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【表現辞典】霊石典/名作家の文章〈1〉夏目漱石『私の個人主義』

霊石典

〈おしらせ・索引〉

 この記事は、私が編集している『霊石典』の派生記事です。名作家の作品の中から、『霊石典』収録の言葉が使われた印象的な文章を紹介します。言葉に興味を持つきっかけとして、あるいは、言葉をさらに深く理解する参考として、ぜひ本編の記事とあわせてお読みください。

夏目漱石『私の個人主義』(青空文庫

近頃自我とか自覚とか唱えていくら自分の勝手な真似をしても構わないという符徴ふちょうに使うようですが、その中にははなはだ怪しいのがたくさんあります。彼らは自分の自我をあくまで尊重するような事を云いながら、他人の自我に至っては毫も認めていないのです。いやしくも公平の眼を具し正義の観念をもつ以上は、自分の幸福のために自分の個性を発展して行くと同時に、その自由を他にも与えなければすまん事だと私は信じて疑わないのです。

 夏目漱石は西洋文明をいち早く取り入れた知識人で、明治文壇の重鎮として国民の思想形成に多大な貢献をしました。この文章は、生半可な思考で自我や自覚という西洋精神を振りかざす人達を、とてもわかりやすい言葉でいさめています。
 人間は、他人と他人の間には平等を求めますが、自分と他人であれば、どうしても自分を優遇してしまうものです。漱石のこの文章は、明治時代だけでなく、現代も、そしておそらくは未来永劫、変わらぬ効力を持つのだろうと思います。

 この記事では、[となえる(唱える)]が使われた文章を紹介しました。

 ぜひ、本編の記事もお読みください。


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