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周産期医療現場にたゆたう

自分のカウンセリングルーム以外で、私のホームだと思っている場所がある。NICU(新生児集中治療室)が、それ。病院にはNICU専属の臨床心理士として週2日勤務している。前職と合わせて、周産期医療分野で働いて7年と3か月になった。基本とても飽きっぽいのでいろんなことが長続きしないのだけど、まあ、我ながら頑張って働いていると思う。

医師免許も看護師免許も持っていない心理士(心理師)が、病棟の中をふわふわーーいや、もしかしたら「ドスドス歩く」だと思っている人がいるかもしれないが、ーーと歩いて、他愛もないことを赤ちゃんに話しかけたり、時々さっさっと歩いたり、赤ちゃんのベッドサイドで涙をポロポロと零される家族にそっとティッシュボックスを届けてお話を聞く、それぐらいしかできない。医療行為はできないから。目に見えることは、何にもできないけど、心理士は自分の心の動きを使って、お母さんやご家族のお話を聴いて、気持ちの理解や整理をしていくことを手伝う。

子どもがNICUに入院している母は自分を責めて、孤独になっていく傾向がある。今は孤独かもしれないけど、子どもが退院するまでには、家族同士の繋がりや社会資源との繋がりを持てるように、心のケアをしていくのが私の仕事の一つ。

そういえば、最近、テレビで周産期医療に関する報道をちょくちょく見ることが増えたような気がする。世界最小の赤ちゃん退院や、重度心身障害児とその家族のグループがディズニーランドに旅行に行ったこととか。そして、今日は10月4日、天使の日。子どもを早くに喪った親が、子を偲ぶ日なんだそうな。初めて知った。

NICUで出会ったいろんな家族に思いをはせながら、田村・玉井編著『新生児医療現場の生命倫理 「話し合いのガイドライン」をめぐって』(メディカ出版 2005年)を久しぶりにめくった。

「子どもの最善の利益」ってなんだろうといつも思う。治療を受けさせること、あるいは受けさせないこと。良いとか悪い、とかじゃない。医療者が思うところと家族が思うところ、それぞれ違うことはよくある。家族の中でも一致しないこともある。でも、いつかは決断しなければならない時がくるのだ。それも、突然に。どんな決断をしても後悔はするかもしれないけど、それも含めて、腹を据えて、考えて欲しい。

私はどんなときも、赤ちゃんとその家族が、その家族らしく生活できるように、心は揺らしても、腹を据えて支援し続けていきたい。



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