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日本一無名な島根が異世界に行ったら世界一有名になった話 16

「これは…どうなっているんだ!?」

誰かが思わずつぶやいた。

県境を挟んで隔絶された世界。
それまで続いていた何もかも、その先にはなかった。
あたかも最初から何もなかったかのように道路は寸断され跡形もない。
瓦礫も、割れたアスファルトすら存在しない。
先ほど土砂崩れによって破壊されたと聞いていた寺山達だったが、とてもそうは思えなかった。

土砂が流れ込んだような跡も見られないし、それによって木がなぎ倒された様子もない。
生い茂る木々はしっかりと根を地面に張って、あたかも最初からそこにあったかのようにふるまっていた。
地を這う草と空を覆う木の葉の間を抜けて、遠くからは聞いたこともない動物の鳴き声が響いてくる。
つい昨日までそこにあった風景の変わりように誰も理解が追い付かない。

「これはいったい何が起こってるんですか?」

寺山が田中にそう聞いた。
だが彼の頭の中にも同じ問いが浮かぶ。
そして少しの沈黙が流れたのち田中は口を開いた。

「…わかりません。いえ、一応土砂災害だということなのですが…。こんなものは見たことありません」
「そう、ですよね…」

一目見るだけでわかる、土砂災害とは無縁ののどかな森。
どう考えてもそんなものが原因なわけがなかった。
だがそうだとしたらなぜこのようなことが起こっているのか、だれも説明がつかない。
それはここでずっと作業している自衛官たちも同じだった。

実際に現場に来てみてようやく、最初に田中にあったとき言い淀んでいた理由がわかった寺山。
形容しがたい惨状、それこそ天変地異というべきであろう事象に遭遇し思わず動揺を隠せない。
いくら災害の多い日本とは言えこのような例は過去に見たことがなかった寺山は、田中に現在の状況を尋ねた。

「地震発生直後からこの場に駆けつけたと聞きましたが、現在どこまで調査が進んでいるんですか?」
「えー、そうですね…。まずこのような事態が発生したのは今日の昼前に発生した地震直後と考えています。車で近くを通行していた目撃者が、地震発生とほぼ同時にあたり一面が霧で覆われたという証言をしているそうです」
「霧?」
「霧…と聞いています。何人か目撃した人がいたようですが、突如として霧、もしくは砂嵐のようなものが発生したとのことです」

霧、という言葉に少し引っかかる寺山。
島根は海と山に挟まれた地形をしているため、秋から冬にかけてたびたび霧が発生する。
だがそれは多くが夜間から早朝にかけてであり、晴天の真昼間になるころにはたいてい晴れている。
ましてや今日は霧になるなどの予報はまったくない。
そんな中でいきなり霧が発生するというのはありえない状況だった。

「土砂災害、というのであれば、流れ込んだ土砂のせいで視界が奪われるということもあり得そうですが、砂嵐というのはそういうことですか?」
「ええ、おそらくそうだと思います。私たちもそう思っているのですが…」
「…土砂災害には見えない、のではないですか?」
「…ええ、まあ、そうですね…」

寺山は皆がうすうす感じているであろうことを問う。
地震によって土砂崩れが起きたとしか考えられないような大規模な地形の変化にもかかわらず、とても土砂が流れたとは思えないような森林がそこにはあった。
本当に土砂災害が原因なのか。
寺山には、この誰も説明のつかない事態のとりあえずの解釈として土砂災害を持ち出しているようにしか思えなかった。


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