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読書「最新雪崩学入門」 北海道雪崩事故防止研究会編 山と渓谷社 真剣に遊ぶための電子デバイス考察

この本との出会い
1990年代末頃、粉雪斜面を滑る山スキーヤーが増え、雪崩に遭遇する危険が一気にあがりました。同時期に、雪崩に関する科学的な知識・情報を学ぶ講習会などが始まり、セルフレスキューになくてはならない、ビーコン*が普及しました。この本はその頃に購入しました。私が買ったものは1997年の3刷で、発行は1996年。短期間に多くの人がこの本を買い求めたのがわかります。他にいい本はなかったです。山と渓谷さんは、その後も雪崩の本を出し続けています。さすが、山の専門書のリーダーです。
私にとって山登りは、遊びですが、本を読んで知識収集、講習受講、フィールドでの確認と、真剣に学びました。

*雪崩に埋まった人を探しだす専用の送受信機(トランシーバー)
グループで雪山を登山する場合、全員が装着し、埋まらなかった人が埋まった人を探す

ビーコンの現状と技術
技術的には日本でも開発できる商品なのに、今は、国産品はなく、ヨーロッパとアメリカの製品が輸入されて普及しています。
雪崩捜索に特化して、よく考えられた仕様で作られいます。加えて、後々、最新の電子技術を取り入れて改良されてきました。

周波数:AMラジオの周波数に近い457KHz
 ・水(雪)通過時の電波減衰量が小さい周波数が選定されている
  Wifi、BluetoothはGHz帯の電波を利用しており、電波が雪を通過
      する際に大幅に減衰するのでビーコンの代用にならない
 ・AMラジオの周波数に近い構成にすることで、ラジオの設計技術、
      部品を活用できる
 ・捜索範囲(30mぐらい)に対して波長が660mと長く、電波では
      なく磁力線を辿り、発信源(雪崩埋没者)を探す
  電子デバイスからの不要輻射の測定に使う近磁界プローブが原理的
      に近いかなと思います(認識を間違えていたらすいません)、アマ
  チュア無線で遊ぶフォックスハンティングとは違います

オリジナル構成での課題
 ・雪崩に埋没した人の姿勢、ビーコンの装着法で磁力線の輻射方向
      が変わり、捜索が難しくなることがある
 ・複数人が同時に雪崩に埋まると、磁力線の識別が難しい

課題への対応1
 ・複数アンテナ装備
  初期製品はアンナが一つで一方向の磁力線を受信、後に二つのアンテ
  ナを装備(デュアルアンテナ)して直交する二方向の磁力線を二次元
  で分析できるようにした。最新の製品は三つのアンテナを装備して
 (トリプルアンテナ)、直交する三方向の磁力線を三次元で分析できる
  ようにした。

課題への対応2
 ・デジタル技術活用
  受信した磁力線をADCでデジタル化してマイコンで位相、振幅の異な
  る信号を分けて解析している。課題1への対応にもデジタル技術が
  活用されている。

私はアナログのシングルアンテナ機を使ったことがあり、二十数年の間に三機種(デジタルのシングルアンテナ機/デュアルアンテナ機/トリプルアンテナ機)を使ってきたので、対応1/2により捜索が劇的に楽になったのを体験しました。実際に雪崩に埋没した人の捜索経験はなく、あくまで練習・シミュレーションです。

なぜ海外で開発されてきたのか、自分なりに考察
登山者の捜索用のデバイス、”ココヘリ”が日本で開発されて、最近普及してきました。製造には(元?)大手メーカが関わっています。こんな開発がどんどん日本で行われれば、いいなと思い、ビーコンがなぜ日本で開発されなかったのか(されないのか)、考えてみました。

1 海外では、ガイドビジネスを支えるために発展
 ガイド登山では、ガイドに顧客の安全を守る責任があります(もちろん、
 限界はありますが)。海外では、古くからガイド登山が盛んで、顧客を
 守るガイドのビジネスを支えるために、課題があっても初期の製品から
 使われ、日本より早く普及し標準になったと考えます。
 私が最初にビーコンの捜索を習ったのはカナダ人でした。テキストは
 カナダで作られたもの翻訳でした。

2 技術者で遊びに夢中になる人がいる
 ビーコンの市場規模は、小さいです。将来、劇的に市場が広がる可能性
 がなく、開発により、新しい技術が獲得できるわけでもないです。こん
 な状況なので、日本の大きな電子機器メーカが、開発するとはないです。
 日本には、レジャー、スポーツなどの領域で世界レベルの高い技術を持
 っている会社があります。このような会社だと、可能性がありそうです
 が、電子回路の設計はハードルが高いです。
 海外でのビーコンの開発は、誰がやっているのか?メーカの技術者、あ
 るいは大学で電子回路の設計を学んだ人が、趣味の延長でやっているの
 では?なんて想像してます。
 海外の会社では、Goproの創設者が趣味のサーフィンの画像撮影のため
 に、カメラに開発を始めた。プログラム言語のPythonが、有名な研究者
 のクリスマス休暇の宿題で生まれたなんて話があります。
 

参考までに、マムート社のビーコンの内部写真(FCCが公開している情報)
の出どころを書いておきます。

https://fccid.io/ARN-BARRYVOX-S/Internal-Photos/int-photos-3660153
PCB Bootom Viewを見れば、3つのアンテナの関係がわかります


写真1 自宅本棚の雪崩関連の本、他にもある
写真2 本の表紙(著者撮影)


写真3 マムート社のビーコン内部(FCCが公開している情報)


写真4 入山時のビーコン動作チェックの様子、先行する二人の電波が受信できていることを確認


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