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深沢潮「足りないくらし」

深沢潮「足りないくらし」(徳間文庫)。R‐18文学賞出身の著者が、現代社会の歪みをウェットに描き切る。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B08SQTTZ1S/
 明大前駅から徒歩18分のところにある「ティラミスハウス」。その名に全く似合わない見すぼらしい木造長屋。そのシェアハウスに住む6人の女性たち。それぞれが抱える複雑な事情。貧困、生活保護、シングルマザー、ネグレクト、外国人技能実習制度。幸せという言葉から遠く離れた生活を送り、劣等感が身も心にも染みつき、孤独と暮らしている。しかし貧困に喘いでいるため、引きこもるわけにもいかず、社会の底辺を懸命に這いずり回って生きている。
 いったん落ちると抜け出せない格差社会。その原因には、失踪した無責任な親であったり、中国農村部の貧困という弱点を食い物にする日本人など、本人の責任ではない社会的事情も多い。読んでいて彼女たちの悔しさに涙する。中流意識が8割と言われる日本人だが、シングルマザーや外国人留学生には夢のような話だ。規格型社会に沿って生きていられるうちはいいけれど、そこから外れてしまったら後は堕ちてゆくだけ。日本国とは、無関心で構成された社会なのである。「ティラミスハウス」は、日本の矛盾を象徴した場所ではあった。そてでもエンディングに至って、彼女たちの安息地であったことが実感される。けれど彼女たちはまだ若い。時間という未来が可能性を与えてくれる。この先の6人の幸運と再生を祈りたい。
1️⃣樹
留学先のNYから恋人に会いたくて日本に帰ってきた古畑樹だったが、つれない颯太。
2️⃣風香
劇団で俳優の小寺風香。子供の頃から目立たない存在で、劇団でも端役ばかり。
3️⃣さくら
失職してから50数社の面接に落ちた下山さくら30歳は、遂に生活保護を受けることに。
4️⃣ウェイ
中国の農村から出て来た王唯は実習生として養豚場で働くも、豚以下の扱いを受けて逃走。
5️⃣好美
リストラ後DV化した夫と離婚したが、夫と姑に息子・泰斗の親権を奪われた西沢好美。
6️⃣雛
シェアハウスの社員として働く佐伯雛。しかしその仕事にある日思わぬ事件が起こる。

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