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刺さったのは鮎の小骨だけじゃなかった

11月に刊行される岩井窯・山本教行さんの本『暮らしを手づくりする 鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)にまつわる第2回です。

10数年前、私がどうして岩井窯に行こうと思い立ったのか。はっきりとした理由は、いまとなっては思い出せません。ただ「クラフト館 岩井窯」では、若手のつくり手を集めた催しが時々開かれており、その名前をちょこちょこ耳にしていたのはたしかです。

取材で西方面に行く機会に、ついでに足を伸ばしてみよう。HPを見ると、「事前に営業についてお問合せを」とありました。そこで電話をかけてみると、

「その日はお昼に鮎の会がありますけど、参加されますか?」

こりゃラッキーと間髪入れず「参加します!」と答えました。そして私は大きなリュックを背負って岩井窯へ向かったのです。

山陰線の岩美駅からタクシーに乗って約10分。着いた先は、赤い石州瓦の建物が中庭を囲んで連なり、和とも洋ともつかない、不思議な空間でした。空が開いている、と思ったのを覚えています。

「食事処花」の座敷に入ると、すでにお客さんは集まっていて、お膳も並んでいました。少し遅れて着いた私は、急いで空いている席に着きました。

参加者は、年配のご夫婦や近隣のお仲間らしき人々。リュックにジーンズのバックパッカー風な私は、明らかに場違い。後日談ですが、大きなリュックを背負って鮎の会にひとりで参加した女子、を房江さんは覚えていてくれました(記憶に残るほど浮いていた……?)。でもお料理を食べていたらまわりなんて、どうでもよくなってきました。

香ばしく、ふっくらした鮎の塩焼き。
青い藻の香りがする、初めて食べる鮎の姿寿司。

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当時の私は30代そこそこ。週に2〜3回、契約として通っていた日本民藝協会発行の『民藝』の編集の仕事を辞め、ライター仕事一本に絞ったばかり。築40年近い古(フル)装備の木造アパートに暮らしつつ、定期収入ゼロの荒波に目をつぶってダイブした頃のことです。

そんな私にとって、うつわにきれいに盛りつけられた粋な鮎づくしの料理がどんなに輝いて見えたことか。

そのとき私に刺さったのは、鮎の小骨だけではなかった。

開放感のある居心地のいい空間と、気のきいた料理とうつわ。そして度肝を抜かれた参考館の蒐集品については、次回また。
(写真は3年前、ふたたび鮎をごちそうになったときに撮ったもの)


■イベントのお知らせ
『暮らしを手づくりする――鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)刊行記念 山本教行×澁川祐子 トークイベント「自分らしい暮らしってなんだろう」

2019年11月18日(月) 19:30~21:00
於・蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/10387-1908071016.html

*終演後に蔦屋書店から徒歩5分、山本さんの個展が開かれている「SML」にて懇親会があります。房江さんもこの日にかぎり駆けつけ、本にレシピを載せた料理を含め、ちょっとしたお料理を出してくれる予定です。この機会にぜひ。

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