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【短編小説】りんごABC

これは、ただのりんごのお話。

ある集落に、美味しいりんごの作り方を発見したある小さな農家がいました。

あまりに美味しいから、その農家のりんごは、従来までのりんごの概念を変えてしまうほどでした。このりんごが発見される前と後では、果物の歴史が二分されるほどでした。
 
 
農家は、あまねく世の人に、この果実を食べて幸せになってもらおう、という一心で、りんごの作り方をひとり占めせず、分け隔てなく学びたい人には作り方を教えました。各地から学びたい者が来て、農家は弟子たちを受け入れました。
 
 
このりんごの栽培方法を受け継いだのは、主に一番弟子から三番弟子までの、A、B、Cの3人でした。最初は美味しいりんごをみんなで広めていこうという一心で農家をはじめたのですが、少しずつ、少しずつ、長い時間をかけて、その美味しいりんごの値段や種類、販売方法は、3つの派から枝分かれしていきました。りんごの味も、品種改良によって、それぞれ少しずつ変わっていきました。
 
 
そのうち、それぞれの農家は、他の派のりんごの悪口やデマを言いふらすようになりました。やれAの農家のりんごには栽培環境が劣悪だとか、Bのりんごは味が安定せず小ぶりなものが多いだとか、Cのりんごは味のわりに値段を釣り上げて一部の金持ちしか買えなくなって民衆が置き去りになっているだとか何とか。


そのうちA・B・Cの農家は、折を見ては直接鍬を持って隣の農家の敷地に土足で踏み込み、農地を荒らすこともありました。
 
 


幾年が経ったでしょうか。りんご農家は思います。元はひとつのりんご農家だったのに。
なんでミサイルが俺の畑を吹っ飛ばすのか、と。

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