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昔ながらの民藝の人

11月に刊行される岩井窯・山本教行さんの本『暮らしを手づくりする 鳥取・岩井窯のうつわと日々』スタンド・ブックス)にまつわる第3回です。刊行にあたり、エッセイストの平松洋子さんは次のような帯文を寄せてくれました。

「山本教行さんはその人生をもって「民藝」の道のりを生きてきた最後のひとです。――平松洋子」

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ちなみに平松さんとは、取材でいらしてからのお付き合いだそうで、平松さんがアイデアを出して制作した土鍋もあります。

この帯文を読んだとき、ああ、そうだった、初めて岩井窯に行ったとき、「まだこんな昔ながらの民藝の人がいたんだ」とびっくりしたことを思い出しました。

昔ながらの民藝の人とは、私のなかでイコール「もの狂いの人」です。

琴線にふれたものをなんとしてでも手に入れ、それをただ愛でるだけではなく、ふれて使って、創作の原動力にしていく。そんな人が、いまの時代にもいるんだ。それが岩井窯の参考館に足を踏み入れたときの感想でした。

益子の濱田庄司記念益子参考館に行ったことがある人ならわかると思いますが、ひとりの人間がよくこれだけのものを、とあっけにとられずにはいられない。芹沢銈介にしたって言わずもがな。

柳宗悦も、もちろんそう。柳の文章はいつもキリリと隙がなく、読んでいてほれぼれしますが、蒐集にまつわるエピソードを編んだ『蒐集物語』にかぎっては、ほしいものに対する恋い焦がれるような思い(執着心)が漏れ出ていて、何度読み返してもおもしろい。でもそんな常軌を逸する情熱があったからこそ、日本民藝館にあれだけのものが集結したわけです。

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話をもとに戻して、岩井窯の参考館。入口にはいまも昔も、山本さん手描きの展示タイトルが掲げられています。なかに入ると李朝やヨーロッパの古い調度品に、年代物のやきものやガラス、木工品など民藝館さながらの展示品。壁には絵画や染織品が掛けられ、座ることのできるウィンザーチェアもあり……(写真は、参考館での打ち合わせ時に撮影。考えてみればすごく贅沢です)。

山陰の山あいの地で、年に数回、展示のテーマを考え、ものをひとつひとつ入れ替え、いってみれば“ひとり民藝館”のようなことをやっている。

しんとした参考館のなかで、ほかに人がいないのをいいことに私は展示品を舐めまわすように見ながら、それと同時に「もの狂い」の熱気をびりびり感じていました。

そしてこれはあとからわかったことですが、岩井窯は1990年に、土石流の被害に遭い、窯や工房、そして多くの蒐集品を失っています。

それなのに、こんな場所をつくりあげることができた山本さんとは、いったい何者なのか。知れば知るほど、興味が湧いてきたのでした。


■イベントのお知らせ
『暮らしを手づくりする――鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)刊行記念 山本教行×澁川祐子 トークイベント「自分らしい暮らしってなんだろう」

2019年11月18日(月) 19:30~21:00
於・蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/10387-1908071016.html

*終演後に蔦屋書店から徒歩5分、山本さんの個展が開かれている「SML」にて懇親会があります。房江さんもこの日にかぎり駆けつけ、本にレシピを載せた料理を含め、ちょっとしたお料理を出してくれる予定です。この機会にぜひ。

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