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コンドームの "ねぇさん"

今日も仕事が終わった。
次の日が休日とおもうと、
作るのも買うのも億劫になったので
馴染みの居酒屋へ足を運んだ。

カウンターだけの狭い店内の
向かって右側がわたし定位置だ。

いつもの位置に腰掛けると
キンキンに冷えたビールと
塩辛がでてきた。

「うまい。」

一日が終わったという気にさせてくれる。
ビールをちびちび飲みながら
深夜番組をみていたら
一番奥の向かって左側から
声が聞こえてきた。

相当、酔っているようで
日が暮れてから飲んでいるそうで
手元には日本酒らしきおちょこが
置いてあった。

マスターはわたしのオーダーを
テキパキこなしながら
"ねぇさん" の相手をしていた。

"ねぇさん" は髪は明るい茶髪に
濃いめの化粧をしていた。
その濃いめの化粧に負けないほどに
目鼻立ちがくっきりとしたキレイな女性だった。

わたしも週には何度も訪れている
お店だったが時間は違えど彼女も
毎日来ている常連1人だった。

実は二人の子どもがおり
若くしてできた子どものようで
すでに手を離れているということだった。

人が良い性格のようで
遊び人だった旦那とは早くに
別れたようで女手ひとつで育て
あげた苦労人でもある。

あまりお互い詮索することは
ないのだが何度も顔を会わせているうちに
徐々に情報がアップデートされていった。

再びお店を訪れると満席のことも
よくあった。
なんとなく定位置が空いていないと
入る気にはなれなかった。

定位置以外に座ると普段あまり話しかけてこない
マスターが変に気を使って頻繁に声をかけてくる。
なんともいえぬ表情をするので
わたしも気を使ってしまったのだ。

ある日、暖簾の下から店内を覗くと
今日もほぼ満席のようだった。
定位置は空いていない。
しかしながら猛烈な空腹だったこともあり、
かろうじて空いていた
左側から二番目の席に腰掛けた。

「お、いらっしゃい!おかえり❗」

わたしに気づくとマスターとすでに左端に
腰掛けた常連さんも挨拶をしてくれた。
今日も日暮れから占領し続けているようで
かろうじての「おかえり・おつかれさ~ん」だった。

とりとめもない会話をしながら
混んだ店内で食事をとっていると

「家になコンドームがな3年分あるねん!
たぶん3年分やわあんたちょっといらん?」

「…はい?」

咄嗟なことだったがなんでそんなに
あるか聞いてみたところ
コンドームの訪問販売で購入したらしい。

「はい?」

全く売れないその訪問販売員の嘆きに
同情して定期購入し、わざわざ
大量のコンドームにローンを組んで
購入したのだ。

困っているヒトを見捨てることができない
性分のようで家に他の段ボールも
積まれているそうだ。
販売員が訪問するたびにお世話になっている
様だった。

「騙されましたねw」

「騙されてへんよ。
買おうと思って買ってんから。」

「騙されたと思ったら損やけど気持ちよく
買うてたらわたしも売りに来た
兄ちゃんもみんなハッピーやろ。」

何ごとにも通ずるそうで
物事の捉え方で気分や向き合い方が
違う、変わるということだった。
貧しくともお金がなくても
何があっても明るく子育てコツなのだ。

思わぬところで良い話を聞けたように
おもったが、
それでもコンドームに関しては
騙されているのではないだろうか。

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