北」の話
転校した小学生「前田一洋」とクラスメイト「智也」や「雄介」の話
「前田一洋」のクラスで棒倒しやサッカーして喧嘩する話
「堀北雄介」「南水智也」の高校時代を「坂本亜矢奈」の物語で
「堀北雄介」の父の話、亜矢奈「南水智也」に振られる?
大学生活動家「安藤与志樹」と「堀北雄介」少しの「南水智也」
「安藤与志樹」の高校の思い出と6の続き
6にちらっと出たTV制作「弓削晃久」と「前田一洋」
「弓削晃久」達が「南水智也」と謎のシェアハウスに取材
「南水智也」視点で1~9の話
読み進めると「堀北雄介」「南水智也」の各時代を各話の主人公視点で描かれていた、ということが分かります。この本は企画物で、彼らはずっと対立してる源氏と平氏みたいな設定です。彼らの祖先の話とかが別の作家さんに書かれているそう。全部読むと、なるほどー!となるのでしょう…!
いいとこで終わる
短編小説あるあるだと思うのですが、いいとこで終わるアレ、でした。
ちびまる子ちゃんで言えば、今度運動会があって、家族やクラスメイトと準備して、運動会当日を迎え、いい結果わるい結果がありつつ、最後におじいちゃんが写真のネガ入れ忘れててドヨーン、みたいな1話があります。これが短編小説だと、運動会の途中で終わったりしません? 下手すると運動会始まる前とか。その後どうなったかは、あなたの想像にお任せします、な終わり方。漫画とアニメで育った自分としては、もや~っとするんですよね(;^ω^)。このもや~が醍醐味なのやもしれませんが、どうも初級レベルの自分には、その味が分からないのです。いつか分かるようになるかしら…
平成の閉塞感が色々つまってる
組体操や棒倒しが中止されるとか、テストの順位の貼り出しがなくなったとか、心の中にある闘争心のような炎を、時代の圧力で消されてしまっている、という閉塞感が多々描かれています。
自分は昭和生まれで、子供は令和に学校に入ったんですが、いやーびっくりしました、めちゃくちゃ変わってて、平和です。勿論学校学級によると思いますが、平成の間に、学校もどんどん変わっていったことを実感しました、それが良いか悪いかは人次第として。
この小説では、それは比較的悪いことのように描かれている気がします。
戦を失った武士がどう生きるか
戦う事を否定された平成世代がどう生きがいを見出すか? それはさながら江戸時代の武士道のようでした。体を張って戦う事が優とされた時代から、変われない武士たち。もしくは戦後の三島由紀夫。自衛隊に入ったり、NPOで病的に活動する様子は、先日読んだ本の一説を思い出しました。
生きがいとか生きる目的を、欲望にしてしまうと、破壊的になる、というのが描かれてるなぁと。
青春特有のサイコパスがちょろり
サイコパスと言うほどでもないですが、今ならネットで叩かれそうなキャラが各話出てきます。「南水智也」はそれらと違い、多様性を主張する、最近推される思想で、それが描くためか、うわー嫌な奴ーがチョロチョロでてきます。でも殆どチョロ、なんです。最近呼んだ綿矢リサさんの「嫌いなら呼ぶなよ」では、サイコパス擬きな人たちの心情が描かれていて面白かった。個人的に、出すならちゃんと描いてほしい、です。たぶん、自分もサイコパスな一面があるからだと思います(*゚▽゚)ゞ
1つの答え「生きがい――それってなきゃいけないの?」
この小説で描かれる「生きがい」とは、社会で認められるための生きる意味、だと思います。そんなんなくていいやん、好きな人のために頑張る、生レバーを食べたいから震える、それだけでいいやん、と。
生きる意味、とか考えると、やなせたかし大先生の「何のために生まれて、何のために生きるのか、分からないままなんて、そんなのは嫌だ」を思い出します。うっかり、アンパンマンのように身を削る正義こそ生きる意味、と考えちゃうんですが、サビでちゃんと「そうさ、嬉しいんだ、生きる喜び」とあるんですよね。
朝ドラ「おかえりモネ」で、震災で何もできなかった主人公が海から山へ、そして東京で災害を扱う会社に就職するんですが、最終的に地元に戻って、ボランティア学生に話す「私に何ができるのって。それはもういいんだと思います。また会えて嬉しい。それだけでいいんだなって」
これ、作品の序盤で夏木マリさんがモネに同じような事を。
悟り的なやつですね。それについて作中でも。
あと、目的と手段が逆というフレーズも効いてますね。生きがい探しのために生きるって逆やーん、楽しくないやーん。
血液型占いとかラベリングの時代
今も朝のTVで星座占いとかやってますが、平成はああいうのを盲信する時代でしたね。血液型だけで採用決める会社とか。風水も流行った!玄関に黄色を置いたもん!あれも、本当は自分の好きなものを置けばいいのに、「運が良くなるらしいから」という言い訳というか、センス悪いと思われないための防御思考がのっかってたのかもしれません。「南水智也」はそういうラベリングと戦ってる人でした。本人はしんどいのに、「堀北雄介」から見れば、生きる意味を探す必要がない人生で羨ましかった。最後はちょっと上向き?で終わるって良かった。頑張って読んで闇落ちはツラいので…(´;ω;`)ウッ…
ただやはり最後は企画の回収、という流れで、生きがいとか死にがいというテーマが薄くなってしまったのが残念。
でも生きる意味というのは、自分で生み出すファンタジーだとも自分は思うので、明確で美しい生きがいを描かない事こそ、生きる意味を投げかける良作とも思います。美しいハッピーエンドという癒しでは、堀北のように、延々と生きがいを外に探し続ける無限ループに陥ってしまう、というか。
個人的にはチープな恋愛物が好きなので、これ男女かBL設定だったら…愛し合ってはいけない二人…萌える…とか思う貴腐人でした、ぜひ声優には梶さんを…( 。゚Д゚。)
超余談
この本は図書館で借りたんですが、読み進めると、小さな毛のようなものが挟まっていて、ウゲッとティッシュでとって、手を洗いました。でもまた出てきたときに、これはどこの毛や?と思い始め。長さは5mm程度で、睫毛か?と思いました。でもまた挟まってるのを観察すると、たぶん髭だろうと思いました。先がすぱっと切れてて、ほぼ同じ長さで、30本くらいは拾いました。長さが違ってたら鼻毛やも。とにかく途中から、次はどのページに毛が挟まってくるか気になって、そしたら最後まで読み終えてました、ありがとう髭(?)。私の人生もこんなもんかもしれません(笑)
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