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休養 入浴法その3 温浴

前回水浴のリラックス効果について書きましたが、温浴では更に、湯温によって様々な効果効能が得られます。

34~37℃の温浴は、浸かっていても熱くも冷たくも感じないため「不感温浴」と呼ばれています。
エネルギーの消費量が最も低く、脈拍や血圧、呼吸などに影響を与えないため、長時間の入浴が可能です。
鎮静作用があり、精神障害や心疾患の治療として用いられます。
また、入浴中の運動にも適していて、腰痛や膝痛のケア、脳卒中後のリハビリとして、利用することもできます。

37~39℃の内臓体温に近い「微温浴」では、副交感神経の働きにより心身の興奮を抑え、精神を穏やかにする効果を得られます。
日頃の過剰なストレスによって、不眠や不安症に悩まされている人はもちろん、血圧が下がって心臓の負担が減るため、高血圧症や動脈硬化など、循環器系に問題のある人にも最適な入浴法です。
胃液の分泌を促進する効果もあり、食欲不振の改善も見られます。

39〜42℃の通常家庭で用いられている「一般温浴」には、からだを温める効果があり、適度な発汗と皮膚の洗浄作用が、浴後の爽快感をもたらします。
入浴の3大効果と呼ばれる、温熱効果、静水圧効果、浮力効果がそろって期待できます。
筋肉の緊張が和らぎ、血流の改善やからだの痛みの軽減を感じられます。

42〜45℃の「高温浴」には、交感神経を緊張させる作用があり、体温や脈拍、血圧が上昇し、気分をシャキッとさせます。
昔から日本人は高温浴を好むため、銭湯の湯船は伝統的に、この温度帯に保たれていました。
高温浴を楽しむための伝統的なマナーとして、入浴前に頭から10杯くらいの湯をかぶる「かぶり湯」が推奨されています。

45~48℃の「超高温浴」は、熱いお湯の刺激でカラダに抵抗力を与え、体質改善や免疫機能の非特異的変調効果が狙えます。
湯もみした48℃の湯に集団で3分間入る、草津温泉の「時間湯」が有名です。

日本では高齢者ほど高温浴を好む傾向がありますが、42℃以上の湯に入ることは、高血圧症や糖尿病、動脈硬化症の人にとっては非常にリスキーです。
入浴中の死亡事故は、消費者庁の推計では年間約19,000件に上るそうです。
その内約14,000件が冬場の寒い浴室でいきなり高温の湯に浸かって、ヒートショックを起こすことによるもので、その9割以上を占めるのが65歳以上の高齢者です。
2021年の交通事故死亡者数は、2636人と戦後最小数になりましたが、その数倍に上るお年寄りが車ではなく「湯に当たって」亡くなっているのです。

ヒートショックといえば、細胞内のたんぱく質を保護、修復、処理する役割をしているH S P(ヒートショックプロテイン)という物質が、良い意味合いで最近注目を集めています。
H S Pは通常を超えたストレスを受けることで活性化する、カラダの危機管理システムの一つとして考えられています。
深部体温が38℃以上まで上昇する事で細胞中に増加し、カラダ全体の働きを高めてストレス障害を軽減し、老化防止や免疫力アップにも役立ちます。

日本人の高温浴好きは、H S Pを増やすための知恵だったのでは?とも思われますが、最近の研究では必ずしも高温浴する必要はないようです。
42℃で10分間、41℃なら15分間、40℃でも20分間の一般入浴で、深部体温は38℃となりH S Pが増え出します。
温泉や入浴剤入りのお湯なら、この時間はもっと短縮できますが、入浴後のからだの保温や水分補給も忘れずに心がけましょう。
ヒートショックは避けて、H S Pの恩恵にだけ預かってください。

H S Pは、シャワーでは増やすことができません。
全身を湯に浸すことで、からだの深部までが温まりスイッチオンできるのです。
古来実践されてきた湯治や温泉療法には、こんな深遠な仕組みが隠されていたということです。

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