【文芸センス】芥川龍之介『トロッコ』①どこがおもしろいのか?
こんにちは、山田星彦です。
今回からの文芸学習では、芥川龍之介の『トロッコ』を題材にして、みなさまの鑑賞や創作に役立つ知識をお伝えします。
『トロッコ』は芥川龍之介の代表作なので、読んだことのある方も多いと思います。まだ読んでいない方は、下部のリンクから無料で読めますので、ぜひお読みください。本で10ページほどの短い作品です。
この作品は内容も分かりやすく、また構成や構造もシンプルであるがゆえ、全体像を把握し、その要点を掴みやすい小説です。小説を書き始めた人や、小説というものを基礎から見直したい人にとって、非常に適した題材と言えるでしょう。
この記事では、『トロッコ』を詳しく読みながら、作品としての仕組みを分析します。
そして、分析を通じて、この作品のおもしろさを理解するだけでなく、「そもそも、小説とは何なのか?」という根源的な問いに対する、シンプルかつ明確な答えを提示したいと思います。
ぜひ、おつきあい下さい。
芥川龍之介『トロッコ』
①どこがおもしろいのか?
あらすじと構成
この作品は、八歳の良平が工事用のトロッコに乗って遠出し、その日の夕暮れ、家に帰ってくるまでを描いた小説です。
読んでいただけると分かりますが、たったそれだけの内容です。
また、全体の構成も簡素で、
【1】工事用のトロッコが良平の家の近くにあった。
【2】トロッコに乗せてもらって楽しかった。
【3】だんだん遠くに来たことが不安になってきた。
【4】一人で帰ることになり、泣きながら走った。
【5】大人になった良平。
と分けることができます。【5】はとてもみじかいので、本編は【1】から【4】とお考えください。
各パートの冒頭は以下のとおりです。
おもしろさ
このように、『トロッコ』は内容・構成ともに簡素ですが、この作品を読んだ我々が、「物足りない」と感じるかというと、決してそんなことはありません。
むしろ、名作の肩書きに違わぬ満足感を、この作品は我々に与えてくれます。『トロッコ』は百年ほど前に書かれたものですから、その時代の厚みを考えてみても、この作品が時代に左右されない、普遍的なおもしろさを携えていることは間違いありません。
では、その普遍的なおもしろさとは、なんでしょうか。読者はこの作品のどこに、おもしろさを感じるのでしょうか。
それを調べるのは、実に簡単なことです。『トロッコ』を読んで、おもしろいと感じたところを上げていけばよいのです。
私は、主にふたつのことをおもしろいと思いました。
まずは、トロッコで山道を疾走するシーンの臨場感です。作中、良平は幾度かトロッコに乗って山中の線路を下ります。その時のスピード感、肌に感じる風の気持ちよさ、そして、移り変わる美しい景色。これらトロッコに乗る爽快感が我々の全身に伝わり、まるで本当にトロッコに乗っているような、或いは、それ以上の気持ちよさを楽しむことができます。
もうひとつのおもしろさは、暗い道を一人で帰らなければならなくなった良平の、心細い気持ちへの共感です。急に見知らぬ場所で一人になった彼の姿には、読んでいる我々までもを、一瞬で不安に沈めてしまう哀れみがあります。また、その後、なりふり構わず来た道を走る良平の姿を見ていると、似たような記憶が甦り、思わず幼少期の自分を彼の姿に重ねるのではないでしょうか。
おわりに
ここで挙げたふたつのおもしろさは、読んだ人の多くが感じることで、あまり目新しい発見ではないかもしれません。ただ、この当たり前のおもしろさをきちんと理解することで、「小説とは何か?」という大きな問いに答えるための、重要なヒントが得られると思っています。
次の回では、『トロッコ』のおろしろさを掘り下げて考えていきながら、「小説とは何か?」という問いに答えを与えたいと思います。
次回もよろしくお願いします。
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