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盛られることを知っているうつわ

11月に刊行される岩井窯・山本教行さんの本『暮らしを手づくりする 鳥取・岩井窯のうつわと日々』スタンド・ブックス)にまつわる第4回です。

「岩井窯の山本教行さんが作るうつわは、料理が盛られることを知っている。」

中目黒のSMLの本『もっとうつわを楽しむ』にライターで参加し、岩井窯について書いたときの冒頭です。どう書こうかと考えたとき、ぱっと浮かんだフレーズでした。

家にある、岩井窯の白い鉢。小ぶりで、きんぴらや青菜のごま和えとか、なんてことない副菜を少量盛るのにちょうどいい。しかもすぼまった形が汁気のあるもの、ないもの、適当によそってもすんとおさまってくれる。買って使ってみたら、自分がつくる代わり映えのしないおかずが2割り増しに見えるうつわでした。

なんでも使ってみないことにはわからない、と山本さんはよく言います。このおさまりのよさは、いろんなものを使ってきたからこその形なんだな、というのがやはり実際に使ってみるとよくわかるのです。

思い返せば、2014年のこのSML本の取材で、山本さん流の「ものとの付き合い方」をじっくり伺い、2ページではとても書ききれないよ……と削りに削って凝縮して書いたことが、今回山本さんの本をつくる出発点だった気がします。

昨今の世の中は断捨離ばやり。一方の自分は、増え続けるうつわを収納するために食器棚のなかにあるものを頻繁にあっちやり、こっちやり。そんな自分にちょっとあきれるときもあったのですが、膨大なものに囲まれて楽しくてしかたないという生き方をしている山本さんの話を聞き、問題なのはものの多寡よりも自分がものといかに付き合うか、なのだと思うようになりました。

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ここまで書いていて浮かんできたのは、國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』です。同書では、「浪費」と「消費」の違いをボードリヤールの定義を引きながら書いています。

浪費とは「必要を超えて物を受け取ること」。ものを受け取り、吸収するには限度があり、どこかで満ち足りる。だから豊かさと結びつく。

他方、消費とは「物に付与された観念や記号を受け取ること」。たとえばメディアで有名になったレストランを巡ることは、そこで出される料理を味わっているのではなく、まわりから与えられたイメージを食べているということ。だから満足することなく、際限なく追いかけてしまう。

つまり、ものをたくさん買うのでも、豊かさが積み重なっていく買い方もあれば、自分の神経をどんどんすり減らす買い方もあるということ。そう考えると、山本さんは「浪費」の達人で、だからあんなにものの話をうれしそうにするんだなと合点がいきます。

倉敷民藝館や熊本国際民藝館を創設した外村吉之介は『少年民藝館』のなかで、民藝館にあるようなものを「もの言わぬよい友だち」と表現しました。

よい友だちを得て、満ち足りた思いで暮らすにはどうすればいいか。山本さんという人を通して、私自身もそのヒントを探すつもりで本をつくりました。

代官山蔦屋書店でのイベント、明日になりました。ものも人もふれてこそ。当日券もありますのでご興味をもってくださった方、お待ちしております。
(写真は、先日の個展のオープニングパーティーにて)


■イベントのお知らせ
『暮らしを手づくりする――鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)刊行記念 山本教行×澁川祐子 トークイベント「自分らしい暮らしってなんだろう」

2019年11月18日(月) 19:30~21:00
於・蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/10387-1908071016.html

*終演後に蔦屋書店から徒歩5分、山本さんの個展が開かれている「SML」にて懇親会があります。房江さんもこの日にかぎり駆けつけ、本にレシピを載せた料理を含め、ちょっとしたお料理を出してくれる予定です。この機会にぜひ。



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