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無題:『なんとなく、クリスタル』論(書評/ムック『80’s青春男大百科』より)

『80’s青春男大百科〜なんとなく、
あの熱狂をもう一度〜』
は、

「バブル前夜、
熱狂が支配した時代に
青春を過ごしたすべての人へ」

…というキャッチコピーのもと、タレントのマイケル冨岡さんや元『カシオペア』(フュージョンバンド)キーボーディストの向谷実さん、コラムニストの石原壮一郎さん…ほか、80年代を象徴する人物の貴重な証言──さらには、その時代のカルチャー・アイテム・ガジェットを紹介しながら「バブル景気に突入する直前のころを振り返ること」を主旨とし、「書籍と雑誌の中間」にカテゴライズされるムックとして、
扶桑社から発売されました。
ちなみに、今日ここで紹介するのは──その冒頭文として執筆した、田中康夫さんの処女作にして
大ベストセラーにもなった小説

『なんとなく、クリスタル』

…の書評…の体(てい)をなした、
プロローグ的コラムであります。

パソコンが故障したとき、
データもすべて紛失してしまったので
↑の印刷のスクショをピンチアウトしてご覧ください。

我々のような「バブル世代」一歩手前の世代は、
一般的には

「シラケ世代」

…などと、よく呼ばれますが、まだ60年代に過激化した学生運動のムーブメントを背景とする、いわゆるウエットフォークソング的な世界観の余熱が残っていた “あのころ” の若者たちが、一気にシニカルなニヒリズムへとベクトルを向けた大きなターニングポイントとなった一つが、この「なんクリ」だと、
ぼくは分析しています。

1980年6月のある日。女子大生でファッションモデルの、窓からは渋谷のビル街が見えるマンションに住んでいる<私>は、目覚めてレコードをセットするのも面倒なので、FEN(※極東に駐在するアメリカ軍の軍人とその家族に向けられたラジオ放送。現在は『AFN』と改称)にプリセットしたチューナーの
ボタンを押してみる。
雨が降っているせいで気が滅入ってしまい、午後からの授業をサボることに・・・・。2本目のセーラムに火をつけたとき、とある男性の名前がローマ字で、電話番号とともにマッチの内側に書いてあることに気付く。昨日、ふらっと立ち寄ったディスコで知り合った大学生・正隆で、<私>は「なんとなく」その彼に
電話して、今日のデートの約束をする。
軽く食事や飲酒を楽しんでから、二人は即日ベッドイン。一度きりの肉体関係を結んだ正隆にはステディーがいて、<私>にもそれなりに売れているフュージョン系バンドでキーボードを担する淳一というステディーがいる。そして、<私>と淳一は、浮気も半ば公認し合う「クリスタル」な関係であった。

…と、こんな調子でさしてメリハリもない男女の物語がだらだら続くわけですが(笑)、当時は純朴な
大阪在住の童貞高校生だったぼくなんかは、

「そんな女子大生…
地球上のどこに生息しとんねん!?」

…と、毒づきながらも、尋常じゃない羨望の想い
胸を掻きむしっていた…記憶があります。そして…
そんなバイブル──「洗脳の書」をトリガーにして

「熱血→シラケ」

…へと思想転向を果たした我々世代を踏み台(?)にし、「戦後空前の好景気」というダイナミズムを経て「バブル世代」は、その実体のない

「この世の春」

…を謳歌し尽くしたのです。(※バブル真っ最中のときは、一介の画材屋店員にすぎなかったぼくは、その恩恵をちっとも受けちゃいないんですけどw)

なお、このムック仕事は…ぼくだけで構成とライティングを請け負ったため、100ページ以上にもわたる
原稿も、ほぼゴメス一人で書きました。
納期も厳しく、めっちゃキツい仕事ではありましたが、自由度は比較的高く、世代的にもリアルだったので、どのコラムもインタビュー記事も

「なかなかの出来」

…だと自負しています。もし、少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひAmazonなりで購入して、
読んでみてください(^^)/

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